テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
『愛なんて、』 第8話 sn編③
仁人が珍しく友達と出掛けると言うので本当に友達なのか疑ってしまった。「仁人に友達いたんだ」なんて思ってもない余計なことを言ってしまい仁人は少し怒った様子で俺の返事も聞かずの家をさっさと出て行ってしまった。
「あーもう…なに言ってんだ俺……」
なにもかもうまくいかないこの現状にどうしようもない自己嫌悪に襲われ布団に潜り込む。
昨日も残業で帰るのが遅くなってしまい、こんな時間まで寝てしまった。仁人もいないしお腹もそんな空いてないし、頭がボーッとまだするのでもう一回寝ることにした。
数時間後、微睡む中スマホで仁人から帰る時間のメッセージがきてないか確認したがなにも連絡はなかった。なんだかそこで違和感を感じて仁人に久々にメッセージを送った。
『仁人、今どこにいるの』
数分後、メッセージは届いた音が鳴る。
画面をタップして開けばそこに写っていたのは。
「……誰だ、こいつ」
仁人に馴れ馴れしく肩を組んでこちらを見つめる美形な男。隣にいる仁人もなんだか照れくさそうにしていて、とてつもなく癪に触るその写真。それに、この男…どこかで見たことあるような…
その写真を頼りにネットで検索する。
そうすれば、すぐにわかったこの男の正体。
モデルの山中柔太朗だ。
「なんで仁人、こいつと一緒にいるんだ?」
驚きで返信なんてできなかった。
もう陽が沈んだ頃に仁人帰ってきた。
背後をとれば驚いて俺の顔を見るなりに気まずそうにするのが少しカチンとしてしまう。
山中を責め立てるように言えば、仁人は庇うように反論してくる。そんな仁人を俺はあまり見たことがなかったので苛立ってしまった。持っていたスマホに力が入ってミシ…ッと音が立つ。
なんでそいつのこと、そんなに庇うの
もしかして、好きなのか…?
人たらしだとか、誘ったのかとか、仁人がそんなことするはずないことを言ってしまった。焦っていたのかもしれない。言いたくないのに口が勝手に動いてしまった。
そしてギリギリまで耐えていたものが溢れた。隠していた気持ちを初めて吐露した。
少しでも仁人のためにと思って仕事を頑張って、仁人のためにとお店を開くために何が必要なのか勉強したりして、仁人のために自分はなんの役に立つのだろうとたくさん考えて。
こんなにも尽くしているのに、他の男と遊んでツーショットなんて撮って楽しんだりして……自分が頑張っているのがバカらしくなってしまう。
「勇斗…」
このままでは仁人との未来が見えないことを伝えた。
仁人は悲しそうな顔をしていた。
傷つけてしまった、守りたいと思っていた人を、俺が傷つけてしまったのだ。
※
数日後、仕事から帰ると家の中に段ボール部屋の隅の方にいくつか積まれていた。段ボールには「衣類」とか「小物」とかマジックペンで仁人の字で書かれていた。突然の出来事に立ち尽くしてしまう。
「…なにこれ」
「この家、出て行こうと思って」
#👶🏻➰💘
♡♡
15
はるか
84
「なんで?」
「その方がお互い、いいでしょ…」
「だからって急過ぎだろ…それに別に出て行かなくたって」
「勇斗……」
仁人が近づいてくる。
こんなの近い距離でお互い向き合うのは久しぶりだった。
「お願いがある…」
視線を合わせるように顔を上げた仁人の目は今にも涙が溢れそうだった。グッと唇を噛んで何か言おうとしている。でも、それから先の言葉は聞きたくない、聞いてはいけない気がする。
「俺と別れてください」
※
あれから仁人と別れて1年程経った。仁人のことを忘れることなんて1日もなかった。
何度連絡しても既読もつかず、なにも返事がこないからきっと連絡先を消されたんだろう。勤務先のカフェにも顔を出したことがあったが、すでに退職している旨を残念そうに教えてくれた。
引っ越し先も聞けなかった。聞く前に仁人は出て行ってしまった。何処に居るのかわからず全く手掛かりがなかった。
俺の生活は荒れた。
ご飯も適当に済ませるようになって痩せたし、綺麗だった部屋もずいぶんと散らかっている。仁人が生けていた花なんてすぐに枯れてしまったし、俺はなんのために生きているのかわからなくなってしまった時もあった。
仕事から帰ってきて毎日ひとりで寝るには広いベッドで寂しさを耐えるように猫みたいに丸くなって寝ている。
目が覚めたら腕の中に仁人がいる、起きるまでジッと見つめてれば、やがて起きた仁人が「なんだよぉ」なんて寝起きで照れた顔で舌足らずで甘えるようなことがあった。そんな過去の出来事が現実になればなんて想像を何度したことだろう。
「じんと…」
一体どこに行ってしまったんだろう。
仁人との未来が見えないことが怖かったはずなのに。
仁人が他の誰かと幸せになってほしいって散々望んでいたはずなのに。
苦しい、寂しい、会いたい。
