テラーノベル
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ただたんにR18
理科室の床、重なり合う身体の熱の中で、私は遠い日の記憶に溺れていた。
夢奈の記憶:幸せを知らないカナリア
私の家には、いつも「正しい空気」が流れていなかった。
両親は互いを無視し、私はただの「装飾品」として、成績と行儀の良さだけを求められた。
「夢奈、あなたは綺麗な人形でいなさい。汚れることは許さないわ」
母の冷たい手。父の無関心。私は愛される代わりに、壊れないように保管されるだけの存在だった。
だから、るびあを見た時に思ったのだ。この「人形」を、私だけのやり方で、私だけの色で汚してみたいと。それが、私が知っている唯一の、歪んだ「愛」の形だった。
「……ゆめ、な、……」
現在のるびあが、私の指を求めて鳴く。かつての母に言われた言葉を、私は今、るびあの肌に牙を立てることで上書きする。
(汚してあげる。私が欲しかった絶望を、あんたに全部あげるから)
あいかの記憶:空っぽな太陽
一方で、あいかは、宙の肌を執拗に吸いながら、自分の「空洞」を埋めようとしていた。
かつてのあいかは、誰からも好かれる「相羽さん」を完璧に演じていた。けれど、家に帰れば一人。SNSの通知だけが彼女の価値を証明する、薄っぺらな世界。
「誰でもいいから、あたしを特別にしてよ」
そう叫びたかった彼女の前に現れたのが、あまりに純粋で、あまりに無防備な宙だった。
宙だけは、あいかの仮面の下にある「真っ黒な飢餓」に気づかず、ただ真っ直ぐに笑いかけてくれた。
(この子を離したくない。離さないためには、あたしの中に閉じ込めるしかないんだ)
現在:泥濘の中で
「ねぇ、宙……あたしのこと、離さないって言ったよね?」
あいかの指が宙の最奥を抉り、宙はもはや声にならない悲鳴を上げながら、あいかの背中に爪を立てる。
「あ……っ、あいか、愛して、る……っ、食べて、いいよ、全部……っ!」
宙の絶頂に合わせるように、あいかは宙の肩に深く噛みついた。そこから溢れるのは血か、それとも救いか。
理科室の空気は、体液と過去のトラウマが混ざり合い、泥濘(ぬかるみ)のように重く沈んでいる。
私たちは、自分たちの欠落を埋めるために、目の前の相手を食い破る勢いで睦み合った。
窓の外では、ホシグモ菌の紫が、いよいよ校舎を飲み込もうとしている。
夜明けが来れば、この夢は終わる。
けれど、私たちの狂気は、朝日を浴びることなく、この闇の中で完成へと向かっていた。
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