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若井に「今日は見ないよ」と優しく言われて、涼ちゃんの体から一気に力が抜けた。
けれどその直後だった。
若井が涼ちゃんの顔を覗き込んで、眉を寄せる。
「……涼ちゃん?
ちょっと、目…合ってないよ?」
涼ちゃんはゆっくり視線を動かそうとするけど、
目が泳いで、焦点がどこにも定まらない。
「……ん、なんか……ぼやけ……て……」
その声も弱くて、空気に溶けていきそうだった。
若井は不安そうに涼ちゃんの頬に手を当てる。
「涼ちゃん、こっち見て。
ねぇ、俺の方……」
けれど涼ちゃんの瞳は、
若井の顔を通り抜けるみたいに遠くを見ていて、
まぶたが何度も重たそうに閉じかける。
「いや…ちょっと……
なんか、目が……回る……」
涼ちゃんがぐらっと体を傾けた瞬間、
若井が慌てて支える。
「涼ちゃん!?
ねぇ、しっかりして!」
肩を軽く揺する――
けど涼ちゃんの頭はふわっと揺れたまま戻らず、
目は半分閉じかけている。
「やば…これ副作用じゃん……」
若井の声が震えた。
そのやり取りを見ていた元貴が、
すぐに決断したように涼ちゃんの前へ来る。
「若井、もういい。
揺らしたら余計危ない。」
元貴はしゃがんで、倒れ込みそうな涼ちゃんを両腕で抱え込む。
涼ちゃんは弱く抵抗するように
「だいじょ…ぶ……歩ける……」
と呟くけど、
足に力が入っていないのは完全にバレている。
元貴は静かに、
でも迷いなく涼ちゃんの体をすっと持ち上げた。
――お姫様抱っこ。
ふらつかせないために、
腕の力をしっかり使って涼ちゃんの背中と膝裏を支える。
持ち上げられた瞬間、
涼ちゃんの腕が元貴の服を弱く掴んだ。
「ちょ…元貴……いいよ……自分で……」
「無理だよ。
今の涼ちゃん、歩けない。」
元貴は低く落ち着いた声で言いながら、
涼ちゃんの頭が自分の肩に寄りかかるようにそっと位置を整える。
若井はその隣で、
心配そうに歩幅を合わせながらついていく。
「寝室で休ませよ。
これ以上立たせたら倒れる。」
元貴の腕の中で、
涼ちゃんはもうほとんど目を開けられなくなっていた。
胸の前で握っていた手がゆるんで、
呼吸も少し浅くなる。
若井がそっとその手を握り直し、
「涼ちゃん、大丈夫だからね…
すぐベッドつくよ…もうちょっとだけ…」
声をかけながら、
3人はゆっくり、静かに寝室へ向かった。