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「――姫紀っ!」
幸人は少女へと駆け寄り――そしてその両腕で、包み込むように抱き締めていた。
「わぁ! ちょっと苦しいよお兄ちゃん……」
突然の事に少女は嗚咽。だか幸人の腕の中でなすがまま。
「どうして……どうして来たんだ!? どうして……」
まるで確認するように反芻。
「どうしてって、お兄ちゃんに逢いに来たんだよ?」
少女はそれの何がおかしいの――と、幸人の腕の中で目を“きょとん”とさせている。
「でも……でも! 俺にはお前に逢う資格は無い……。ごめんな姫紀……お兄ちゃんが不甲斐ないばかりに……お前をっ――」
それは夢か現か――。
幸人が何を言っているのか、皆目分からない。
ただ確かに、この姫紀という少女は此処に居るのであって――。
「俺はお前をっ……」
少女を抱き締めたまま、幸人は何時の間にか涙を流していた。
それは久々の邂逅という念ではなく。
“彼女への積年の想い――そして焦燥感”
「大丈夫だよ……お兄ちゃん」
すっかり脱力してしまった幸人へ、今度は少女の方がその小さな胸の中に、幸人を優しく抱き締めていた。
「お兄ちゃんはとても優しいから……。ずっと苦しんできたんだね? お兄ちゃんは間違ってないから――」
幸人と少女の間に何があったのか。
肉親関係? はたまた――
「何時も私を見守ってくれて……ありがとう」
少女の感謝の気持ち。
「うぅ……」
彼女の温もりとその言葉で、幸人は泣いた。十余年振りに男泣きに泣いた。
自ら選んだ道が正しくないとしても――
“それが自分に課した業だから”
それでも幸人は、溢れる涙が止められなかった。
こんな気持ちになったのも、何年振りだろう――と。
“例え夢でも幻でいい。このまま……”
「大丈夫だから……“ボクはずっと幸人お兄ちゃん”の傍に居るからね」
「――ってオイ!?」
ふと現実へと戻された。
少女の小さな胸へと埋めていた幸人は気付き、即突き放しに掛かる。
「ちょっとぉ……幸人お兄ちゃん?」
突然の引き離しに、目をきょとんとさせている少女はオッドアイ――紛れもなく悠莉だった。というより、元から悠莉だったのだが。
「使ったな使ったな!? あの力を俺にっ――」
“メモリアル・フェイズ・メタモルティ ~深層侵慮思考鏡界”
幸人は彼女の力に、見事に騙されていたと言う訳だ。
だが幸人はその力の根底を、何度か垣間見てる訳だから騙されよう筈がないのだが、それでも今の間際まで全く気付いていなかった。
理屈ではない。悠莉は人の心を映し出す鏡。分かっていても、決して抗えない。
「だってジュウベエに聞いたんだもん……。幸人お兄ちゃん、何故か何時も辛そうにしてるし……」
とは言え、悠莉は悪気があった訳でも、ましてや悪戯のつもりでもない。
バツの悪そうな悠莉の背後。部屋の片隅でそろりと逃げ出そうとしているジュウベエ。
「ジュウベエぇっ! お前なぁ――」
幸人は矛先をジュウベエへと向けた。
「余計な事は言うな!」
その口調の荒さから、かなり本気でお怒りの模様。
誰にでも触れて欲しくない、心に閉じ込めた想いがある。
悠莉の力は、それらに楽に触れる。その事で幸人は大人気なくとも、行き場の無い憤りをぶつけているのだ。
「まっ……待て待て! お嬢もオレも、悪気があった訳じゃないんだ」
逃げ遅れた感のあるジュウベエは、片隅でしどろもどろに言い訳を始める。
“ちとやり過ぎたかな……”
ジュウベエとしても、これだけ“本心”から憤りを見せた幸人を見るのも、随分と久方ぶり。
計画失敗――。
幸人に“過去の戒め”が、少しでも和らげれば――という。
ジュウベエも流石に浅はかだったと、頭を項垂れて反省するしかない。
“やはり無理なのか……”
それでも――やりきれない想いで一杯だった。
「やめて幸人お兄ちゃん! ジュウベエを叱らないで……。ボクが悪いんだ、ボクが勝手な事を……」
シュンと項垂れるジュウベエを庇うように、悠莉は幸人へと懇願。
「幸人お兄ちゃんが少しでも……楽になってくれたらと思って! ごめんなさ~い――」
悠莉は悪戯したかった訳ではなく、幸人を救いたかったのだ。決して心の内を明かさないそれに。自分の力で。
しかし結果は逆効果に終わる。
悠莉のそのオッドアイからは、等しく大粒の涙が溢れ――堪えきれず両手で顔を覆い、泣き出してしまった。
兄に叱られて拒絶された妹。どうしたらいいか分からない幼子のように。
幸人は目の前のか弱い姿に、心底自分が嫌になっていた。
己の、その弱さに――
“また悲しませるつもりか?”
これでは何も変わらないではないか――と。
気付けば幸人は悠莉をその腕に――その胸に抱き締めていた。
「幸人……お兄ちゃん?」
それは先程の少女としてではなく、明らかに悠莉として――己の意思で。
その胸に抱かれた悠莉の嗚咽も止まる。
「ごめんな悠莉……。俺は……馬鹿だ。自分の弱さをお前達に当たってしまった……」
「うん……でも、でも!」
自分を責めようとする悠莉を幸人は更には強く、でも優しく抱き締めて――
「いいんだ……久々に逢えて嬉しかった。ありがとう」
それは幸人が初めて、他人に心を見せた瞬間。
“もう迷わない。見るべきは現在(いま)――”
過去は変えられない。在るのは、今この場の現在だと。
「幸人お兄ちゃん……」
幸人の心に触れ、ようやく悠も笑顔を見せた。
涙混じりながらその表情は、可愛い迄に――綺麗だった。
「本当に……ボクにそっくりだったんだね」
胸の中で呟くそれは、己が映し出した少女の事。
「ああ……。でも悠莉は悠莉だ」
悠莉は聞かない。そして幸人も話さない。
かつて二人の関係に何があったのか、分かっている筈だから。
“めでたしめでたし……かな?”
抱き合う二人を見たジュウベエは、ホッと喉を撫で下ろす。
幸人が“あの時”以来、初めて心を見せてくれた――と。
「お熱いとこ悪いがお二人さん? 依頼が来てるぜ」
水を差すジュウベエのその単語に二人は目を見合わせ、同時にパソコンへと視線を向けていた。