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はるか
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『愛なんて、』 第6話 sn編①
いつか伝えた『愛してるよ』って言葉に仁人は幸せそうに微笑んでいた。耳まで真っ赤にさせて照れているそんな仁人が本当に愛らしくて一生そばにいたいと本気で思っていた。
大学1年の時に仁人に出会った。
受けたい講義でたまたま隣の席に居たのが仁人で初めて見かけた時、綺麗でどこか可愛らしい顔の人だなぁ…が第一印象だった。その時は挨拶だけだったが、2度目、3度目と見かけるうちに目が離せなくなった。友達になりたい、どんな人なのか知りたい。だたそれだけだった。
いつもひとりでいる仁人に声を掛けた。
友達になりたいと正直に伝えれば断られた。
まさか断られるなんて思ってもいなかったから驚いたけど負けじと何度も何度も真正面から友達になりたいと言い続けて、さすがに懲りたのか半ば諦めもあったのだろう、「じゃあ…ぜひ…」なんてよそよそしくオッケーしてくれた。
後から理由を聞いたが「友達になったのに失うのが怖い、それだったら最初から友達はいらないと思ったから」だそうだ。なんて繊細な人なんだと思うと同時にそんなに怖いはずなのに自分と友達になってくれたことが嬉しくって、とてつもなく可愛らしい人だなと心臓が跳ねた。
この時きっと仁人に恋したんだと思う。
友達が仁人以外全くいないわけではなかった。それなりに友達はいて、よくつるむ人もいたし、高校も同じでよく話していたりする人もいれば一緒に遊び行く人もいた。
でも居心地が良いのは仁人がとなりにいる時だった。恥ずかしい時に口を両手で覆ったりだとか、可愛い顔なのに本当に楽しそうにするときに出る悪魔のような笑い声だったり、ギャップやひとつひとつの仕草にいちいちときめいていた。
一度、仁人が俺が知らない奴と笑い合ってるのを見かけた時、生まれて初めて嫉妬という感情が溢れんばかりに湧いてきて戸惑った。なんで俺がいるのにそんなに楽しそうにしてるのって。それから仁人を振り向かせるのに必死になった。俺以外で笑ってほしくなかったんだ。自分がこんなに独占欲があるなんて知らなかった。
一人暮らしの俺の家に仁人を招き入れたあの日。ある出来事が起きた。
夜、ソファー並んで座り、仁人がみてみたいと言っていた映画を観ていた。仁人も知らなかったみたいだけどまさかの男同士の恋愛の映画だったので目をギョッとさせてしまったが、段々内容が進むにつれて引き込まれていった。主人公と恋人がが駆け落ちに失敗してしまい、離ればなれになってしまうシーン。お互い無言で観ていたが隣の仁人の顔をなんとなく横目で見たら大きな目から涙が静かにひと筋頬を伝っていた。
「…!?…仁人、どうしたの…」
「……いや、いつか勇斗とこんな風に離ればなれになっちゃうのかなって想像したら…泣けてきて…」
ーーーなにそれ、可愛い
俺たち、付き合ってないのにそんな想像しちゃうんだと思うと嫌悪感なんて全く無くてむしろめちゃくちゃ嬉しくて可愛くて抱きしめたくなった。
「俺が仁人から離れるわけないだろ、こんなにもずっと仁人に夢中なのに……」
「…え?」
「たぶん…いや、きっと、仁人のことが好きなんだ…誰にも渡したくない。俺だけを見てて欲しい。だから、俺と付き合ってほしい…」
「えっと…気持ちは…嬉しいけど、俺…」
「わかってる。失うのが怖いんだろ?俺は仁人のそばにずっといる。絶対離さないから…めちゃくちゃ大事にする」
「…勇斗」
「好きです、俺と付き合ってください」
「……おれも、ずっと言いたかったけど…本当は勇斗のこと好きだった…」
泣きながら嬉しそうに笑う仁人が愛おしくて強く抱きしめた。苦しいよ、と言われるが離してやらない。俺の腕の中にずっと閉じ込めておきたいくらい、宝物のような大切な人ができた日だった。
※
「……じんと」
目を覚まして、愛おしい人の名前を呟いても返事はなかった。大学の時の仁人に想いを伝えた日のことが夢に出てきた。
今寝ているひとりにしては広すぎるベッド。
アパートに住んでいた頃は男2人が寝るには狭いベッドで、でも俺は仁人とくっついて眠れるから全然嫌ではなかった。暑苦しいなぁなんて文句を言っていたけどを、照れ隠しで言ってることは気づいていた。
仕事から帰ってきたら仁人の荷物が全てなくなっていた。置いてあった段ボールが全部。
まるで最初からなかったかのようにこの家にあった仁人のものが綺麗さっぱり跡形もなく消えていた。
テーブルにはこの家の鍵がポツンと置いてあった。
静かすぎる部屋を見渡してあぁ本当に出て行ってしまった、俺たちの関係は終わったんだと実感した。「さよなら」も言えなかったし言ってもらえなかった。この家から色が消えた気がした。
