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遊摺部の声かけで教室に集まった生徒たちは、無陀野から杉並の現状について聞かされる。
合わせて遊摺部の妹についても…
話が終わると各自すぐに支度を整え、ステルス加工された船へと乗り込んだ。
「こんな堂々と船乗ってるけど、マジで見えてないのな」
「羅刹の他の先生の能力で完璧に見えないようになってるからネ」
「他の先生って見たことねぇな」
「広いしな羅刹は」
「…大ちゃん見たことねぇの?」
「多分ないかも。ヤバイ先生だったりしてね!」
「! 確かに!」
鳴海との関わり方を悩んでいた一ノ瀬の態度は、いつもよりもどこかぎこちない。そんなことを察してか大那はできるだけ明るめに返したのだった。
不意に保健室で花魁坂から言われたことが思い出される。
「(違う…俺の大好きな鳴海は、そんな子じゃない)」
彼に対する想いに少し整理がついた一ノ瀬は、どこかスッキリした表情で前を向くのだった。
場が一旦落ち着くと、話題は当然のことながら遊摺部の方へと移る。
一ノ瀬が話しかけたことをキッカケに、彼は静かに自分のことについて語り始めた。
「気を遣わせるから言ってなかったけど、妹は体が弱いんだ…治療しながら母さんと生活しててね… 僕の能力は戦闘向きじゃないけど、妹を守るために強くなりたくて羅刹に入ったんだ。 けどなんで…杉並が…やっぱり地方に行かせておけば…皆もごめん…巻き込んじゃって…」
「助けるに決まってんだろ!」
「お前今、血蝕解放できねぇのに?」
「うっせぇ!」
そう言う遊摺部の顔は、船が出航してからずっと浮かないままだった。
同期のために出来る限りのことをしたい。
同じ気持ちを抱いた一行を乗せ、船はようやく目的地へと到着した。
そして迎えに来ていた隊員に連れられて、静かに地下へと入って行く。(大那は自分の部隊に帰った)
前回と同様の道のりを経て、一ノ瀬達は再び杉並区鬼機関へとやって来たのだ。
車を降りた一行を出迎えたのは、大人組以外のメンバーにとっては久しぶりに見る面々だった。
練馬の偵察部隊隊長と以前訓練を手伝ってくれた先輩2人。
その時、神妙な顔付きをした花山院が無陀野にコソッと耳打ちをした。
無陀野は少し驚いた顔をしたがすぐ元の顔に戻り花山院に使いを頼みその場を離れた。
“鳴海が部屋から出てこない”
花山院から告げられた言葉に無陀野は早足で鳴海が籠城している部屋に急いだ。
「…鳴海、俺だ。無人だ」
ノックをして返答を待ったが返答は無く、嫌な予感がした無陀野はそっと扉を開けた。
予感は的中し部屋には血の匂いが充満しており荒れていた。
「(鳴海がいない、ということは)…いた」
「…」
「嫌な事があると狭いところに入る癖は直らないな」
ベッドの下を覗き込めば顔を涙でぐしゃぐしゃにした鳴海がいた。
「出ておいで」
「……やだ」
「嫌なことがあったからそこにいるんだろ?教えてくれ」
言いづらそうにもごもごしていたが無陀野に諭されポツポツと話し始めた鳴海。
「俺が助けるの遅れたからみんな死んだの。俺がクズでノロマだから」
「そんなことないよ」
「そうだもん」
話している内に下から這い出てきた鳴海は無陀野にしがみついた。
「鳴海、風呂に入ろう。血塗れだし髪もキシキシして嫌だろ?」
「お風呂の気分じゃない…」
「じゃあ頭だけ洗って着替えだけでもするか」
「やだぁ…」
「俺がやるよ」
ぐずる鳴海を抱えて部屋から出ると花山院が着替えを持って待機していた。
「おおきに。帰ってからすぐ籠っとって困っとったんどす」
「昔からだ。嫌な事があると狭いところに潜り込む癖があってな。」
「行方不明やった隊員見つかったんどすけど半数は亡くなっとってそれが原因かもしれへんどす」
「そうか…とりあえず軽くシャワーと着替えを済ませてくる」
話し合いの場となる会議室では、ホワイトボードの前に立つ百鬼が皆を待っていた。(ある程度復活した鳴海も参加してる)
自分の前にある机を4つ合わせた大テーブルに大人組が座るのを見やりながら、彼は入って来た中に鳴海を見つけ声をかける。
「鳴海先輩大丈夫っすか!?」
「ある程度までは」
「今回もお願いします!!」
「らじゃ」
「紫苑のことは気にしないでください!なんかあれば締めとくんで!」
「じゃあ張り付けにして燃やそう」
「え?」
固まる百鬼を気にすることもなく鳴海は用意された席へ腰を下ろす。
大テーブルの末席付近…入口を入ってすぐのところにイスを2列並べ、若者たちは腰を下ろした。
後列の左端に座った鳴海は、同席させた逆にメモを持たせ自分は聞く姿勢に入った。
それを待っていたかのように、百鬼は大きな声で打ち合わせを開始した。
「集まって頂き、ありがとうございやす!杉並の現状とこれからについて話させてもらう!」
