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「本当に、ありがとうございました」
「良いんだって、人質……まさか、ウルラの婚約者だったなんて知らなかったし……」
あれから紆余曲折あって、ウルラの婚約者だった令嬢が人質として捕まっていたことを知って、助けて解放して……そうして今にいたるわけだが、ウルラには深々と頭を下げられた。そんなに感謝されることしたという自覚はなかったが、その様子から、ウルラは大切な人がいたんだと分かり、完全にこの間の話は白紙に戻った。
「すみません……」
「じゃあ、お母様が見合いの話っていってたのは……それを利用したって事?」
「はい……そういう指示でした」
バカみたいに正直に話すので、面食らったが、ウルラはもう安心しきっているのか、自分が命令されていたとはいえ私の命を狙ったこと何て忘れてそう白状した。まあ、この前に連行されていって質問攻めに遭っていたみたいだし、もう変な行動は取れないだろうけど。
(そりゃあ、大切な婚約者がいるのに、私とじゃあねえ……)
私も乗り気じゃなかったけれど、一番乗り気じゃなかったのはウルラだろう。そう考えると可哀相な気もしてきた。同情もする。
それに、私を殺したら皇族達から目を付けられるのは分かっていただろうに婚約者を守る為に身体を張ったと考えれば、男気があるんじゃないかとも思った。自分の事は捨てて、婚約者の命のために……男気がないとか、男性らしくないとか思ったが、そこは撤回させて貰うとしよう。
でも、私の好みではない。
値踏みをしている訳ではないが、多分一緒にいても価値観が合わなかっただろうし。
「そう……まあ、貴方が幸せならいいかな」
「ステラ嬢は本当に優しいんですね」
「優しくなんか……ない、と思う」
本当のことをいえば、私は彼のことを助けようと思っていなかった。
偽物と戦っている最中も、ウルラが偽物側でノイ達に危害を加えたら……そう思ってヒヤヒヤしていたぐらいだから。私はよほど人が信じられないらしいから。でも、ウルラにいわれて嬉しかったのは嬉しかった。
(まあ、それはさておいて……ウルラの婚約者が消えたのは、ナーダとお茶会をした日だって聞いて引っかかるのよね……)
ナーダのマウント癖というか、大勢で弱い令嬢をおとしめるというのはよく聞いた話だ。私は、その枠に入っていないけれど嫌がらせはされる。なら、私以外の令嬢はもっと酷い目に遭っているのだろう。ナーダ嬢は一応爵位の高い貴族のご令嬢でもあるし。
(もし、ナーダと関わりがあったら?)
私はウルラに別れを告げて一旦公爵邸に帰ることにした。
すぐさまこの話が皇宮の方にまわって、ユーイン様は皇宮の方へいってしまったわけで、私はノイと二人で馬車に乗る。ノイは怪我がないといっていたため、こっちも一安心だ。
「ノイ、どう思う?」
「……ナーダ令嬢が関わっているのは確かだと思います。ステラ様が考えるように、ナーダ令嬢とのお茶会の時、大蛇を庭にはなったのは偶然ではないでしょう」
「放ったっていっちゃってるからね……ノイが」
ノイはコクリと頷いた。
この間から引っかかることといえばそれなのだ。
ナーダ令嬢達にはあの大蛇は襲い掛からなかった。私だけをターゲットにしてきた。そういう風に捉えられても可笑しくないと思ったのだ。けれど、彼女本人に聞こうにも、きっと話してくれないだろうし、馬鹿にされるかも知れない。後者は良いが、疑われている以上家に上げない可能性もある。
まだ、ナーダ令嬢が主犯格とは確定していないし、様子を見るほか無いけれど。他にも問題は山積みだ。
「偽物はどうなったの?」
「ステラ様お察しの通り、転移魔法を使って逃げた可能性があり、今は捜索中のことです」
「まあ、あれだけユーイン様に似せていて、魔力量も凄かったし……」
偽物は、本物のユーイン様の最後の攻撃の際、避けきれないと悟ったのか転移魔法を使って逃げてしまったらしい。今、帝国中を探し回っているみたいだが、見つかっていないようだ。まあ、まだ捜索して三時間ほどだから分からないわけじゃないけれど。
「……はあ」
「ステラ様、帰ってゆっくり休みましょう。問題の方は、皇宮や公爵様に任せればいいと思います」
「でも、当事者だし」
「変に首を突っ込んで痛い目を見るのはステラ様ですよ」
と、ノイはビシッと言った。
私は悪運が強いし、今までなんとかなってきたから大丈夫だと過信している節はある。しかし、今回はそんな甘い考えでは駄目な気がした。私のせいで、他の人に迷惑をかけてしまうなんてあってはならないことだ。けれど、巻き込まれ体質だとも言われてきた。
(また、あんなことがあったら……今度は、ユーイン様やソリス殿下が助けてくれるか分からないし)
どうなるか分からない。これまで何とかなってきただけで、何とかならないことだって考えられる。
ユーイン様が攫われたときはソリス殿下が、そして今回はユーイン様が助けてくれた。私は大人しく引き下がって馬車の中でぐったりした。
「それで、ノイ、ユーイン様はあれからどうなったの?」
「まだ、何も連絡が来ていないので」
「でも、本物だったよね。大きなユーイン様」
「言い方がどうかとは思いますが……はい。偽物を撃退したのは本物のユーイン様だと思われます」
「だよね……」
確かに私を助けてくれたのは本物だった。
けれど、すぐに私の目の前から姿を消して、消したかと思えばあの小さなユーイン様が私を見上げていて……
(本当に意味が分からない)
疲れすぎて、頭も回らなくなってきたので、そのまま私は寝ることにした。私の頭で考えても仕方がないと思ったからだ。
「ノイ、ついたら起こして」
「分かりました」
「待って、矢っ張りコルセットどうにかしよう。痛くて眠れない」
先ほどまで忘れていたが、コルセットは今もギュッと締め付けられたままだった。カーテンを閉めて、私はノイにコルセットを緩くして貰おうと思った。麻痺も完全に抜けて動けるようになったが、火球にやられたり、擦り剥いたりして結局今回もドレスは散々なことになってしまった。しかし、今回は起きた事件が事件なのでさすがにお咎めは無いものだと思っている。あったら絶縁してやろうかとすら考えているのだから。
ノイは仕方ないといった感じに立ち上がって、私が座っている向かいの席に移動した。
それから、私の腰のあたりに手を当てた。すると、みるみると痛みが引いて楽になっていくのを感じた。まるで魔法みたいだ。コルセットが呪縛といっても良いほどに。
「これで、楽になるとは思いますが、帰ったらすぐにお風呂と着替えを用意しますので……って、もう寝てるんですか。ステラ様」
ノイの言葉何てもう聞えないぐらいに私は夢の中へと意識を飛ばしていた。
そんな馬車の中で、私はとあるあ懐かしい夢を見ることとなった。