テラーノベル
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子育て系は放置しているそこそこ人気なやつがありますけれど、今回のやつはほとけがお姉ちゃんで下の子はオリキャラです!苦手な人は引き返してくださいね〜
人気があったら続けたい(気持ちもある)
9月の初め、まだまだ残暑の厳しい夕暮れ。
窓の外からはセミたちが最後の力を振り絞るように大合唱を響かせていた。
「……ごめんね、いふくん」
ほとけはそれだけをぽつりと残して俺に背を向けた。
理由を聞いても、引き留めようとしても、彼女は泣きも怒りもせず、ただ静かに俯いて謝るばかりだった。
(俺のこの気持ちは、報われることはないんやろか……)
はっきりとした理由もわからない失恋は何日経っても心に引っかかって消化できず、
「諦めよう」と思えば思うほど、余計に諦められなくなっていった。
これが、俺のどうしようもない片想いだった。
───────
あの日から数日後の放課後。
いつもの帰り道、晩ごはんの惣菜でも買おうと駅前のスーパーに寄ったとき、
「あ、……」
ふと、見覚えのある後ろ姿が目に留まった。
小さな子の手を引き、カートを押すその姿。
間違えるはずがない。
だって、それは俺が恋焦がれてどうしようもない人だったから。
「……ほとけ?」
思わず声をかけると、ほとけは肩をびくりと揺らし、ゆっくりと振り返った。
「いふくん……偶然だね」
そう言って微笑んだ彼女はいつものようでいてどこかぎこちなさを含んでいた。
「その子は……?」
「妹だよ、ほのか」
そう答える彼女のそばで、幼い女の子がじっと俺を見上げている。
大きな瞳が、どことなくほとけに似ていて──
「ほのか、挨拶は?」
「はじめまちて、ほにょかでしゅ……」
恥ずかしそうに、けれどしっかりと挨拶してくれたその声に、ふわりと胸が温かくなった。
「初めまして。お兄ちゃんはいふっていいます、よろしくな」
そう言ったとき、ほとけがほんの少しだけ目を伏せたように見えた。
─────────
次の日も、その次の日も、俺は偶然を装って、ほとけたちとよく出くわした。
買い物袋を抱え、妹の手を引くのに四苦八苦する姿は、見ていて放っておけなかった。
「手伝おうか?」
「……え?」
「いや、ほとけが大変そうやから。せめて手伝わせて欲しいなぁって」
彼女は眉尻を下げて「大丈夫だよ」と言おうとしたけれど、その瞬間──
「だっこー!」
地面にしゃがみ込んだほのかが突然そう叫んだ。
「ごめん、……ちょっとだけお願い」
その日、俺はこの姉妹と関わる“最初の一歩”を踏み出した。
─────────
数日後には、俺はほとけの家にまで上がり込むようになっていた。
お惣菜を一緒に運び、ほのかをあやし、洗い物を手伝う。
いつも家には、大人の姿がなかった。
「お母さんね、ほのかを産んだあと、姿を消しちゃって……今どこで何をしてるのかも、分からないんだ」
ほのかが昼寝をしているとき、洗濯物を畳みながら、ほとけはぽつりと語った。
父親はほのかが生まれる前に事故で亡くなったこと。
それをきっかけに、母親が壊れてしまったこと。
今は親戚からのわずかな援助で、なんとかやりくりしていること——。
その声は震えていて、どこか頼りなげで。
「……やから、あの日俺のこと振ったん?」
「……うん。ほのかのお世話で精一杯だし、恋愛ってどうしたらいいのかわからなくて……
でも、いふくんのことは人として好きだから。頷いたら、きっといっぱい迷惑かけちゃうって思った」
「なんなら、迷惑かけて欲しいけど」
「え?」
「俺が勝手にほとけのこと好きになって、勝手にそばにおりたいって思ってるだけやから」
「……ずるい」
ほとけは、ぽつりと呟いた。
「そんなふうに優しくされたら……甘えたくなっちゃうよ、ぼく」
「甘えてええよ。
……あの告白も、まだ答えんでいい。
けど、そばで支えさせて。ほのかがもう少し大きくなって、
ほとけがちゃんと自分の気持ちと向き合えるようになったときに、
頭の片隅にでも“俺”のことが残ってたら、それだけで嬉しい」