「いかちぃな」
「つーかよぉ!なんでガキがいんだよ!」
「あ?いちゃわりぃかよ?」
「ガキが来るなんざきいてねぇんだよ!ガキが喜ぶお菓子の準備してねぇぞクソがぁ!」
「「「?」」」
「あ、羊羹食べたい。食べていい?無人くん」
「ダメだ。」
「ガキが来るならハッピーターンでも用意すんのによぉ!羊羹しかねぇ!羊羹食うか!?コラァ!」
「「「?」」」
「大我って輩っぽいけど死ぬほど優しくて、聖母って呼ばれてるんだ」
「聖母…」
「だいたいガキが何しにきてんだ!?戦場のど真ん中だぞ!!危ねぇんだぞ!」
「今回の杉並奪還に参加させる」
「無陀野先輩よぉ、毎回思うんだが…学生のうちに戦場出すのはどうかと思うんだがなぁ!」
「戦場を知らず卒業後放り込む方が危険だ。守るだけが優しさじゃないんだ。お前も学生時代戦場に出た経験が役に立ってるだろう」
「若者の成長を侮っちゃいけない!彼らは強いしまだ強くなる!溢れる若さが戦場に活気をもたら…ガハッ!」
「おい猫ぉ、血ぃ飛んでんぞぉ」
「すみません!黙らせます!」
「わかったよ…けど怪我したらすぐ京夜先輩と柚の所行けよ!子供が傷つくこと以上に胸が痛むことなんざねぇんだぞボケがぁ!」
「「「(優ー!)」」」
「お前んとこの隊長どうした」
一ノ瀬たちの話題が一区切りついたところで、淀川が口を挟む。
話を進めている百鬼は副隊長。今この場には杉並鬼機関の長がいないのだ。
返答しようとした百鬼の言葉を遮るように、外から若い女性の声が聞こえてくる。
“最低”というマイナスワードに興味を引かれ一ノ瀬・矢颪・遊摺部が外へ顔を出せば、そこには女性に詰め寄られている1人の男性がいた。
「私以外に何人の女とできてんの!?」
「えーっと26人?」
「限度があんだろ!この玉袋野郎!」
「なんだあのヤリチンクズ男」
「彼女が26人…?1人しかなれないもんだろ…?」
「あ、矢颪君キャパオーバーしてる」
「(これだから玉袋筋太郎は困る)」
聞こえてくるやり取りに、以前淀川から言われたことを思い出す鳴海。
少し大げさに言っているのかと思ったら、本当に無類の女好きだったことに思わず驚きが顔に出てしまう。
“皆を100%愛してるのに怒られる理由が分からない”
ウイスキー片手にそうボヤキながら部屋に入って来たのが、ここの長・朽森紫苑であった。
「無陀野先輩、京夜先輩、真澄先輩お疲れ様っす。ってなんで子供いるんすか?」
「今回のメンバーだ」
「え~子供ってすぐ死ぬから嫌いなんだよ~」
「ムカつくな…酒飲んでるし」
「枝噛んでるぞ」
「いつか女性に刺し殺されるよ」
「はは!いいなそれ!女に殺されるなんて最高じゃん。どうせ俺ら戦場で独り野垂れ死ぬんだから、それに比べりゃ幸せじゃんか」
「イライラしてきた…」
「落ち着いてください隊長」
その後すぐに朽森は屏風ヶ浦をロックオンし、流れるようにナンパを始める。
それを横で聞いていた鳴海は、先程の彼の言葉を少し重めに受け取っていた。
援護部隊としては心臓が苦しくなるような言葉が並んでいたから…
いくら本人が望む形であっても、死にはどうしたって悲しみが伴う。
だからそんな悲しい結末は、何としても避けなければいけない。
自分の役割を今一度認識し手に力が入る鳴海だったが、不意に頭に感じた優しい感触にハッと我に返る。
視線を向ければ、自分の頭に手を置きながら笑みを見せる朽森と目が合った。
反射的にその手を払うと、彼は目線を合わせ声をかけてきた。
「ゆっくりできましたか?」
「…お陰様で」
「…うん、確かに顔色いいな」
そう言いながらごく自然に頬に手を添える朽森は、やはり百戦錬磨のチャラ男であった。
鳴海が反射的に殴ろうとしたのを無陀野が止めようとしたが間に合わず朽森の顔面に拳がめり込んでいた。
「前が見えねぇ…」
「お前顔がケツ穴みたいになってんぞ」
「紫苑が悪いね今のは」
「確かに紫苑が悪い」
「みんなして酷い…」
馨達に朽森が責められている中、鳴海は鳴海で無陀野達に慰められていた。
「今回は結構耐えたな。偉かったぞ」
「30秒も耐えたのは偉いぞ。壁も壊してねぇから成長したな」
「俺だってテカゲンできるもんね!ε-(`・ω・´)」
「それって褒めていいとこなんですか?」
偉い偉いと褒めることによって鳴海の機嫌はどんどん良くなる一方で顔が元に戻った朽森は いつもの軽い感じに戻っているのだった。
「でも女の子は大勢愛してなんぼっすよねぇ、京夜先輩!」
「戦場じゃ大勢に手を差し伸べるけど、恋愛においては一途主義なんだ」
「時間の無駄だ。話を進めろ」
今まで静観していた無陀野の一声で、ようやく打ち合わせの空気が戻って来る。
隊長が到着しても、場を仕切るのは百鬼であった。
「現状だが、杉並区鬼機関も中心地!高円寺が襲撃された結果、ほぼ壊滅状態だ!