仁人から別れを切り出された時、本当は嫌だと言いたかった。仁人が泣きそうになっているから抱きしめてあげたかったけど、できなかった。
『男同士なんて報われないのに』
ズキンッと痛む。
思い出して髪をくしゃりと掴んだ。
痛い、心が。
「………情けねぇな、俺」
俺は怖くなって逃げたんだ。
離さないとか、大事にするとか言ったのに…
なにひとつ約束を守れなかった。
どうしようもない、弱い男だ。
※
新卒で入社した大手の会社に勤めて数年経った頃、20代後半にもなれば先輩や同僚たちに結婚したり子どもが生まれたりする人が増えてきた。
結婚は仁人としたかったが現実的にこの国ではできないのは知っていた。それに別に誰と誰が結婚しようが全然興味がなかった。
「お、佐野じゃん」
「おーっす」
「まーたぼっち飯じゃん」
「うっせぇな、いいだろ別に」
ある日の昼休憩中。
いつもの通り休憩室でひとり仁人がいつも作ってくれてる弁当を食べていたら、2、3人の同僚たちが外でランチを食べ終えてやってきた。みんな周りに座り始めて、他愛ない会話を始める。ひとりで食べてても結局同僚たちが集まってしまうのだ。
「佐野の弁当いつも美味しそうだよなぁ、自分で作ってるんだっけ?」
「いや、恋人が作ってくれてる」
「えー彼女いたんだっけ?写真見せてよ」
「やだ。それに恥ずかしがって写真撮らせてくれない」
「なんだそりゃ、本当に彼女いるんか?」
「いるわ!嘘ついてどうすんだよ」
女性じゃないけどな…と心で言いつつ実際、仁人のこと写真撮ろうとしたら恥ずかしがるので撮っていない。なんせ本人が嫌がっているものだから強制はしたくなかった。
でも時折、ツーショット撮ろうと突然言うのでそれはそれで全然嬉しかったりする。
それに、こいつらに仁人のこと見せたくないし。
「そういえばお前、結婚式いつだっけ?」
「まだ半年以上先だよ、色々決めることあって忙しいんだよなぁ…招待してやっからお前ら来いよ」
「上から目線の奴の結婚式なんて行きたくねー」
ゲラゲラ笑い合うもんだから、うるさいなぁと思いつつ薄ら笑いをしながら弁当を食べる。
「佐野は?今の彼女と結婚すんの?」
「んー……今のところ結婚はしないかな」
「へぇ、佐野は結婚とか早そうなのに意外だな」
「子ども好きとか言ってなかったっけ?」
「まぁ子どもは好きだけど…」
「彼女子ども欲しいとか言ってないんだ?」
「……」
じわりじわりなにか迫り来る感覚。
やめろ、これ以上は何も聞くな。
俺にもう構うな。放っておいてくれ。
嫌な予感がしてこの場に居たくなくて食べ終えた弁当箱を片付ける。席を立とうとしたその時。
「さっきからなんではぐらかすんだよー…まさか相手が男だったり?」
ドクン、と心臓が嫌な音が鳴った。
背中に冷や汗が伝うのがわかる。
何も言わずに動作が止まる俺を見て、同僚が不思議そうにする。
「佐野?どした?」
「………いや、なんでもない…」
「焦った〜佐野が本当に男と付き合ってるかと思ったわ」
「………違うよ…」
そうだよ、なんて今この場で言える勇気がなかった。俺は仁人のことを否定してしまったのだ。
「でも俺、男と付き合うとか絶対無理」
「だよなぁ、気持ち悪い」
「なんか可哀想」
「男同士なんて報われないのにな」
ゲラゲラ笑い合う同僚たち。グサグサと心ない言葉が刃となんて俺に突き刺さる。当事者でもないくせに、好き勝手言いやがってなんて言いたくても言えない。テーブルの下で怒りで握りしめている手が小さく震えて耐える。これ以上俺たちのことを言われなくなかった。
その日の夜、仁人に「元気ないね?」と気遣われた。同僚たちに心ないこと言われたなんて、言えるはずなかった。だって俺はあの時1回だけとはいえ仁人ととの関係を否定してしまったのだ。仁人に嘘は言いたくなかった。だけど正直にいうのも迷った。それを知ってしまったら仁人が悲しむのは分かりきっていたから。
昔より多様性だなんだと言われてる時代になったが、まだまだ自分たちのような人たちは受け入れられていない現実を突きつけられた気がした。
仁人が今日のような言葉に傷つけられるのは嫌だった。泣いてほしくなかった。
(世界が俺たちふたりだけだったらいいのに)
その日、泣きそうになるのを堪えて俺は優しく仁人を抱いた。
続
世間体を気にし始めるsnさん
追記:次回jyuさん編
コメント
5件

更新待ってました!ありがとうございます。 ふたりには幸せになってほしいです…
世間体か〜…。 なかなか難しいですよね💦 🩷さん、めちゃくちゃ💛さんを愛してるのに、なぜ、あんなに冷たくなってしまっていたのか…。これからその真相がわかるんだろうな〜と思いますが、この二人に幸せになってほしいです…😭