こちらの質問を受けた彼女が、困ったような表情を浮かべて口を開く。
「私もよくわかってないというか……何が起きたのかもいまいち把握しきれてないとこあるんだけどさ」
彼女は少し躊躇いながら言葉を続ける。
「君が目を覚まさなくなってからのことはよく覚えてるよ。それで、君のお母さんと一緒に病院に行って、先生とか看護師さんたちと話し合って、それで……」
とりあえず、僕は今の状況に至るまでの経緯について、ありのままのことを彼女に話した。
しかし、彼女は僕の話を途中で遮ってこう言った。
「えっとね……私もさっき目が覚めたばっかりなんだよねー」
ということはつまり、彼女もまた僕と同じように、意識不明の状態で長い時間を過ごしていたというわけだ。まぁ、同じ夢を見ていた可能性もあるけど、それはひとまず置いておこう。それよりももっと重要なことがあるはずだ。
「……ちなみに聞くんだけど、ここはどこ?」
恐る恐る質問する。すると、彼女はあっけらかんとした表情を浮かべながらあっさりと答えた。
「んーと、天国!」……なんとなく予想はしていたが、やっぱりそうなったか。まさか、死後の世界なんてものがあるとは思わなかったけれど、この状況を見れば納得せざるを得ない。それにしても、天国というのはずいぶんと殺風景なところだ。見渡す限り、雲一つない青空と地平線が見えるだけだし、他には何もない。
「あ! あともう一つだけ聞いてもいいかな?」
今度は何だろう。
「うん、別に構わないけど……」
すると彼女は少し躊躇うような素振りを見せながらも、意を決したように口を開いた。
「えっとねー、わたしが神様になってあげるって言ったんだよ」
何言ってんのこいつ。
「えへへ~♪」
嬉しそうだなあオイ!
「ねえねえ、これ見てよ!」
と言って、いきなり紙を手渡してきた。そこには、「あなたは死にました」「これから生まれ変わります」「次の人生では幸せになれますように」などと書かれていた。要するに、よくあるお祈りの言葉が書かれた短冊みたいなものだった。
「なんなんだこれは?」
「お願い事を書く紙だよっ☆」
ああ、なるほど。確かに願い事は必要かもしれないけどさぁ……。
もっと他に書くことあるだろ?例えば名前とか住所とか生年月日とか家族構成とか趣味嗜好特技とか好きな食べ物嫌いなものとか初恋の相手とか初体験の経験人数とかスリーサイズとか身長体重BMI指数座右の銘モットー信条信念血液型性格判断星座相性占い誕生日占いバイオリズム恋愛運金運仕事運ラッキーアイテムetc.etc……などなどなど。
まあそんなわけで、色々とあったけど何とか生き延びてここまでやってきました!いやーマジヤバかったわ~ホント死ぬかと思ったね!あっぶねぇーって話だよ全くよぉ!! おっと、失礼。ちょっと興奮してしまったようだ。
ともかく何があったのか思い出さなければ。確か、いつも通り大学の講義を終えてアパートへ帰ろうとしたはずだ。ところがそこで突然謎の男が現れて―――そうだ、その男がいきなりナイフを取り出したかと思うと、こちらに向かって襲い掛かってきたんだ。それから自分は必死に逃げ回っていたが、ついには追い詰められてしまい、ついに刺されてしまった。その後はもう意識がなくなって……おそらくそのまま死んだのだと思う。つまり今現在の状況は死後の世界ということになるのだろうか?それにしてはあまりにも殺風景すぎるような気がするが……。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!