渡辺side
もうずいぶんと長いこと、泣いていない
最初は、強がりで恥ずかしがりの性格が邪魔をして人前で泣けないんだって思ってた
でも、部屋に帰って1人過ごす時間でも、瞳が潤うことはなかった
悲しみは確かにそこにあるのに、涙腺は反応してくれなくて、鬱々と心の底に溜まっていくばかりだった
いっそ、涙に沈むことができれば、全部流して前を向けるのに、出ていくことのない重みは、心にも体にもずっしりとのしかかる
沼の中にいるようで、重くて重くて、眠気さえも潰されてしまうような夜も、瞼を閉じてただじっと耐えるしかなかった
もう誰かに助けてと言う方法もわからなかった
そのはずだったのに
めめの腕に包まれた瞬間に、空知らぬ雨が降った
気づけば自分の頬を濡らした雫に、俺は自分でも驚いていた
涙が止まらない俺を、めめは黙ってずっと撫でてくれた
心配そうに、でもどこか安心したような表情を浮かべながら
「しょっぴー今日ご飯食べにおいでよ」
心配してくれているのを分かってて、大丈夫、という言葉で突き放して以来、勝手に少し気まずくなって避けていたのを、めめから声をかけてくれた
「え、行く」
迷うことなく了承して、いつも通りめめのご飯を楽しく食べ、ソファでゆっくりしていた時だった
「俺さ、しょっぴーの大丈夫は信用してないんだ」
唐突に言われた一言は、今までのめめとは声色が少し違って、ちょっと怒ってるように聞こえた
「……なに、急に」
「誰かを励ます大丈夫じゃないよ。しょっぴーが自分のことを大丈夫って言う時」
「……………」
「大丈夫って言われちゃったら、こっちは何もできないし、今まではそれで仕方ないと思ってたけど。最近は特に大丈夫じゃなさそうだからさ。俺ね、もう勝手に慰めることにした」
「………?」
訳がわからず首を傾げると、そっとめめが体を寄せてきて、ぐんっと引っ張られて、横から抱きしめられた
「え、おい」
「しょっぴー、大丈夫じゃない時は、大丈夫って言わなくていいんだよ。何も言わなくてもいいから、無理に大丈夫って言わなくていいの」
今までになく声色が強くて、抱きしめ方も強引なのに、めめの腕があまりに優しくて温かくて、抵抗する気力も起きなかった
「笑えなくたって、しょっぴーはしょっぴーだし、そんなことで誰も嫌いになったり落胆したりなんかしない」
優しく頭を撫でながらも、力強く語られる言葉が、まっすぐに温かく耳から心に入ってくる
「少なくとも俺は、絶対にしょっぴーの傍を離れたりしないから。だから泣いたっていいんだよ」
一層強く抱きしめられたのが呼び水になって、いつぶりかもわからない涙が頬を流れた
コメント
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表現が芸術的に美しくて、🖤の💙への想いも画面で見る眼差しそのもので、、、本当に感涙です😭 素敵なお話、いつもありがとうございます💕