医療部隊も偵察部隊もやられちまったから、真澄先輩!京夜先輩、あと昨日から鳴海先輩にも来てもらってる! さらに今は高円寺一帯を桃に包囲されて、周辺に住む一般の鬼はいまだ避難できず隠れているが、見つかって殺されるのは時間の問題だ! 高円寺以外の鬼は鳴海先輩たちのおかげで避難が終わってるのが唯一の救いだ!」
「よく逃げられたな」
「街に住む鬼は基本鬼機関に登録するんだ。そうすれば緊急時の避難方法を教わったり、何かあったとき探してもらえるからね。街に住む鬼の見回りなんかも業務の1つだよ」
「へー」
「今回最初に高円寺が襲撃されたから、すぐにその情報が伝わって周りの鬼は避難できたって感じだよ」
「包囲って?一般人装って逃げりゃいいだろ」
「できたらやってるよバーカ。見ろ」
皇后崎の疑問に答えた淀川は、そう言いながらタブレット端末を取り出す。
映し出された映像には、高円寺周辺に有毒ガスが漏洩し完全封鎖されたと速報で流れていた。
もちろんこれは誤報であり、桃太郎機関の作戦の内である。
「さらに厄介なことがもう1つ。血液で鬼かどうか判別できるもんを桃が開発しやがった。
有毒ガスに害されてないかって名目で検査されちまうから、隔離地域外に逃げたくても逃げれねぇんだよ」
「取り残された鬼は100人弱!優先すべきは鬼を見つけて避難させること!」
「避難って言っても、包囲されてるのにどうやって?」
「この地下通路はいくつか隣の区に避難できる道があるんだよ」
「鬼の避難ともう1つ!やることがある!杉並区の桃の隊長を討つ! 杉並区での決定権は杉並の隊長が持ってる!隊長を討ち取れば決定権を失い、作戦は終了し包囲も解かれる!」
「杉並の隊長ってどんな奴?」
「ん~ぶっちゃけあんま表に出ないんすよね」
今までこれほど大規模な争いはなかった。何故急にやる気を出して来たのか…
花魁坂に答えを返す朽森は、そう言って話を締めくくった。
薄暗い部屋で1人掛けのソファに座る桃太郎機関の隊長格。
目の前のローテーブルには、銀行等で見かけるような金を数える機械がひたすら動き続けていた。
「隊長…無陀野一行が杉並に入りました」
「そうかぁ。花魁坂、真澄にはそれぞれ5千万…無陀野には1億…鬼神の子には3億…
全員殺せば、合わせて5億の特別報酬が本部から受け取れる。あとあの生け捕り命令が出てた…名前なんだっけ?」
「斑鳩鳴海、ですか?」
「あーそうそう。そいつも捕まえときたいんだよね」
「命令は取り下げられたのでは…」
「それは上層部からの生け捕り命令な。桃原家自体からまだ生け捕り命令は出てる。売れば相応の金額も用意すると出てるしドカンと稼ごうじゃねぇの」
札束を持ちながらそう言って笑みを見せるのは、桃太郎機関15部隊(杉並)の隊長・桃際右京であった。
そして彼のいる部屋へ向かう2人の桃太郎。
「まさか俺らが応援要請で出向くとはなぁ。すでに壊滅状態だろ?楽しめんのか?」
「ミョリンパ先生の占いだと、応じるが吉ってあるから大丈夫さ」
練馬の桃華月詠と桃角桜介もまた、高円寺の戦いへと参戦する様子。
因縁の対決が再び始まろうとしていた…