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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第73話 〚完全管理〛
――担任視点
夕食後の廊下は、
一見するといつも通りだった。
生徒たちの笑い声。
部屋に戻る足音。
修学旅行らしい、浮ついた空気。
……けれど。
私は、
違和感を拭えずにいた。
(今のは、
偶然じゃない)
さっき、
目に入った光景。
澪に声をかけた真壁。
その直後に前に出た海翔。
そして、
周囲の生徒たちの
一斉に張りつめた空気。
——あれは、
「冗談」で済ませていい場面じゃない。
生徒同士の距離感。
空気の読み違い。
それ自体は、
中学生なら珍しくない。
けれど。
(“止める側”が、
すでに動いている)
そこが、
一番の問題だった。
海翔は、
感情的じゃない。
冷静に、
線を引いた。
つまり——
危険を
“予測している”。
それは、
教師がするべき役割に、
近い。
(……ここまで来たら、
任せきりにはできない)
私は、
廊下の端で立ち止まり、
名簿を見直した。
部屋割り。
配置。
移動経路。
頭の中で、
今夜の動線を
全部組み立てる。
・見回りは増やす
・部屋間の行き来は禁止
・自由時間は短縮
・教師は必ず
要所に立つ
——管理。
少し、
厳しすぎるかもしれない。
でも。
(“何も起きない”ためには、
やりすぎなくらいでいい)
澪の表情を思い出す。
怯えてはいない。
けれど、
安心しきってもいない。
あの子は、
「守られている」ことを
もう自覚している。
だからこそ、
大人が
線を越えさせてはいけない。
一方で——
真壁恒一。
彼は、
自分が拒絶されている理由を
まだ理解していない。
いや。
理解したくない、
のかもしれない。
(悪意がないから、
安全とは限らない)
それを、
私は何度も
見てきた。
「先生」
声をかけてきたのは、
引率の先生だった。
「今夜、
少し空気が変ですね」
私は、
小さく頷く。
「ええ。
今夜は“完全管理”でいきましょう」
そう告げた瞬間、
自分の中で
覚悟が固まった。
生徒たちの自由より、
安全を取る。
不満が出てもいい。
「厳しい」と言われてもいい。
——後悔するより、
ずっといい。
廊下の向こうで、
澪と海翔が
部屋に入っていくのが見えた。
距離は、
保たれている。
守る側と、
守られる側。
でも、
その境界線を
見張るのは——
今夜は、
私たち大人の役目だ。
私は、
巡回表に
赤ペンで丸をつけた。
「今夜は、
何も起こさせない」
そう、
心の中で
静かに言った。
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