好きなもの

「はぁー………」

何とか火照った顔を冷まし、適当に買ったジュースを持って楽屋に戻れば、さっきまでいなかったメンバーも全員集まっていた。何やかんや、僕が一番遅かったんだ……

「あ、ヒョン。何処行ってたんですか？」

「ちょっと自販機……」

「え〜！何か買ってきてもらえば良かったー…」

「……これで良かったらあげる」

「え！良いんですか？ありが……何、この味」

「？、何味だった？」

「見ないで買ったんですか？わぁー、通りで……これ、ブルーベリーと胡瓜って……」

「青汁的なやつだと思えば、健康で良いんじゃない？よし、飲め！」

「嫌だよ！こんなところに使う勇気はない！」

…ぼーっとしてたから、何も見ずに買っちゃったけど、凄いの買っちゃったんだな…ジミニに悪い事しちゃった。ここぞとばかりにジミニを煽っているテヒョンイを横目に見ながら椅子に座れば、誰かが隣に座ってきた。

「？、………ジンヒョン……」

「具合悪いの治った？」

「？、具合……いや、別に悪かったわけじゃ…」

「そうなの？顔が赤かったから、てっきり…」

「いえ……そういうのじゃ……」

ヒョンが格好良すぎるから、なんて口が裂けても言えない。もし、言ってしまったら揶揄われるか鼻を高くするかのどっちかだろう。こっちは本気でドキドキしたのに、揶揄われるのは嫌だ…

「…じゃあ、何で赤くなったの」

「………え？いやぁー……」

「何。何かあったから赤くなったんでしょ？」

「えっと………ちょっと、照れちゃって？」

「…照れ？何に？いや、誰に？楽屋にいたのは…ユンギ？ナムジュナ？それともテヒョナ？」

「？」

「あんな顔が真っ赤になるくらい照れる事ある？しかも、メンバーに対して。いつも見てる顔じゃん」

「……そう、ですけど………」

そう言われてしまえば、そうですとしか言いようがないんだけど……でも、

「…格好良かったから………」

「はぁ！？」

「！？」

「ぁ……えっと……いや、うん……そうだよね？何回見たって、格好良いものは格好良いもんね。そりゃそうだよ。照れるのも仕方ない。……はぁー……」

…ジンヒョン、いきなり大声出して怖い顔になったかと思ったら凹んでるし…情緒大丈夫かな…下向いちゃったし。滅多に見ない荒ぶり方に心配になって見ていると、徐に顔を上げてこっちを振り向くジンヒョン。その顔は真剣そのもので、不謹慎にもまたときめいてしまう心臓。

「………誰？」

「…誰？」

「誰が格好良かったの。誰がそんなに照れるほど格好良くて部屋を出てったの」

「……い、いや、皆「ホバ」………」

誰？そんなの、ジンヒョン一択じゃん。だってジンヒョンと話してたじゃん。話してて、急に他のメンバーが目に入って格好良くてとかあるわけないじゃん。……でも…真剣なジンヒョンには申し訳ないけど……！

「…ユ、ユンギ、ヒョン………」

「……ユンギ？」

無理！真正面から堂々とジンヒョンが格好良かったですなんて今の僕には言えない！メンバーモードなら全然言えるけど、今の僕は完全にジンヒョンを好きな人として見てしまっている！好きな人に格好良かったなんて、とてもじゃないが恥ずかしくて言えない！冗談ぽく言える雰囲気じゃないから余計言えない！！

「そ、そうです。ユンギヒョンの珈琲飲んでる横顔が綺麗で格好良くてわぁーって……」

ユンギヒョンごめんなさい…珈琲飲んでたかどうかすら知らないのに、勝手に話を振ってしまって……ちらり、とユンギヒョンの方に視線を向けると、何故かげっそりした顔をしているユンギヒョン。…何か疲れた顔してる……よりによって今、そんな良心が痛む顔しないでよ……

「……ユンギ……そう……ユンギ、なんだ……」

「そ、そうですね……やっぱり、同じラッパーですし、sopeですし……」

「sope…そうだね」

「………えっと………話は、これでおしまいですか？」

「……うん。急に聞いて悪かったね」

「いえ………」

…また凹んじゃった……何でそんなに落ち込んでるんだろう…ビジュアル担当だから？これからの撮影でちょっと不安なところがあって、僕がたまたま格好良いって言ったのに敏感に反応。その結果、僕はユンギヒョンって答えた…少し不安に思っていたのに更に不安が膨らんで、凹んでる…とか？悪い事しちゃった……

「…えっと……ジンヒョンも格好良いですよ？」

「…そう……僕、も、ね……」

「いや、そういう意味で言ったんじゃ……」

「…もうすぐ時間になるね。トイレ行ってくる」

「ヒョン………」

カチャッ…バタン……

…あんなに落ち込むなんて…

「…悪い事しちゃった……」

「本当だ馬鹿野郎」

「…？、何でユンギヒョンに馬鹿って言われなきゃいけないんですか」

「俺の気持ちも考えろ」

「？」

「はぁー……苦労増やしやがって……」

「…苦労？僕がいつ増やして……」

「いや、もう良い。てか、そろそろ時間になるぞ。上着でも着とけ」

「…はい………」

ユンギヒョンは何であんなげっそりしてるんだ？しかも苦労って…別に、増やすような事はしてないけど。最近、一緒にスタジオ入ってるし、仕事は分担出来てると思うんだけどな……謎だ。