公園の奥にある、樹々に覆われた隠れ家のような落ち着いた佇まいのレストランを訪れた──。
席に着いて、ディナーコースを愉しんでいると、
ふいに、客席の明かりが落とされた。
なんだろう……と思っていると、
「上を見てください」という彼の声が聴こえた。
言われるままに目を移すと……そこには、天井いっぱいに煌びやかなプラネタリウムが投影されていた。
「うわぁー……」
星空の美しさに目を見張っていると、
「ここは、こうして数回プラネタリウムが映し出される趣向なんです」
そう彼が話して聞かせてくれた。
「……素敵……先生の別荘で見た、あの星空を思い出します」
「……ええ」返事とともに、互いの顔もよく見えない薄暗い中、探るように伸ばされた彼の手が私の手を握った。
「あっ……」と、握られた手元を見ると、
彼の手首に嵌った金属製の腕時計が、暗い中で青く発光していて、
目を凝らして見ると、その時計はコバルトブルーの文字盤に天の河と星とが細やかな細工でキラキラと施されていた。
「時計にも、星が……綺麗」
デザインの美しさに見とれていると、
「この時計が、気に入りましたか?」
と、彼に訊かれた。
……瞬間、パッと点いた照明に、目をしばたいていると、「してみますか? 私の時計を」と、腕からカチャリと腕時計が外された。
男性用の太い金属のベルトが留められると、さすがにちょっと重たい感覚があって、
「……綺麗だけど、私には大きすぎるかも……」
手首にぶかぶかな腕時計に、彼の手の大きさを感じながら言うと、
「では、同じデザインの女性用のペアを買いましょうか?」
そう彼に返されて、「そんな…いいですから」と、慌てて腕の時計を外した。
盤面に星々が美しく散りばめられたその腕時計は、簡単に買えるような物には見えなくて、
「本当にいいんで」
と、もう一度念を押すように口にして、彼の手に返した。
「私が、プレゼントをしたいんです」
彼が時計を腕に嵌めて、収まりを確かめるように手首を振る。
そんな些細な仕草にさえ、目が奪われてしまう。
「……同じ時計で、同じ時間を過ごしたい」
腕時計を嵌めた片手で首筋がぐっと引き寄せられて、そう囁きかけられると、
嬉しさが胸を込み上げて、「はい…」と小さく頷いた。
「ありがとう……。今度、プレゼントをしますので」
握られた手に目を落とすと、秒針が時を刻んでいて、これからこの人と同じ刻を過ごしていくんだという実感が改めて胸に湧き上がった……。
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