目を剥いたラスティは魔王のような黒づくめの男よりも、布一枚を巻いただけのわたしの方がよっぽど不審者に見えるらしい。
わたしがあられもない格好をしているので、わたしに代わりラスティがこの場を取りなしておくから、とにかく早く服を着てこいと低い恐ろしい声で言われる。
ラスティが魔王化している。
ふたりから少し離れたところでいそいそと騎士服を着る。
その間、ラスティと魔王のような格好の男はボソボソと小声で話し合っていた。
その後は、野営場所に戻るまでずっとラスティにすごく怒られた。
もう、まるでわたしの母のように小言が止まらない。
それだけ心配をしてくれたんだろうとありがたく感じながらも小さくなっていると、なぜか一緒についてくる魔王のような格好の男がクスクス笑っていた。
「ねぇ、ラスティ。わたしにもわかるように説明して!なぜ、この人と一緒なの!」
ラスティはさっきの大きな布をわたしに投げ渡してきて、風邪をひくから早く髪の毛を乾かせとうるさい。
そして、ずっとなにかを考えている。
魔王のような格好の男は、ラスティに指示されたのか一緒に野営場所までついて来た。そして、何事もなかったようにわたしとラスティと一緒に火を囲む。
ラスティはまだなにかを考えているようだった。わたしに相談してくれてもいいのに。
魔王のような男は聞いてもいないのに、勝手に自己紹介をはじめた。
「俺の名はクリス。隣国マッキノンから来た。元々はこのニコラシカの国民だ。仕事で3年ほど隣国マッキノンにいたんだが、事情があって仕事場を抜け出して、いまに至る」
魔王のような格好の男は、こちらが知りたいことを端的にはっきり答える。
魔王のような格好の男はクリスという名前らしい。
ニコラシカでは何代か前の賢王と言われた王の名前なので、あやかって名付けられる人が多く、そう珍しい名前でもない。
「明日、この方…この人と一緒にネグローニに戻る」
ラスティがチラッとクリスを見て、面倒ごとに巻き込まれたと言わんばかりに手でこめかみを押さえながら困り顔だ。
ネグローニにはガフ領で1番大きな都市であり、そこには騎士団も居城もある。
「そうなのね。クリスだっけ。わたしは「シャン」と呼ばれているの。よろしくね」
焚き火で照らされるクリスは、フワッとした黒髪で眉目秀麗という言葉がぴったりな綺麗で端正な顔立ちだ。
年齢も少し年上ぐらいだろうか。
「もう聞いていると思うけど、彼の名はラスティ。騎士団に所属していて、わたしとは同期なの。わたし達はガフ領の騎士だけど、明日はネグローニまでラスティとわたしでクリスの護衛をさせてもらうわね」
騎士は国民を守るのも仕事のひとつ。
クリスはうれしそうに頷いてくれた。
「ありがとう。ここで優秀な騎士様に出会えて本当に良かった。地面で寝るのが怖くて木に登って寝ていたんだが、泉で騎士様に会えて俺は運が良いな」
わたしを見ながら、微笑むクリスの瞳を見て、既視感を覚えた。
(????どこかで?)
こんな眉目秀麗な男性を一度見たら、忘れる訳がないわね。
きっと気のせい。
ふと、久しぶりに元婚約者のペイトン様をなぜか思い出した。
ペイトン様は金髪の美男だったけど、このクリスは真逆な雰囲気の美男ね。
「今日、国境付近を偵察しましたが、隣国マッキノンの兵がなにかを探している様子だったのはクリスが原因ですか?」
ラスティが真面目な顔でクリスに問う。
「間違いないと思います。俺の仕事場は少し込み入った事情がありましたので、抜け出した俺を探していたんでしょう」
「そうですか。クリスには申し訳ないですが、ネグローニの騎士団の詰所で少し事情を伺うことになると思いますがよろしいですか?」
「もちろん。協力するつもりです。こちらこそ、よろしくお願いします」
なにか、事情がありそうなクリス。
でも、ここで問い詰めてもまた同じ話しを詰め所でもしてもらわないといけないことになる。
事情を聞きたいがそれはわたし達の仕事ではない。
夜明け前には出発をすることで話がついた。
3人で焚き火を囲んでゴロッと寝転ぶが、誰も一睡も出来なかった。
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