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Nice!これは美しい小説です!!
午後1時。
私は、次の会議の予定を確認すべきと、スマホを開いた。
「第三次世界大戦」………。
その言葉を耳にし始めたのは10年ほど前だ。現在の日本では急激な物価上昇、外交関係の悪化から、近いうちに核戦争が起こると言われている。
「尾崎大臣。国会、始まりますよ」
秘書に名を呼ばれ、咄嗟に振り向く。
「大臣」なんて呼ばれるのはいまだに慣れていない。だが、自分がその責務を負うことになってしまった以上、私は「大臣」なのだ。
ずっと彼、「尾崎慎」は「エリート」として育ってきた。僅か1歳で漢字を読めるようになり、4歳で九九を覚えた。
小学校や中学校は公立で、如何にも優等生だった。常に学年トップを維持していた。
高校は県内で1番偏差値の高い高校、そのまま名門国公立大学の経済学部へ進学した。
そして54才になった今、内閣の最前線に立ち、政治を行なっている。いつから自分はこうなったのだろう。
真面目で完璧であることを昔から強いられた行く末がこれである…。
「尾崎大臣、お疲れ様です」
秘書がコーヒーを淹れてくれたようだ。
「ありがとう、」
私はそれ以上何も語らなかった。
日本の状況…それは、時が進むにつれ悪化している。
度重なる増税によって生活が苦しくなり、自殺率も急上昇した。周辺国との関係は悪化して、いつ戦争が始まるのか、と常に秒読みの状態。そのうえ、南海トラフ地震の想定震域での地震活動は活発化し、昨晩も静岡県で震度5弱を観測する地震が起こった。
「今日の会議もなかなかだったようですね 」
秘書が呟く。
「ああ…どうも、あの党では我々の政策は反対らしくてな。日本の政治も益々悪い方向に行くばかりだ」
「そんなこと言わないでくださいよ…。私たちがどうにかしなくてはいけないのに」
秘書のカップを持つ手が震えている。
「……」
私は、秘書にかける言葉が見つからなかった。
しばらくすると、「お疲れ様です」と小さく礼をし、彼はラウンジを去った。
私はふと、中学時代に思いを馳せていた 。
あの頃、共に成績を競い合っていた元井は、健人は、いつも賑やかだった颯人は、みんなから信頼されていた慶大は………今、何をしているのだろう?生きているのか?
もし生きているのなら、もう一度話がしたい。願わくば、もう一度あの頃のように、みんなの笑顔が見たい。中学生のこの時間を、何より大切にして欲しい。未来はこの国からどうにか逃げて欲しい。…………私はそう伝えるだろう。
そんなことを考えていると、無性に自分を殺したくなった。こんな国にしたのは私たちの責任だ。今の自分だったら、駅のホームに身を投げ出すことも容易いだろう。
このまま電車で帰ったら間違いなく私は自ら死を選ぶ。
私は次の駅で降り、タクシーで帰ることにした。