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王都セラフィナ――朝。
昨夜の影の出現により、聖煌宮の中は騒然としていた。
だが、アリアの部屋はいつも通り、静かだった。
まるで嵐の中に浮かぶ孤島のように。
「……この朝の光は、私だけのものなのかしら」
アリアは窓辺に立ち、カーテンを少しだけ開いた。
外の街並みは穏やかに動いていた。
けれど、彼女の心は、昨夜の“言葉”に囚われていた。
『私は、かつてこの世界に“美しさ”を与えられなかった者。』
あれは、憎しみだったのか、それとも――悲しみだったのか。
その時、レイヴンが扉をノックする。
「陛下。今日の予定は、すべて延期になりました」
「……みんな、恐れているのね」
「はい。“影の煌”を目撃した者たちは、“悪しき予兆”と騒いでいます」
アリアはしばらく黙っていたが、やがて口を開く。
「レイヴン。王都の外を、見に行きたいわ」
「……陛下……?」
「私は、この世界のすべてを見ていない。
このまま“守る”だけでは、誰も救えない気がするの」
レイヴンは、驚いたように黙り込む。
だがその瞳には――微かに、“希望”が浮かんでいた。
「では、準備いたします。……私と、二人きりで」
「ふふ。まるで“逃避行”みたいね」
アリアが、ほんの少しだけ微笑んだ。
***
それから半日後。
アリアは「名前」を隠し、ただの“白衣の旅人”として、王都を離れた。
煌の階級も、王の権威もない世界。
そこに広がっていたのは――“霞の街”。
煌を持たぬ人々。
名前すら与えられず、記録にも残らず、ただ生きている者たちの町。
誰もが俯き、目を合わせない。
笑い声も、音楽もない。
ただ、淡い霧の中に、影のような子どもたちが消えてゆく。
「……ここが、“煌の届かない場所”……」
アリアは、その光景に言葉を失っていた。
「陛下。ここに来たのは……正しかったのですか?」
レイヴンが、静かに尋ねる。
アリアは小さく頷いた。
「知らなかった。私の治めている世界に、こんなにも“色がない場所”があるなんて……」
その時だった。
霧の奥から、かすかな声が聞こえた。
「……たすけて……!」
アリアは即座に走った。
白衣が風を切り、レイヴンがあとを追う。
霧の中――
倒れていたのは、一人の少女だった。
年齢は10歳ほど。
髪はボサボサで、服は破れ、手足は痩せ細っていた。
けれど、彼女の胸には、かすかに煌が灯っていた。
「……っ! 彼女、煌を……!」
「でも……この波長……おかしい。まるで“正反対の煌”……!」
アリアは迷わず、その少女に触れた。
そして、その瞬間――
少女の目が開いた。
その瞳は、深い赤。
まるで“怒り”を結晶化したような、灼熱の輝き。
「……アンタ、“煌王”でしょ」
「――っ!?」
「アンタたちが私たちを“霞”って呼ぶから、こうなった。
私の煌は、アンタのせいで“歪んだ”のよ!!」
ドンッ!!
突如、少女の体から異常な煌が放たれる。
爆発的な熱量。
周囲の空気が捻じれ、地面が焦げた。
「これは……“破煌(はこう)”……!? 正常じゃない……!」
レイヴンが剣を抜く。
「陛下、下がってください!彼女は、もう“子ども”では――」
「だめ、レイヴン!! 剣を向けてはダメよ!!」
アリアが叫ぶ。
その声に、少女の煌がピタリと止まった。
「……なぜ。なぜ斬らないの……」
アリアは、少女の手を取った。
「あなたが苦しんでいたのなら、それは私の責任よ。
この世界を創ったのは――私なのだから」
少女の目に、一筋の涙がこぼれた。
「わたし……名前、欲しい……」
アリアはそっと微笑んだ。
「じゃあ、私があげる。
あなたの名は――“リネア”。
“夜の光”という意味よ」
少女――リネアは、小さく頷いた。
その瞬間――
アリアの背後に、“影の煌”が浮かび上がる。
「ようやく見つけた。
煌王よ……お前が“名前”を与えた者から、世界は崩れてゆく」
そして、再び世界が軋み始めた――。
👑To be continued…👑