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#💛💜
愛日
1
男が接近していると阿部から連絡を受けて、声をかけられて思わず持っていたバッグを当てたら、ハンカチを落としたと差し出していた。
🧡「あっ! すんません!」
慌てて駆け寄って立ち上がらせる。
🧡「ほんまごめんなさい! ビックリしてもうて」
「いや、大丈夫です」
そう言って男はハンカチを向井に押し付けるとそのまま歩いて行ってしまった。
🧡「あー、やってもうた……ええ人で良かったわー。阿部ちゃん、今の人は違ったで」
耳を抑えながら喋るものの、阿部からの返事はない。
🧡「おかしいな。阿部ちゃん?」
もう一度呼んでみたけれど、やはり返事はない。後ろを振り返ってみる。
🧡「いない」
来た道を戻ってみる。
🧡「やっぱいない」
トイレにでも行ったのだろうか?と考えて、あの真面目な阿部がこんな時に勝手にいなくなる筈がないと思い直す。それに今、男が接近しているから気を付けるように言ってきたのは他でもない阿部なのだから。
🧡「まさか……」
途端に顔が青ざめる。
それに今、拾ってもらったハンカチを見て、その予感は更に濃くなった。
🧡「これ、俺の持ってたもんと違う! やられた!」
耳につけているイヤホンマイクを二回トントンと叩いてグループ通話に切り替える。
🧡「みんなこっち来てーな! 阿部ちゃんが消えた!!」
🖤『阿部ちゃんが!?』
🩷『え、なんで阿部ちゃん? だって、阿部ちゃん女装してないじゃん!』
💜『とにかく全員、康二のとこに集まろう。今の位置は?』
近くにある電柱に書いてある住所を伝えて、地図を見ながら皆が集まってくる。
💜『康二、移動しながら聞くから、何があったか教えて』
訊ねられて、今あった出来事を伝えていると徐々にみんながこの場に走ってやってきた。
皆の顔は険しい。
❤️「じゃあ、その康二に近づいてきた男もグルだったってこと?」
🧡「多分。このハンカチ、俺んじゃないねん」
💛「それに、後ろにいた阿部が気付かなかった落とし物を、同じように後ろの方にいた他の人間が見つけるのもおかしい」
💜「康二と阿部ちゃんの意識をそっちに向かせたかったんだと思う。そうすれば、阿部ちゃんに近づいてもバレにくい」
🤍「でもさ、女性しか狙ってなかったんだよね? 阿部ちゃんは狙われなくない?」
❤️「阿部が見せてくれた行方不明者の写真、念のために入れてたんだけど……」
スマホを取り出して、画面に四人の女性の写真を並べて表示させる。
💙「なんかさ……阿部ちゃんとも系統、似てんね」
🩷「確かに……あれ、今日の阿部ちゃんのビジュってさ……」
🧡「あ、出る前に記念に写真撮ったで」
阿部とのツーショット写真を出して表示し、宮舘のスマホと並べる。
💜「あ。これアウトだね」
🩷「阿部ちゃん、ビジュ爆発してんね」
🤍「てか、美上さんの同期にも会ったんだけど、行方不明になった人たちが圧倒的に美人だった。あ、その人が綺麗じゃないってことじゃなくてね」
❤️「もし、身長とか体系だけで無差別に選んでって、顔の美しい人だけを攫ってるんだとしたら……」
💛「お前らじゃ釣れねえわな」
💜「何よぉ!」
🧡「信じられへん!」
🤍「でも、手がかりがないからさ、これからどうする?」
どうにもこうにも情報がなさすぎる。阿部を捜すにしても、どこをどう捜していいものか……と皆が考え込んでしまう。
💙「いや待って。あの人。依頼者の美上さん。行方不明者と同じ系統じゃない?」
🩷「確かにそうかも。可愛さもある美人で、高身長で、細身! 条件ピッタリすぎるでしょ」
🧡「やから怖くなって依頼に来たってこと?」
🤍「でもさ、行方不明者の情報って阿部ちゃんしか持ってなかったよね。SNSとかにもなかったし事件の報道とかもなかったってことは、共通点わかんなくない? そもそも、行方不明者がいること自体を知らないハズ」
💜「……あ。わかっちゃった。どう考えても犯人だよ、彼女」
🧡「ぅえっ?! ほんまに!?」
💜「思えば、最初からいろいろ知りすぎてたんだ。どこにも情報がないっていう時点で警戒しなきゃいけなかった……とにかく美上さんの居場所を突き止めよう。そこに阿部ちゃんがいる可能性が高い」