「……ほんとに、ずるいよ、いふくん」
ひんやりとした秋の夕暮れの風が、頬をそっと撫でる。
その風が、ほとけの背負う重荷を少しでも運んでくれるようにと心から願った。
───────────
ほのかが俺に段々心を許してくれるようになった頃には、
いつの間にか三人で夕飯を囲むことが当たり前になっていた。
「今日の晩ごはん、何がいい?」
「はんばーぐ!!」
「また?つい最近も食べたでしょ〜?」
「ねぇねのはんばーぐ、だーいしゅき!ねっ、いふにぃ!」
「せやなぁ、ほとけのハンバーグは、めっちゃ美味しいもんな」
「もぅ……ふふ。今日も“美味しい”って言ってもらえるように頑張って作るね。
いふくん、ほのかのことよろしくね」
ほのかの頭を撫でながら、ほとけがそう笑う。
「おう、任しとけ。……こちらこそ晩ごはん、いつもありがとうな」
こんな何気ない日常の中に、確かに“愛しさ”が積もっていく。
恋人という特別な名前じゃなくていい。
ただ、今は──
そばにいて、重荷を分け合って、心の拠り所でいられることが嬉しい。
【番外編〜ほのかがいふにぃと呼んでくれるようになった日〜】
初めてほとけの家に上がった日、
ほのかは俺のことをじっと見てはクッションの影に隠れたりしてた。
顔を合わせるのは初めてじゃない。
スーパーや帰り道で何度も会ってるし、そのたび「ほのかちゃん、こんにちは〜」って話しかけたりもしてた。
けど、家の中っていうのは、たぶん“テリトリー”なんだろう。
俺の存在がちょっと不安やったんか、声も出さずにほとけの足にぴったりくっついて離れない。
「……知らない人じゃないよ、ほのか。いふくんだよ。」
ほとけが優しく言っても、ほのかは何も言わんまま、俺を見つめてるだけ。
「無理せんでええよ。ほのかちゃん、お邪魔してごめんな?これ、動物型のカステラ。良ければ食べて?」
そう言ってそのカステラを袋ごと渡し、ほとけと並んでテレビを見ながらのんびり座ってた。
俺が来たからって気ぃ張らせたくなかったし、焦る必要もないと思った。
────────
何日か、そんな時間が続いた。
ほとけの家に夕飯までお邪魔して、皿洗いは軽く手伝って、夜の7時半には「ほな、帰るわ」と挨拶して帰る。
ほのかが表情を緩めることはあっても、話しかければすっと目を逸らされるし、言葉もほとんど出てこない。
でも、明らかに“嫌い”ってわけやないと思う。
俺が来ると、玄関の方をチラチラ見るようになった。
帰るときには、ちっちゃい声で「ばいばい……」って言ってくれる日もあった。
(ぼちぼちやな……)
そんなある日、夕飯後に帰ろうとしたとき、玄関先でほのかがぽそっとつぶやいた。
「……いふにぃ、かえるの?」
俺は思わず振り返って、
「ん?いま、“いふにぃ”って言うた?」
「……」
「俺のことやんな!? わ、めっちゃ嬉しい!」
「騒ぎすぎ!…ふふ」
そう言って笑ったほとけの声も、どこかくすぐったそうやった。
───────
その日を境に、ほのかは俺を“いふにぃ”って呼ぶようになった。
晩ご飯を食べてるときも、
「いふにぃ、にんじんたべて!」
と、自分の嫌いなにんじんを押しつけてくるようになったし、
「いふにぃ、おさら、あらう?」
って皿洗いの横に椅子を持ってきて、得意げに布巾を持って手伝おうとする。
もちろん、水浸しになるんやけど、それが愛おしい。
でも、時間がきたら俺はちゃんと帰る。
「また明日な、ほのか」
「……あしたも、くる?」
「来てもええん?」
「……うん」
「ほな、来るな。ほのか、ねぇねの言うことちゃんと聞くんやで」
「…うん、おやすみ」
小さな手を振ってくれるその瞬間が、たまらなく嬉しい。
──────────
ほのかにとって、俺は“特別な人”じゃない。
けど、“いてくれると安心する人”にはなれてる気がする。
そしてたぶん、それは──
ほとけにとっても、少しずつそういう存在になれてるんじゃないかなって。
fin
コメント
2件
このお話めっちゃ好きです!😖💕めっちゃ私に刺さりました() 続き、ほしいな👉🏻👈🏻((なんて これからも無理せずにがんばってください!!