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アーサーside

「てかさー、明後日バレンタインだよね」


学校に着き、髭が「おはよう」を一言に、二言目に発した言葉はそんな話題だった。


「あー、せやな。今年も下駄箱開けとかんとなー」


「うわ、ムカつく〜」


「フランシスだってモテるやろ?」


「お前ほどじゃないって」


2人で淡々と会話をしている中、自分は会話に入らず、それどころか話に耳を傾けることもなかった。本田の席を見つめながら、本田来るの遅ぇな、と違うことを考える。すると、それに気付かれたのか話の矢先が俺に向けられた。


「てか1番モテるのはお前だな。猫かぶり」


「猫かぶりやもんな〜流石やわ〜」


「よ!天下一の猫かぶり!」


「嬉しくねぇわ髪引っこ抜くぞ」


煽られているような言葉を向けられ、いつものようにあしらった時だった。


「てか今日本田休みらしいな」


「………は?」


「お前意識しすぎな。本田の席ガン見じゃん」


「正直激キモやわー」


「う、うるせぇ!」



本田の席をガン見していたことがバラれた挙げ句、思考まで読み取られ、俺に挽回の余地は無かった。

いやそんな事はどうでもいい。菊が風邪を引いた?家で寝込んでる?寂しい思いをしてる?俺を求めてる?これは彼氏である俺がお見舞いに行くしかねぇだろ!!

そんな勝手な都合の良い解釈妄想を並べたアーサーは、放課後コンビニでゼリーを買い、すぐに本田宅へ向かった。


「帰れある。ダークマターはお呼びじゃねぇあるよ」


そんな俺の前に、いつかの天敵が現れた。しっしっと虫を見るかのような見下された視線を向けられ、年上相手ながらも流石にピキッてしまう。

そんな気持ちを抑え込み、なんとか入れてもらおうと、ブラコンモンスターを説得する作戦に出た。


「なぁお願いだ……えっと……よう、さん?」


「耀ある!」


1日で辞めたバイトの先輩の名前なんて覚えているはずもなく、思っていたよりもあっさり砕け散りってしまった。耀の俺への好感度は底辺と言っていいだろう。なんせバイト先で失敗した上に本田の彼氏だ。好かれるとは思ってない。


「菊が心配なんだ、このゼリー届けて様子を見るだけでいいからさ、」


「彼氏面すんなある!菊の彼氏はこの我ね」



いや菊否定されてただろ。っとツッコみたい気持ちをグッとこらえて、菊に会いたい一心で頭を下げた。


「なぁ、お願いだ……」


「……」


彼は口を尖らせたと思ったら「はぁぁ、」とクソデカため息をして「少しだけあるよ、用事済ませたらすぐ帰るよろし、」と仕方ないな満載で俺を家に通してくれた。


「ほんとか!?」


あまりの嬉しさに、思ってたより声が出てしまった。


「うるせーある!菊の体調に響いたらどうするね、」


「わ、悪い、」


見覚えのある廊下を歩き、階段を上がった。ドアを開くと、冷えピタをつけた本田が布団を顎まで被り驚いた顔で俺と目を合わせた。


「…アーサーさ……っごほっ、ごほっ、」


口に手を近づけながら咳払いをする彼が心配で、すぐに駆け寄り背中をさすった。


「風邪……移してしまいます…」


「気にすんな。俺はバカじゃねぇから風邪引かねぇ」


「……すいません。」



「あ、そういえばゼリー買ってきたんだ。スコーンでもよかったが……別に心配だから早く来たかったって訳じゃねぇけど……」


「あぁ、それは、良かったです、」


気の所為だろうと、菊が言った良かったには反応せず、買ってきたゼリーを机の上に置いた。


「おい眉毛。ちょっとこっち来るよろし」


閉めていたかったドアから、ヒョコっと耀が出てきた。眉毛呼びは気に食わないが、菊の兄なだけで反抗的な態度はできない。

「少し待ってろよ」と菊の頭をぽんぽんと撫で、そのまま彼の言われた通りに下に降りた。



本田side

「38.5……!?」

「我休みの電話入れてくるね!お前は布団被って安んでるよろし!」


「はい……ありがとうございます…」



「……やってしまいました…。」


朝食後、気分が優れなく一応熱を測ってみたら、なんと高熱。去年は1回も風邪なんて引かなかったものの、溜まってた分が今に影響したのか、38.5度と結構な風邪を引いてしまった。体の寒気も止まらないし、喉も頭も痛いわで最悪な週明け日だった。最初はラッキーだと思っていたものの、こんな辛いなら学校に行った方がマシだったと後悔する。

それに、なんだか残念な…感じも……


「あいやー、お前がこんな高熱出すなんて何事あるかぁ……やっぱ無理しすぎあるよぉ…」


冷えピタの袋を開けながら、心配そうな顔でそう言われた。ペタッと額に貼られた冷えピタが頭の熱に染み渡る。


「……あ、耀さん、大学は…」


「そんなん休んだある」


「え、!?そんっごほっ、ごほっ、」


「わわっ、そんな大声出すなある、!体に障るね…」


「……すいません。」


申し訳無い顔をした私を見て耀さんは私の頭をそっと撫でた。


「そんな顔すんなある。我が好きで面倒見てるんあるから」

「それに、お前は我の弟ね、弟は黙ってにーに に甘えてればいいあるよ。」



たまに再確認させられることがある。あんな耀さんでも、ちゃんと私のことを思ってくれていて立派な兄だということを。私のことを1番に考えてくれていて、私のことを1番大切にしてくれる。あんな行動も愛ゆえの行動なのだと身にしみて分かっているから、嫌いになれないのだろう。嫌いになるわけがないのだろう。

