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お股ポテト
29
はるにし
72
昨晩は猫の姿でシュメリと寝た。
それでもドキドキして、あんまりよく眠れなかった。
僕は、バルトの部屋のドアをノックした。
「バルト、いる?」
ドアが開いて、バルトが顔を出した。
「どうしたんだ、リンネ」
バルトが部屋の中に入れてくれた。
「あのね、僕って何歳?」
僕はバルトに迫った。
「年齢か。拾った時が三歳から五歳くらいだったと思うから……獣人換算なら十八歳くらいじゃないか?」
「十八歳って大人?」
「まぁ、大人だな」
バルトの返答に、一先ず胸を撫で下ろした。
「あ! でも、人とは違うの?」
「獣人の場合、人と同じに数えるのは難しいけどな。十五から十八歳くらいでいいんじゃないか?」
「適当じゃダメなの! ちゃんと知りたい」
「何で急に知りたくなったんだ?」
「だって……」
僕は俯いた。
「シュメリに釣り合う大人になりたい」
ぽそりと、呟いた。
「……そうか。ちゃんと考えているんだな」
バルトが僕の頭を撫でてくれた。
僕はバルトの服を、きゅっと握った。
「リンネ、おいで」
椅子に掛けると、バルトが腕を広げた。
抱っこしてくれる時のバルトの仕草だ。
「でも僕、大人だし」
膝の上に座りたいけど、大人はそういうことしない。
「いいから、来いって」
僕の体を抱き上げて、バルトが膝の上に座らせた。
「僕、座るって言ってないのに。バルトが勝手に抱き上げたんだからね」
「はいはい」
バルトが笑いながら、僕の背中をポンポン叩く。
「デカくなったなぁ、リンネ。確かにもう、抱っこできる身長じゃないよな」
バルトが感慨深そうに呟いた。
「……うん」
でも、バルトに抱っこしてもらえないのは、ちょっと寂しい。
「本当はさ、今すぐにでもシュメリに嫁いだっていいんだよ」
「え?」
僕はバルトを振り返った。
「でもな、リンネの気持ちが固まってないと、苦労するのはリンネだ」
「僕が?」
「シュメリは特別すぎるだろ。貴族の中でも唯一の聖騎士で、騎士団長だ。今のリンネじゃ想像できないような大変なことが、いっぱいある」
「そうなんだね」
魔窟の森しか知らない僕じゃ、釣り合わないんだろうか。
(せめて、前世の記憶がもっと鮮明だったら良かったのに)
前世の僕は今より大人だったと思う。
もっと知識とか経験とか、あったかもしれない。
(でも、『聖騎士と暗殺者』の内容は覚えてる)
それだけじゃ、きっとダメなんだ。
優しいバルトが、ストップって言ってる。
きっと、意味があるんだ。
「僕、足りないもの、見付けるから。バルトにいいよって思ってもらえるように、頑張る」
僕は体ごとバルトを振り返って、抱き付いた。
「好きな男以外に抱き付くのは、ダメだぞ」
「バルトはいいの。特別なの」
「特別はシュメリだろ」
「シュメリは特別の特別」
「なんだ、それ」
バルトが笑った。
僕が抱き付いて、バルトの体が後ろに仰け反った。
椅子が傾いて、後ろに倒れた。
「うわ!」
「にゃん」
椅子の背もたれがベッドにぶつかって、止まった。
二人の体が、ゴロンとベッドに転がる。
「ふふ、あはは」
「えへへ」
何だか可笑しくなって、二人してベッドに転がったまま笑った。
こうしていると、森で暮らしていたときみたいだ。
「ねぇ、今晩はバルトと一緒に寝てもいい?」
「それはダメだろ。シュメリと何か、あったのか?」
「ないけど……ドキドキがいっぱいで眠れないから」
バルトの顔が曇った。
「婚姻前に変なこと、されてねぇだろうな」
「変なことって、何?」
僕は首を傾げた。
「いや……その様子なら大丈夫か」
バルトが、ホッとしている感じだ。
やっぱりよくわからない。
「ねぇ、ダメ?」
「ダメだ。ドキドキするなら余計に、ちゃんとシュメリの傍にいろ」
「でも……」
「そういうのも含めて、覚悟なんだよ、リンネ。シュメリ以外はダメだ」
「バルトでもダメなの?」
「ダメだ」
僕には、バルトがダメっていう意味がよくわからない。
今までずっと一緒に寝ていたのに。
(でもバルトがダメって言うんなら、ダメなんだ)
どうしてダメか、わからないとダメなんだ。
「わかった」
悲しいけど、そう返事した。
「二人で、何をしているんだい」
扉のほうから、シュメリの声がした。
僕とバルトは顔を上げた。
わずかに開いたドアの隙間から、シュメリが覗きこんでいた。
「わ! びっくりしたぁ。シュメリ、どうしたの?」
「どうしたのは私の台詞だよ。二人してベッドに横になって、何をしているのかな」
シュメリがドカドカと入ってきた。
ちょっと怒っている感じだ。
「シュメリ以外の男と寝るなって話をな」
バルトがシュメリを見上げる。
シュメリがあからさまに不機嫌な顔をした。
「ベッドに横になって、私以外と寝るなと諭していたのかい? 説得力がまるでないね、バルト」
「さっきまで椅子に座ってたんだが、リンネがじゃれるから」
「抱き付いたら、ひっくり返っちゃったの」
「抱き付いた……?」
シュメリの顔が見る間に険しくなる。
「どうやら、話をしないといけないようだね、バルト」
「は? 俺じゃないだろ。リンネに教育しとけ」
「教育ならバルトがしておくべきだったんじゃないかな」
「だから今、してたんだろうが」
シュメリとバルトがいつもの言い合いを始めた。
二人は今日も仲良しだ。
(僕より仲良しかも)
そう思うと、ちょっと羨ましい。
「二人とも、仲良しでいいなぁ」
僕は、ぽそりと呟いた。
シュメリとバルトが、ピタリと言い合いを止めた。
「リンネより仲良しであるはずがないだろ」
「リンネのほうが気心知れてる。安心しろ」
二人が言葉を被せた。
「やっぱり仲良しだ」
僕はシュメリの手を引いた。
「え? リンネ」
シュメリがベッドに転がった。
「三人でゴロゴロして、仲良ししよう」
二人に挟まって、僕はシュメリとバルトの手を握った。
「ま、昼寝くらいならいいか」
バルトが僕の手を握り返した。
「不本意だけど、リンネが嬉しそうだから、仕方ないね」
シュメリも握り返してくれた。
僕は嬉しくなって、握った手をブンブン振った。
(ずっと三人が良いな)
それはダメなんだとわかっていても。
三人でお昼寝できる関係で、いつまでもいたい。
そんな風に思う僕は、まだ覚悟が足りないのかな。
二人の手のぬくもりを感じながら、ウトウトと浅い眠りに包まれた。
コメント
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みぅです🤍🥀 第42話、読み終わったよ……。 リンネが「シュメリに釣り合う大人になりたい」って言ったところ、すごく胸にきた。自分の足りなさをちゃんと見つめて、バルトに「頑張る」って伝える姿が本当に愛おしい。三人でベッドに転がってお昼寝するシーン、思わずにやけちゃった🫣💕 でも「ずっと三人がいいな」って思う自分はまだ覚悟が足りないのかなって悩むところ、切ないね。リンネの成長を静かに見守りたくなる回でした。素敵な作品をありがとうございます🌙