❤️「今、目黒が木の記憶を辿ってる」
ここに着いてからずっと、目黒は阿部が居たらしいこの辺りの木の記憶を辿っている。今この場で、手がかりが掴めそうなのは目黒だけだから。
目黒が目を開けたのだけれど、その顔は険しい。
🖤「……あの人、美上さんが犯人で間違いないよ。阿部ちゃんの後ろから近づいて羽交い絞めにして、その後出てきた全身黒い服の男と目が合ったのか阿部ちゃんの力が抜けてた。その時に阿部ちゃん、異能封じの腕輪つけられてたと思う」
💛「腕輪か……厄介だな。力が抜けてたって事は、異能を使われたってことだろ。その状態で腕輪を付けられたんなら、阿部は動けない。救出する時に阿部の協力は得られないな」
🖤「その後、なんか魔法陣みたいなので消えていなくなった」
❤️「魔法陣……もしかしたら、いけるかも。目黒、場所どこ?」
🖤「えっと……あ、この辺」
❤️「ちょっとみんな離れてて」
目黒が指し示した場所に宮舘が立ち、他のみんなは距離を置いた。宮舘が腕を振ると冷気が地面を覆い、そこに氷で魔法陣が描かれる。
💙「これって……」
❤️「多分、魔法系の異能を持った人の力を使ったんだろうね。便利アイテムとして売ってる人もいるし。ただ、こういうのは雑だから転写したみたいに残るんだ。ラウール、解析できる?」
🤍「任せて! ちゃんと一式、持って来たんだから!」
ラウールがルーペを取り出して、地面に描かれた氷の魔法陣をまじまじと見る。
🧡「おおー。なんかめっちゃフインキあるやん」
🤍「でしょー。これが解析できたら、阿部ちゃんのとこに行けるから、ちょっと集中させてね!」
魔法陣で飛ばされた先は、教会だった。
女―――美上が人差し指だけで男を呼ぶと、男は美上の近くまで来るなり阿部を肩に担ぎ上げて歩き始める。
体には全く力が入らない。けれど、指先くらいなら動かせるからと腕輪に指を引っかけてみるが、手首から先に動くような大きさではなかった。
そのまま連れて行かれて、奥の方まで来た時に立ち止まり、床に降ろされると同時に背後にあったものに頭を打ち付けた。
💚「うっ」
痛みに声を漏らすと、途端に美上が男を睨み、ハイヒールで男の腹を蹴りつけた。
「ちょっと。この子の顔に傷でもついたらどうしてくれるの?」
「……す、すみません……」
「優しく丁寧に扱って」
それはまるで女王様のような振る舞いで、それでも男はただ従っている。
ズルズルとずり落ちていく阿部の両手首が掴まれ手枷が嵌められると、手枷に繋がれている鎖が強く上に引かれた。両手を引き上げられた状態で無理やり座らされていて、手枷がなければ簡単に倒れてしまう。
五角柱のクリスタルのような柱に括り付けられているのは、阿部一人ではない。ぐるりと柱を取り囲むように、阿部と同じように手枷を付けられている女性が四人。恐らく、例の事件で行方不明となった者達。
無理やり首を動かして右隣の女性を見ると、やつれているのが分かる。
💚「この人たちに、何を、したの……?」
「あら、話せるのね。すごいわ。あいつの異能は指定した筋肉を弛緩させるの。あ、生きるのに必要な心臓とかは動かしてるわよ。死なれたら困るもの。この子たちはね、私の美を保ってくれるの」
💚「……美を、保つ……?」
「そうよ。私の理想を現実にしてくれる。ずーっと、自分の美を私に分けてくれるの。素敵でしょう?」
💚「……」
「どうして俺がって思ってる? ずーっと捜し続けていたの。女よりも綺麗な男をね。あなたは私の理想そのものだったのよ」
どういうことなのか理解できない。
💚(女よりも綺麗な男? 俺が? いやいやいやいや。ないよ、ないない。こんな平凡なのに、何言ってるんだろう)
自分がそこまで絶賛されるような顔をしていると思ったことはない。そういう言葉は、ラウールや目黒の方が似合っている。二人とも、可愛いとか顔がいいと言ってくれるけれど、いつも内心ではそんなことないと阿部は思っているのだから。
「一週間以内に完成させなくてはならないのに、あと一人がどうしても見つからなくて困ってたのよ。でも良かったわ、あなたに会えて」
💚「会った……?」
