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(どうしよう、このまま部屋に入ってもいいの?……もし、もしナオミさんがその気だったら、私……で、でもっ、ナオミさんは女には興味ないって言ってたし!)
必死に自分に言い聞かせるけれど、腰を抱く手のひらの熱は、そんな言い訳を軽々と溶かしてしまうほどに熱い。密閉された空間で、二人の吐息だけが重なり、鏡の中の自分たちがどんどん知らない誰かのように見えてくる。
――チーン。
無機質な電子音が、思考を強制的に現実へと引き戻した。
ゆっくりと開いた扉の先には、深いボルドーのカーペットが敷かれた、静まり返った廊下が伸びている。
「……行くわよ?」
ほんの一瞬、ナオミがくすっと笑ったような気がした。
(どうしよう、笑われた……!?)
その余裕たっぷりな響きに、穂乃果の顔はますます火が出るほど熱くなった。自分の動揺を見透かされているような、それでいて優しく弄ばれているような、何とも言えない感覚。
促されるままにエレベーターを降りると、吸い込まれるように深いボルドーのカーペットの上を進んでいく。一歩ごとに、外の雨音が遠ざかり、代わりに自分の心臓の音だけが廊下に響き渡るような気がした。
「着いたわ。此処よ」
チカチカと光るルームランプに導かれるように、扉を開けると暖房の効いた柔らかな熱気が、濡れて冷え切った二人の肌を容赦なく撫でる。
「さあ、入って。いつまでもそこにいたら、廊下が水浸しになっちゃうわ」
背中をそっと押され、穂乃果はよろめくように室内へ足を踏み入れた。背後で重厚なドアを静かに閉めると、ガチャンというオートロックの硬質な音が、密室の完成を告げるように響いた。
広い室内は、落ち着いた間接照明が琥珀色の陰影を作り出し、中央に鎮座する巨大な天蓋付きベッドが、嫌おうなしにここが「悦楽」を貪るための聖域であることを突きつけてくる。
ナオミは濡れたコートを無造作に脱ぎ捨てると、それを壁のフックに掛け、ゆっくりと穂乃果の方へ向き直った。
滴り落ちる雫が毛足の長い絨毯に一滴、また一滴と吸い込まれていく。その小さな音さえも、今の穂乃果には時計の針のように重く聞こえた。
「……そんなに緊張されると、本当に襲いたくなっちゃうわ」
ナオミが一歩、間を詰める。耳元に響く甘ったるい声色が、熱い吐息と共に穂乃果の脳を痺れさせた。
「……っ」
思わず肩を竦めて後ずさるが、背中にはすぐに冷たい壁の感触。逃げ場を完全に塞がれた状態で、目の前には濡れて色気を増したナオミの、抗いようのない存在感。
どうしていいかわからずに固まっていると、ふいにナオミの長い指先が、穂乃果の顎を掬って、ゆっくりと上向かせた。
拒むことも、逸らすことも許さない、優しくも強引な指の力。
視線が絡み合った瞬間、穂乃果の心臓は跳ね上がり、喉の奥が引き攣るように熱くなった。至近距離で見つめるナオミの瞳は、琥珀色のヴェールを被ったように潤んでいて、いつも以上に雄弁に何かを訴えかけてくる。
「ほんっと、見てて飽きないわねぇ。……早くお風呂に入って来なさい」
「えっ?」
あまりにも直球で、それでいてあまりにも「正論」な言葉に、穂乃果は拍子抜けして間の抜けた声を上げてしまった。
つい数秒前まで、ナオミの熱い視線に溶かされ、このまま奪われてしまうのではないかと――いや、どこか心の奥底では、そうなってもいいとさえ思っていた自分を突きつけられたようで、頬が猛烈な勢いで赤く染まっていく。
あや