突然の吐き気と呼吸の苦しさに起こされ、私は目が覚めた。ご丁寧に自分の体に被せられていた布団をソファの隅に寄せ、起き上がる。
寝起きでぼんやりとする視界に映ったのは記憶にある自分の部屋ではなく、馴染みのない風景と他所の家特有のあの居心地の悪い澄んだ空気が自身の肺を埋めた。
そこにはテレビもなく、私が寝かされていたのもベッドや布団などではなく少し大きめのソファだった。本当に人が住んでいるかと疑ってしまうそんな中で唯一家主の生存を認識できるのは、広い水槽の中で優雅に泳ぎ回っている4匹の綺麗な魚たちと、部屋の隅にポツンと置かれているアコースティックギターの存在ぐらいだ。
─…どうしてここにいるんだっけ。
そもそもここはどこなのだろう。
眠ってどれくらいの時間が経った?
誰かがここに連れてきたの?
もしそうだとしたらどういう目的で?
そんな意味の分からないこの状況を理解しようと、何故だか不自然なほどにふらふらとする頭が必死に情報を噛んでいくが、何も思い出せない。頭の中に眠気とは違う大量な霧が纏わりついているような不愉快な重さがあり、私の記憶を封じ込んでいる。
『だ、誰かいないの…?』
震えを帯びている声で人気のない室内にそう呼びかける。
だが、数秒待っても帰ってくる言葉はなかった。
そんな良い意味でも悪い意味でも静かすぎる空間に、困惑を超えて怯えのような影が表情を作る。
とにかく、人が居ないなら今のうちに外に出ておいた方がいいだろう。
そう思い立ち上がろうと足に力を込めた瞬間、後頭部に鉄パイプのような何か硬いもので殴られたような鋭い衝撃が走った。視界の端で白い火花が飛び散るのが見えた瞬間。自身の足から段々と力が抜けていき、膝が冷たい床にぶつかる。
『…へ』
ガタガタと痙攣する自身の体を見つめ、困惑の息を洩らす。
─…あれ、立ち上がれない。
そう理解した瞬間、喉の奥で軽く疼いていた吐き気と息苦しさがどかんと耳の傍で大きな音をたてて爆発した。それと同時に強い眩暈がグラグラと視界を左右に揺らし、目の前に映る景色が安定しない。車酔いの時と似た吐き気が波を寄せるように喉の奥からやってくる。
初めて感じる言葉にできないほどの苦痛に、ギュッと体を縮めて置物のように床に蹲っていると、カランという何かが揺れる音とともに顔の横に水の入ったコップが置かれた。
「…大丈夫か?」
自分ではない低い男の人の声が耳に触れた瞬間、驚きと恐怖が1つになって鳥肌の浮き立つ皮膚を冷や汗がなぞる。心臓が縮み、ヒュッと喉が嫌な音を立てた。
大量の嘔吐感を含んで重くなった体を無理やり動かして声の主を見つめると、どこか見覚えのある青年が私を見下ろしていた。
続きます→♡1000
なんか書いた後に思ったんだけどこの話“約束”に似てるかもね。最終話は全然違う結末だけど
コメント
4件
見覚えがあるって…!!? もう最初なのに最高じゃん😿💗 書き方とかほんと好き😵💫😵💫💖
く ろ た ん た ん の 表 現 ま じ で 好 き 。 ス ト 書 く 天 才 だ よ ね ?