「ええ。偶然、見かけたのよ。運命だと思ったわ。でも、あなたの周りにはピンク髪の子とか、黒髪の大きい子がピッタリくっついてて、接触ができなかったの。だから、依頼することにしたのよ。行方不明者も出てるから、すぐに動くと思ったわ。フフッ、アハハッ。まさか、女装するとは思わなかったけど……でもおかげで、こうしてあなたを連れてくることができた。これで願いが叶うわ」
💚「願いが、叶う?」
美上が阿部の方にゆっくりと歩いて来て、ずいっと顔を近づけてくる。鼻と鼻が触れそうな距離。
そのまま顔が上がっていくと、阿部の手枷にキスをした。
すると、阿部の体から何かが抜けていくような感覚になる。
「ああ、これで私の美しさは永遠に尽きない! あなた達はここで一生を過ごすのよ」
アハハハハッ!と美上の笑い声が高らかに響き渡った。
🤍「よし、解析終了! 位置が分かったよ!」
💜「お、さっすが!」
🤍「ここから4キロくらい離れたとこだね。ただ、同じ魔法陣は使えないから、少しだけ座標を変えるよ」
言いながら、ラウールは元の魔法陣から5メートルほど離れたところに魔法陣を描いていく。描くのに使っているのは、魔法が施されているチョーク。一回きりの魔法陣を描くために使う事のできる魔道具で、魔力のないラウールは作れないので購入したものだ。
それをフリーハンドで素早く描いていき、直径2メートルの複雑な魔法陣を描くのに1分とかからなかった。
🤍「よし、できた! みんな乗って! 10秒で発動するよ!」
🧡「え、10秒!? はやない!?」
💜「急げ急げ!」
大慌てで全員が魔法陣の上に乗ると、魔法陣が光って皆の姿が消えた。
光が消えて目を開けると、目の前には教会が見える。
🖤「ここに阿部ちゃんが……」
🩷「って、服が変わってる?!」
🤍「魔法陣にちょっと細工しちゃった! 阿部ちゃん助けに行くのにあの化け物軍団はないでしょー」
💜「バケモン言うな!」
💛「相変わらず緊張感ねえな」
🖤「みんなふざけてるなら置いていきますよ」
さっさと歩いて行ってしまう目黒に、やれやれと宮舘が肩を竦める。
❤️「まあ、そうなるよね」
💛「ほら、行くぞ」
騒いでいるメンバーに声をかけて教会へと向かった。
中に入るとすぐに広い空間が広がる。礼拝堂となっていて、両側に木でできた長椅子がずらりと並べられている。その奥に数段の階段、そしてその上に聳えるクリスタルと、その前には手枷を嵌められ座らされている阿部の姿。
🖤「阿部ちゃん!!」
「あーあ、やっぱり来ちゃったのね。うまくいったと思ったのに」
💜「美上さん……阿部ちゃんを返してもらうよ」
「無理な相談ね。この子の美しさは私のものなの。私の為に一生、ここにいてもらうわ」
💛「それこそ無理だな。阿部は俺らの大事な仲間だ」
「あなた達に、こいつらが倒せるかしら?」
美上が右手を前に出すと、SnowManのみんなを囲むように四方八方から黒い服の男たちが20人ほど出てきた。
🩷「ぅおっ! なんかいっぱい出てきた!」
💙「どれが誰だかわっかんねえよ!」
❤️「とにかく、何の異能を持ってるか分からないから、目は合わせないように」
💛「行くぞ!」
何かが体から抜け始めてから、瞼の筋肉が動かなくなって目が開けられなくなった。起こっている事は耳からの情報しかなくて、内心ハラハラしているけれど、唇を動かす事もできないから声をかける事もできない。
みんなは大丈夫だろうか。
🩷「ほらほら、そんなんじゃ俺らは止めらんないよ!」
💙「こんなんで相手しようとかふざけてんの?」
❤️「舐められたもんだね」
🤍「僕だって、僕なりのやり方で戦えるんだよ!」
💛「雑魚じゃ的にもなんねえよ」
🧡「さっき騙してくれた礼、たっぷりさせてもらうで!」
💜「後悔する暇なんか与えねえよ?」
🖤「阿部ちゃんに手を出して、無事に帰れると思わないで」
頼もしい言葉が聞こえてくる。
焦りの色は一つもない。いつも通りのみんなだ。これはきっと大丈夫。きっとではない、絶対だ。
目が、開く。
重かった体が浮上するように軽く感じる。
見えたのは。
💙「阿部ちゃん」
❤️「阿部」
護るように立ってくれている渡辺と宮舘に名前を呼ばれて。
