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「では次だ。次は、筆記試験を行う!」
「おっと、これはまた難儀な試験になりそうだな……」
シンヤは顔をしかめる。
というのも、彼が最も苦手としている分野だからだ。
(戦闘系なら、力押しでどうにかなるんだけどなぁ……。どうにかならないか……)
見れば、ミレアやレオナードも苦い表情を浮かべていた。
2人とも、頭が悪いわけではないのだが……。
「制限時間は60分だ! はじめっ!!」
試験官の合図と同時に、一斉に紙を捲る音が響く。
そして、カリカリとペンを走らせる音が続いた。
「……むぅ」
「……うーん」
「……ぬぅ」
3人共、なかなか手が進まない。
問題の内容は、極端に難しいものではない。
周辺諸国の国名や首都名、各種の魔物が持つ攻撃手段や特性、冒険者として持つべき心構えなどが出題されている。
(マズいな……)
シンヤは日本人だ。
こちらの世界の国名などに詳しくない。
それに冒険者になってから日が浅いので、魔物や冒険者の心構えについても疎い。
彼にとって、この問題を自力で解くのは難しいことだった。
(……ふっ。さっぱり分からないゾ……)
ミレアもお手上げだ。
彼女は獣人として、元々は人族とあまり関わらずに生きてきた。
その後は奴隷となっている。
さすがにシンヤほどではないが、一般常識には疎いところがあった。
(くそ、かなり厳しいな。シンヤ兄貴は大丈夫なのか?)
レオナードは、シンヤやミレアに比べると一般常識を持っているし、冒険者としての経歴もそれなりに長い。
とはいえ、彼女はどちらかと言えば実戦タイプだ。
Bランク昇格の基準に達しているかと言われれば、かなり怪しいところであった。
(どうしたものか……)
シンヤは考える。
ここで脱落すれば、ある意味では適切にふるい落とされたということにもなる。
本来であれば、適度な知識を持たない者はBランクに上がる資格がないということになるからだ。
しかし、そんなことになれば、シンヤの目的達成が遠のく。
つまり、魔法を極めるという目的が。
(ランクを上げておいた方が、魔法の達人と知り合う機会も間違いなく増えるよなぁ……。よしっ、ここは……)
シンヤは実力で問題を解くことを諦める。
しかしもちろん、Bランク昇格を諦めたわけではない。
(ターゲットは……アーシアにしておくか。【ロング・センス】!)
シンヤは魔法を発動した。
他者の視界を覗き見る魔法である。
この魔法により、彼はアーシアが見ているものを見ることができている。
(ほう……。やはり経験豊富な魔導師だ。しっかりとした知識があるらしい)
アーシアの冒険者歴は、レオナード以上に長い。
その上、一般的に言って魔導師タイプは、剣士や武闘家と比べて知的な者が多い傾向にある。
(よし、これで俺の試験は乗り切ったも同然だ)
シンヤは、遠慮せずにアーシアの回答を写していく。
カンニングという不正なのだが、彼は特に罪悪感を覚えている様子はない。
このあたり、彼は”いい”性格をしていた。
(ミレアとレオナードにもおすそ分けしておくか。【視覚共有】)
今度は、シンヤの視覚をミレアやレオナードに飛ばす。
(これは……シンヤか? 助かったゾ)
(へへっ。さすがはシンヤ兄貴だぜ。それじゃ遠慮なく)
ミレアとレオナードも、躊躇なく回答を写していく。
彼女たちもまた、カンニングで罪悪感を覚えるタイプではない。
こうして、彼らの筆記試験は進んでいったのだった。
*****
「残ったのはこれだけか……」
シンヤが呟く。
Bランク昇格試験も、半分以上の行程を終えた。
この場に残っているのは、持久力試験、攻撃力試験、筆記試験を突破した者たちだけである。
当初の参加者の3割ほどだろうか。
もちろん、シンヤ、ミレア、レオナード、そしてアーシアも残っている。
「次は防御力試験を行う! Bランク冒険者たる者、ちょっとした攻撃で戦線離脱していては話にならんからな!」
試験官が叫ぶ。
Bランク冒険者は一流と見なされる。
どんな局面でも安定して活躍できる能力が求められる。
例えば、遠距離の魔法攻撃”だけ”に特化した上級魔法使いがいたとしよう。
彼はBランク冒険者になれるだろうか?
いや、なれない。
防御力が足りないからだ。
魔物や賊の不意打ちを受けてあっさりと戦線離脱をしてしまう可能性のある者は、Bランクに昇格することはない。
遠距離の魔法攻撃”だけ”に特化して能力を伸ばしていきたいのであれば、冒険者以外の選択肢を選べばいい。
国の魔法師団に入れば、攻撃魔法と防御魔法で大規模な分業ができるし、騎士団や衛兵と連携することも可能だ。
そのような選択肢がある中でわざわざ冒険者という職業を選ぶ以上、不確定な事案に対して臨機応変に対応する能力が求められるのである。