仁人に会いたい。一目でもいいから。
未練がましくスマホの待ち受けにしている、
いつか撮った楽しそうに眉を下げて、目をくしゃっとさせて笑う仁人の写真を指先でなぞった。ぽたっと溢れてきた涙がスマホの画面を濡らした。
ーーーあぁ、仁人は俺のすべてだったんだ。
※
「佐野くんちょっといい?」
勤務中、部長に呼び出しをもらい別室へ向かった。
最早なんのために仕事しているのか、糧なんてないのでやる気も起きずにいる。それでも生きていくためには働かなくてはいけないので、半ばヤケになって来ているようなものだった。営業の成績もガタ落ち、お客さんも少しずつ離れていってどん底状態だ。
「…なんでしょうか」
以前、レズだと言っていた先輩は今年度の人事で部長に昇進した。まだ若いのに異例の大抜擢だったがもともと上の立場に向いてると思っていたのでさほど驚かなかった。
「以前あなたのお得意様だった方が、直接お会いしたいって連絡があったわ。今週の金曜日の午前中が都合が良いと言っていたけど大丈夫かしら」
「…別に行かなくても…」
「佐野くん、何があったか聞かないけどここ1年くらいでずいぶん成績が落ちてるわ。やる気を感じられないってクレームもきてお客様は離れていってるし…」
「いいんですもう、……会社には申し訳ないんですけど、なにもかもどうでもよくなっちゃって…」
「……電話越しであなたが元気がないからとても心配されていたわ。私が担当を外したけど、やっぱりあなたが良いって言って……あなたを待ってる人だっているの。お客様に会いに行きなさい」
渡されたのはお客の住所が書かれた紙だった。とりあえず受け取っておく。
本当は行く気はなかったが、相談相手だった部長の顔にさすがにこれ以上恥をかかすわけにはいかないと思い、帰る際菓子折りを買いに行くことにした。
お客の住所を見た時、どこかで見たことある市の名前だなぁと思ったけどその時はスルーしていた。
ーーー金曜日。
買った菓子折りを持って電車で数時間乗り継いで揺られながらお客のところへ向かっていた。窓の向こう側に広がる景色がだんだん見覚えのあるものへと変わっていった。
「(そうだ。ここは、昔仁人と一緒に住んでいたところだ。)」
まだ今のマンションに引っ越す前に同棲していたアパートがあるところ。だからあの住所に見覚えがあったんだ。
まだあのアパート、あるのかな。
思い出巡りではないが、用事が済んだらちょっと寄ってみようかな。
※
「やっぱりあなたじゃないとダメなのよぉ」なんて以前お得意様だったその高齢のお客さんは俺の顔を見た途端、泣きそうな嬉しそうな表情をしてそう言った。まるで息子のように接してくれた優しさを思い出して胸が苦しくなった。
「ご心配お掛けて申し訳ありませんでした」
「大丈夫、顔を見れただけでも十分よ。わざわざ来て頂いてありがとう。またなにか困ったことがあったら連絡するわね」
「はい、ありがとうございます。失礼します」
玄関先で挨拶を済ませて、その場を後にした。今までなにもやる気が起きずにいたが、少しだけ頑張ろうかななんて思ってみたり…
朝の重い足取りが軽くなった気がした。
部長には今日は直帰でいいと言われたので、
前住んでいたアパートにちょっと寄ってみることにした。もしかしたらもう建物自体ないかもしれないが、住所と記憶を頼りに足を向ける。
ここのスーパーでふたりでよく買い物をした。俺が余計なものをたくさん買って、「買い過ぎっ!」って仁人に怒られたな。
記念日にはここの小さなケーキ屋さんでお互い好きなケーキを買ったりして、お互いのケーキを味見してみたり。ショートケーキの苺は絶対譲らない仁人が可愛かった。
ここの花屋では、喧嘩して気まずくて仲直りしたくて…喜んでもらいたくて花を買って帰って渡したりもした。渡した時に嬉しそうに大事そうにぎゅっと花束を抱きしめて「ありがとう」と言う仁人を見て、喧嘩はしないようにしようと心に決めたこともあった。
最寄駅からアパートへちょっと離れているが通る道全てに仁人との思い出があった。
「……あった」
角を曲がれば、確かにそこにアパートはあった。外壁は綺麗に塗り直されているが、外観等は全然変わっていなかった。
懐かしさに胸に込み上げるものがあった。
2階の1番端っこの部屋。
きっと誰かが住んでいるのだろう。
その部屋を見つめた。もう帰ろうかと踵を返そうとしたその時、その部屋のドアが開いた。
そこにいたのは、
「………仁人?」
見間違えるわけない。
ずっと探してた、愛しい人がそこにいたのだ。
続
sn編は終わりで次から本編です
コメント
7件
1年……長いようで短かったんだろうな…… jntくんの状況で物語が変わっちゃうんだなと思うと胸が痛いです 最高でした

お忙しい中更新ありがとうございます😭 今回も大号泣でした。 早く2人には幸せになってほしいです。もう二度と離れ離れにならないで…。 続きお待ちしております。