💚「翔太、舘様」
名前を呼び返して、阿部はふわっと笑った。
瞬間、渡辺が噛み締めるように目をぎゅっと瞑ってにやけ、宮舘も思わず頬を綻ばせる。
❤️「翔太。警戒しててね」
💙「わかってる」
阿部に近づいた宮舘が阿部の両手を拘束している枷に触れると冷気が枷を覆い、それは鎖を通して他の女性たちの枷をも覆い尽くした。枷にピキピキとヒビが入っていくと、ガラスが割れるように凍った枷と鎖が弾けて割れる。
突然、引き上げられていた力がなくなった事で倒れそうになる阿部を、宮舘が抱くように支えた。
「いやああああ!」
響き渡る美上の悲鳴。
みるみるうちに姿が変化していく。
変化した姿に驚いているのは、阿部以外の者達。背が高く美しい女性だった美上は、佐久間と同じくらいの身長の男になっていた。
💚「……やっぱり。あなた、男だったんですね」
宮舘に支えてもらいながら立ち上がった阿部から発せられた言葉に、皆が驚きを隠せない。
🩷「阿部ちゃん、知ってたの?」
💚「ずっと女性より綺麗な男性を捜してたって言ってたんだ。綺麗な方はたくさんいるし、女性なのに綺麗な男性をわざわざ捜す必要はないよね。それに、俺が捕まった時の力は女性のものじゃなかった」
💜「さすがに阿部ちゃんでも女性よりは強い……いや、そんなことないか」
💚「はあ?!」
🖤「阿部ちゃん、阿部ちゃん。さっきまで動けなかったんだから、急にそんなテンション上げたら倒れちゃうよ」
💚「ああ、ごめん……で、話を戻すけど。理想の姿に拘ったのは、性別さえも違ったからなんですね」
真っすぐに見つめられ、足を向井の岩で固められて動けない美上は悔しそうに拳を握り締める。
「だから何だよ! 憧れて悪いか?! そうなりたいって思って悪いかよ!」
💙「それが悪いわけじゃない。誰だって理想になりたいと思うもんだから。ただ、方法は最悪だけどな」
💛「理想は他人から奪うものじゃない。なりたい自分があるなら、ひたすら努力しろ。それしか変われる方法なんかねえよ」
ぐうの音も出ないのか、がっくりと項垂れる美上。
阿部はそんな美上を見て、宮舘から離れると歩き始めて美上の方に向かって行った。目黒が心配そうに名前を呼んで止めるけれど、阿部は静止を振り切るように2メートルほどまで近づく。
断られたけれども心配だからと、目黒と、深澤が阿部のすぐ後ろに控えるように立つ。
💚「願いを叶えるために俺たちが必要だって言ってましたけど、こんな儀式みたいな方法、あなたはどこで知ったんですか? 一週間以内に完成させないといけないって、明らかにあなたの考えではないですよね」
「……」
💚「誰かに指示されたんですか?」
黙っている美上だったが、不意に口角を上げて笑みを浮かべた。
「知りたいなら教えてあげるよ? 君が傍まで来てくれたらね」
🖤「ダメだ、阿部ちゃん。そんなの聞く必要ない」
「へえ? いいんだ? せっかく知りたいことが聞けるのに、そのチャンスを手放すわけ?」
💚「……ごめん。この情報は知らないとダメな気がする」
一歩一歩、美上の方に歩みを進める。
もう少しで手を伸ばせば触れられそうという位置で立ち止まる。
「まだだよ」
挑発的な笑み。
一歩、前に出る。
「もう少し」
もう一歩、前に出る。
鞭のように伸びてきた手に襟元を掴まれて強く引っぱられた。
💜「阿部ちゃん!?」
💙「お前!」
攻撃しようとするけれど、阿部と美上の距離が近すぎるために動く事が出来ない。
引っ張られたことで美上の顔が阿部の耳元にきて、囁かれる。
目を見開いた阿部。阿部の服を掴んでいる手が離れて距離が空く。美上の腕を掴んでいるのは阿部の真後ろにいる目黒。
🖤「康二。警察が来るまで、生きれるギリギリまでこいつ固めて」
🧡「当たり前や」
膝から下だけを床に固定していたのだが、そこから岩が伸びていって美上の体を覆い、ギリギリ息ができる鼻の下まで一気に覆い尽くした。
美上からできる限り阿部を離すと、他のみんなが集まってくる。
心配そうなみんなの声を遠く聞きながら、阿部は美上の言葉を頭の中で反芻(はんすう)していた。
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