テラーノベル
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とある日のこと。楽屋の空気はいつも通りに流れている。
今日も今日とて、太智が動画を見ながらケラケラと笑い、勇斗は一緒にその動画を楽しんでいた。
その喧騒から少し離れたソファの端だけは、まるで別の結界が張られているかのように甘やかで静かな空気が流れていた。
柔太朗と舜太がぴったりと身体をくっつけて座っている。
舜太がスマホの画面を差し出すと、柔太朗が嬉しそうに目を細めてそれを見つめ、二人はお互いにしか聞こえないような小さな声で囁き合う。
そんな二人の様子を、少し離れた椅子に座る仁人はどこか落ち着かない気持ちで見つめていた。
胸の奥が、チリチリと細い針で突かれたように痛む。
勇「仁人、何ぼーっとしてんだよ?」
背後から不意にかけられた声に、仁人はビクリと肩を揺らした。
振り返るよりも早く、太い腕が首に回される。
自然な動作で肩に置かれたその掌は、嫌になるほど馴染んだ熱が伝わってきた。
仁「……なんでもない。ちょっと、次のツアーのセトリのことで考え事」
勇「嘘つけ。セトリとは全然違うページ開いてるじゃん」
勇斗はニヤニヤしながら、仁人の顔を覗き込んできた。
その距離が近すぎて、仁人は思わず身を引いてしまう。
勇「柔太朗たちのこと見てたろ」
耳元で他人に聞こえないギリギリの音量で低く囁かれる。
その声の響きだけで、夜の記憶が脳裏をよぎり、仁人は耳の裏が熱くなるのを自覚した。
勇「あいつら、付き合って結構経つのに、まだキスしかしてないらしい」
仁「え?本当に?」
思わず大きな声を上げそうになった仁人の口を、勇斗が慌てて手で塞ぐ。
勇「声デカいって。あいつらに聞こえるだろ。」
少し離れた席でスマホを弄っていた太智が、こちらの騒ぎに気づいて不満げに顔を上げた。
太「なんやお二人さん、コソコソ怪しいなぁ。」
仁「怪しくないわ!勇斗が急に口塞いできただけだって!」
仁人は慌てて勇斗の手を振り払い、平静を装って声を張った。
太「はいはい、お熱いことで。どうせまた、YouTubeの企画の話か何かでしょ。」
太智はつまらなさそうに鼻を鳴らすと、また自分のスマホの画面に目を戻した。
仁人が一難去ってホッとしたのも束の間、今度はソファの方から、またしても甘い声が鼓膜を震わせる。
柔「ねぇ、今日この後家来る? 新しいゲーム買ったから、一緒にやりたいなと思って」
柔太朗が舜太の袖口をきゅっと掴みながら上目遣いで告げる。
その仕草は付き合っている恋人同士の特権のような、純粋な甘えに満ちていた。
舜「まじで!行く! 夕飯は…俺が何か作ったろか?」
柔「え、ほんと? 手料理食べたい。じゃあ、この後一緒にスーパー寄ろう」
舜「うん! 決まりやな!」
楽しそうに笑い合う二人を見て、仁人は胸の痛みを隠すように、手元の冷めきった珈琲を一口飲んだ。
仁(あいつらはちゃんと付き合ってて、お互いのことが好きで、大切で……俺と勇斗は…。)
始まりは単なるノリだった。
忙しい日々の中、互いに溜まっていた時期に、どちらからともなく手が伸びた。
一度身体を重ねてしまってからは、その心地良さに抗えなくなっていた。
きっと身体の相性というやつは抜群なのだろう。
それ以来、夜になればどちらかの部屋を行き来し、貪るように身体を求め合う。
でも、そこに付き合うという言葉はどちらからも出てこなかった。
勇斗が「もう終わりな」と言えば、それで簡単に切れてしまう、脆くて不確かな曖昧な関係。
仁人は傷を抉られるような、複雑な表情を浮かべて、二人をただ呆然と見つめていた。
そんな仁人の横顔を、勇斗は深い瞳で見つめる。
その瞳の奥にある感情に、仁人は気付くはずもなかった。
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