私は撫でてくれる耀さんの手を受け入れ、もっとと訴えるように手に頭を擦りつけた。


「っはあぁぁ、かわいいある…世界一かわいいある…!これはもう世界国宝ランキング受賞案件ね。おめでとう菊、1位から100位まで全部菊ある」


「何バカなこと言ってるんですか……」



そんなバカげた事を言う耀さんに口元が緩んだ。「ありがとうございます。」なんてこぼすと、彼は嬉しそうに私に抱きつき「世界一かわいい菊の為に、世界一美味しいおかゆ作ってくるある!」と勢いよく部屋を飛び出しキッチンへと向かっていった。


少し経った頃だろうか、階段を上る音が聞こえ、体を布団から起こした。


「菊ーおかゆ出来たあるよー」


嬉しそうな顔でドアを入ってきた彼の手に持つお盆の上には、湯気が程よい程度にたったおかゆと、スプーン、コップが置かれていた。


「ありがとうございます、そこ置いといて下さい。今、食べますから……」


「あいやー!菊はそっから動くなある!病人は安静にしてるよろし」


彼は私を優しく抑え、お盆をテーブルに置いた。「ほら、我があーんしてやるある」と、おかゆをスプーンで掬い、ふーっ、ふーっ、と冷ましたものを私の口に運んだ。


「い、いいですよ、自分で食べますから、!」


「今日菊は我に甘えないといけない日ある。さっさと食べるよろし」


「誰が決めたんですか、そんなバカげた日、」


「もちろん我ある」



自信満々に答える彼の期待に沿わない訳もなく、恥ずかしながらも口を開ける。口に運ばれた耀さん特製のおかゆはいつもよりも美味しく感じた。あーんされたからとは信じたくないが、美味しいものは美味しいので自ら口を開けおかわりを欲した。


「天使が舞い降りたある……」


「何て?」



再確認させられるのはブラコンという一面もだった。


ご飯を食べ終わり、眠りについた頃。どれだけ眠っていたのだろう。時計の針は午後を指していた。寝すぎてしまいました、今夜寝れるでしょうか…。と心配していると下から声が聞こえてきた。



「お願いだ!入れてください!」


聞き覚えのある声だった。アーサーさんだ。学校終わりなのだろう。それぐらいの時間だった。この辛い体では起き上がる事もできず、耀さんとアーサーさんの会話に耳を傾けた。


「帰れある。ダークマターはお呼びじゃねぇあるよ」



ああぁ、またそんな失礼な事いって……



「なぁお願いだ……えっと……よう、さん?」


「耀ある!」


「菊が心配なんだ、このゼリー届けて様子を見るだけでいいからさ、」


「彼氏面すんなある!菊の彼氏はこの我ね」



笑っていいのか分からない会話を続ける彼らに、どう耳を傾ければいいのか分からずそのまま聞いていると、耳を疑うような声が聞こえた。


「なぁ、お願いだ……」


真剣な、か細い声が聞こえた。なんで嘘告をした遊び相手にそこまでして会いたいのか。やっぱり理解ができない。友達として接していたつもりだったが、どうも妙な感覚に悩まされる。


「少しだけあるよ、用事済ませたらすぐ帰るよろし、」


「ほんとか!?」


「うるせーある!菊の体調に響いたらどうするね、」


「わ、悪い、」


そんな声が聞こえた。まさか耀さんがアルフレッドさん以外を家に入れるなんて。驚きながら、こっちに向かってくる足音に妙に緊張しながらアーサーさんを待った。


部屋のドアが開き、彼と目が合った。どうして来たんですか?と聞こうとしたが、咳き込んでしまい言葉は途切れた。それに心配したのか、アーサーさんは私のもとに駆け寄り、優しく背中をさすってくれた。


「風邪……移してしまいます…」


「気にすんな。俺はバカじゃねぇから風邪引かねぇ」


「……すいません」



「あ、そういえばゼリー買ってきたんだ。スコーンでもよかったが……別に心配だから早く来たかったって訳じゃねぇけど……」


「あぁ、それは良かったです、」


熱だからだろうか、頭が回らないせいでつい本音が出てしまった。だが、アーサーさんはそれに反応せず、買ってきたゼリーを机の上に置いた。


バレなくて良かった……。安心していたところに、閉めていたかったドアの間からヒョコッと耀さんが顔を出した。来るなり、「おい眉毛。ちょっとこっち来るよろし」なんて変なアダ名でアーサーさんを呼ぶもんだから、駄目ですよ!と注意しようとしたが、「少し待ってろよ」とアーサーさんによって、その言葉は塞がれた。

彼は私の頭をぽんぽんと撫で、そのまま彼の言われた通りに下に降りていった。


不覚にもキュンとしてしまう私がいることが悔しい。だが、お見舞いに来てくれた善意は素直に受け取り、まぶたを閉じた。

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