テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
庭でドロドロになったので、お風呂に入って綺麗にした。
「人の姿でも、お風呂は苦手」
いつもはシュメリが一緒に入ってくれるけど。
今日はあの後、書斎に籠っちゃった。
きっと忙しいんだ。
「……だから、リンネは」
「わかって……」
話し声が耳に入ってきた。
僕は頭の上の猫耳をクリクリ動かした。
(シュメリとバルトの声だ)
声のほうに歩いたら、シュメリの書斎に行きついた。
僕はドキドキしながら書斎のドアに耳をあてた。
「獣人なら成人でも、人間に照らし合わせたら、まだまだ子供だ」
「けど、クロノアは前世の意識を引き摺っていると言っていた。意識は大人なんじゃないか」
確かに、クロノアにはそれっぽいことを言い当てられた。
(でも、前世の記憶は薄れてきてるし、何歳で死んじゃったかも、よく覚えてない)
大人になった次の日だったような気はする。
不自由な状態だった気もする。
もう、よくわからない。
「前世なんて、それこそ不確かだろ。今のリンネを見ていれば、わかるだろ」
「あの程度の年頃なら、成婚する貴族はいくらでもいる」
「シュメリ、本気で言ってるか?」
バルトが窘めた。
「すまない。今のは言葉が過ぎた。私が悪い」
「俺は、反対したいんじゃない。許嫁くらいなら、今すぐでも構わねぇと思ってる」
「バルト……」
「けど、リンネの気持ちが追い付いてからだ」
バルトが、ぴしゃりと言った。
「シュメリの想いを、疑わない。だからこそ、もう少しだけ待ってやってくれ」
バルトの声が懇願するように響いた。
「わかっている。私だって、バルトに不義理をするつもりはないんだ」
「今となっては、感謝してる。リンネのことも、俺の仕事のことも。俺はシュメリを、大事な友人だと思ってるよ」
「私もだよ」
二人が動く気配がして、僕は扉から離れた。
忍び足で、こっそり自分の部屋に戻った。
「友人って、言ってた」
あの言葉で、胸が熱い。
二人の間に確かに友情が育ってる。
それが何より嬉しい。
(僕は、シュメリもバルトも大好きだ)
お股ポテト
29
はるにし
72
だけど、シュメリのことを考えると、胸がきゅっとなる。
僕を好きだと言ってくれるシュメリが嬉しい。
「添い遂げる覚悟って、どういうことだろう」
一生、一緒に生きるってことかな。
僕は、できると思う。
でも、ダメなのかな。
「何が、足りないんだろう」
呟いた言葉に答えをくれる人はいなかった。
——コンコン
扉がノックされて、シュメリが入ってきた。
「リンネ、お風呂一人で、大丈夫だったかい?」
「だ、大丈夫だよ。僕もう大人だもん!」
思わず大きな声が出た。
シュメリが、クスリと笑った。
「大人なら、髪も自分で乾かさないとね」
僕の濡れた髪をシュメリが摘まむ。
「でも僕、シュメリみたいな光魔法とか、バルトみたいな風魔法使えない」
「魔法動力の温風機があっただろ」
「あれ、嫌い。風が強いし、熱いんだもん」
「じゃぁ、まだ大人にはなれないね」
シュメリが光魔法を使ってくれた。
温かな光が髪を包み込む。
あっという間に髪が乾いた。
「……でも、大人だもん」
獣人なら成人してるもん。
人の姿はまだ、小さいけど。
すぐに大きくなるもん。
「庭でした話を気にしてるの?」
僕は黙り込んだ。
シュメリが小さく息を吐いた。
「あれは、私が悪かったんだ。私は急いでいないから、リンネも慌てなくていいんだよ」
「だけど、僕……」
バルトの言葉は、胸に刺さった。
さっきの二人の内緒話だって。
シュメリは本当は今すぐ結婚したいのに。
今の僕じゃ、ダメなんだ。
「私はね、バルトに許しをもらえるまでは、リンネを許嫁にする気はないよ」
「どうして」
僕は慌ててシュメリの服を掴んだ。
「バルトは、誰よりもリンネを知っている人だ。その人の言葉を無視したくない」
僕は言葉が出なかった。
少し前のシュメリからは考えられない言葉だ。
だからこそ嬉しくて、同じくらい気持ちが焦った。
(バルトにいいよって言ってもらえないと、ダメなんだ)
バルトに言われた言葉、ちゃんと理解できないとダメなんだ。
じわりと目が潤んだ。
「リンネ?」
「シュメリ、ごめん。僕、シュメリのこと好きなのに。上手に言葉にできなくて、ごめん」
涙がポロポロ零れて、止まらなくなった。
「泣かないで、リンネ」
シュメリの指が涙を拭ってくれる。
ふわりと、シュメリが僕を胸に抱いた。
「ちゃんと、わかってる。そうでないと、魔花は咲かない」
「え?」
「クロノアが言っていただろ。僕とリンネの魔種の相性は、これ以上ないほど最高だ。私という運命の影響を受けているから、魔花が咲く」
クロノアはそう話していた。
「最高の相性よりも、運命よりも、それ以上の奇跡をリンネは私に示してくれた。これより深い愛はないと思っているよ」
じわりと、顔が熱くなった。
トクトクと、鼓動が高鳴る。
(僕、無意識にシュメリが大好きって、言ってるんだ)
そう思ったら恥ずかしくて、僕は俯いた。
「どうしたんだい、リンネ」
「な……何でもない」
シュメリが僕の顔を覗き込んだ。
「照れている?」
「えっと、だって……」
何を言えばいいのか、わからない。
言葉が出てこない。
「可愛いね、リンネ」
シュメリが抱きしめてくれるけど。
胸に顔を付けたら、薄いシャツ越しに熱がバレちゃう。
でも、シュメリには抱き付きたいんだ。
「ふふ、頬が真っ赤だ」
シュメリが僕の頬にキスをした。
ドキン、と心臓が大きく跳ねた。
「バルトには、内緒だよ」
人差し指を口元にあてて、シュメリが微笑む。
その顔が艶っぽくて、見惚れた。
今夜は恥ずかしくて、隣で眠れないかもしれない。
そんなことばかり、考えていた。
コメント
1件
ああもう、リンネの「何が足りないんだろう」のとこで胸がぎゅっとなったよ…。シュメリとバルトが友人として認め合ってるの、めちゃくちゃ良かったし、最後の「バルトには内緒」のキスのシーンは悶えたわ。リンネのじれったいほどの純粋さがすごく伝わってくるエピソードだった!