テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第二十八章
旅立ち
―待ち伏せ―
「行ってきまーす!」
琥珀は神殿の前に並ぶ神官たちへ向かって、大きく手を振った。
「どうか、お気をつけて。四神さま方のご加護があらんことを……」
神父は旅立つ四人の背中を見送りながら、祈るように呟く。
まだ幼い少女たちに、この世界の命運を託さなければならない。
その現実に、大人である自分たちの無力さを痛感し、神父は申し訳なさそうに目を伏せた。
だが、すぐに穏やかな笑みを浮かべる。
「さあ、皆さま。朝のお勤めの始まりですよ」
神父の声に神殿の者たちは静かに頷き、それぞれの持ち場へと戻っていった。
◇ ◇ ◇
「それにしても……昨日の神父さまのお話には驚きましたね」
錫杖を胸元で握り締めながら、詞葉がぽつりと呟く。
「そうね……邪神が、四神さまと同じ立場の神だったなんて」
蒼紫は静かに頷きながら、周囲へ視線を巡らせた。
「どーしたの? 蒼紫」
琥珀が首を傾げる。
「……ねえ、羅刹さん。この辺り……静かすぎない?」
その言葉に、羅刹も足を止めた。
「言われてみれば……この時間なら、小鳥のさえずりが聞こえてもおかしくありません」
朝日は昇り始め、空は十分に明るい。
それなのに。
風の音さえ、不気味なほど聞こえなかった。
「……っ、まさか!」
羅刹が顔色を変えた、その瞬間だった。
「はーい。青龍の巫女ちゃん、捕獲」
どこからともなく聞こえた軽い声。
「動かないでくださいね? 巫女さま方」
煉華が刀の柄へ手を掛けた、
その瞬間――。
「っ!」
いつの間にか蒼紫の首元には、鋭い刃が突きつけられていた。
赫夜だった。
「蒼紫!!」
琥珀が飛び出そうとした、その刹那。
背後から凄まじい殺気が迫る。
反射的に横へ飛び退き、双剣を構えた。
「……刀骨」
「俺を覚えてたか、女ァ」
刀骨は獰猛に笑う。
「あん時は邪魔が入っちまったからなぁ。俺と互角にやり合った女……今日は思う存分、楽しもうぜ」
言葉が終わるより早く、拳が
唸りを上げる。
「っ!!」
琥珀は真正面から受け止めた。
しかし――。
「くっ……!! 重たっ……!」
腕が軋み、足元の地面が沈む。
その一撃は、人間離れした重さだった。
「玄武の巫女さまと朱雀の巫女さまは、こちらへ」
羅刹は二人を守るように結界を展開する。
透明な壁が音を立てて広がった。
「どうしよう……蒼紫ちゃんを早く助けないと……」
詞葉は焦りを隠せない。
煉華は赫夜を睨みつけた。
「あの人……何を考えているのか分からない……」
首筋へ刃を当てたまま、微動だにしない赫夜。
その不気味さに、煉華は拳を強く握り締めた。
「(護りたいと思ったそばから人質を取られ……こうして今も護られているだけなんて……!)」
爪が掌へ食い込み、鮮血がぽたりと零れ落ちる。
「っ!だめ、煉華ちゃん!」
詞葉は慌てて煉華の手を包み込んだ。
祝詞を唱えることなく、傷はゆっくりと塞がっていく。
「詞葉!」
煉華は思わず声を荒げる。
「そんな簡単に力を使っちゃだめ! それでなくても……」
「煉華ちゃん」
詞葉は優しく微笑んだ。
「私はみんなみたいに前に出て戦えない。でも……私にもできることはある。
これは、私自身が決めたことなの」
そっと煉華を抱き寄せ、優しく頭を撫でる。
その温もりに包まれながらも、煉華は唇を強く噛み締めた。
そして――。
詞葉の笑顔は、どこか悲しげだった。
「(……煉華ちゃんを抱きしめてる。髪にも触れてる。
でも……
自分が何をしているのか……もう、分からない)」
五感は、確実に失われ始めていた。
その時だった。
――示せ。
突然、煉華の脳裏へ声が響く。
――護りたいのなら、唱えよ。
――我が祝詞を。
コメント
1件
いやっ……第28話、めっちゃ緊張したわ! 冒頭の穏やかな朝の空気から一転しての待ち伏せ、心臓止まるかと思った😨 蒼紫がいきなり人質にされるとか反則だろ……赫夜の不気味さがヤバすぎる。 でも何より刺さったのは詞葉だな。 自分は前に出て戦えないけど、それでも“できること”を選んで煉華を癒す―― しかもその代償に五感が失われ始めてる描写、グッときたわ。 「自分が何をしているのか分からない」って笑顔の裏の苦しみが切ない…… ラストの「唱えよ。我が祝詞を」はもう続きが気になって仕方ない! 四人の絆がどうなるか、めっちゃ見守りたい🔥