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「おはよー、ぴあーにゃ!」
「あぁおはよう。だからはなれろ……」
元気いっぱいなアリエッタによる朝の挨拶は、ピアーニャの気力にトドメを刺していた。
夜の騒ぎは更に激化していた。色々なモノが飛び散り、なんとも芳しい香りが漂う宴会場となっていたのだ。その為、遅くまで辺りを掃除し、魔法で洗い流していた。
しかし、掃除が終わる度に新たな料理が運ばれ、何故か大食い対決が勃発。無限に生えてくるキュロゼーラを食べ続けた結果、再び多数のシーカーが暴発してしまったのだ。
当然怒ったピアーニャ。再度総力をあげて掃除をしたところで、ネマーチェオンは夜明けを迎えようとしていた。
つまり、完全なる寝不足である。
(ぐぬぬ…コドモにヤツアタリはできん。こればっかりは、バカなオトナのせいだからな)
大人同士の付き合いは、子供には関係が無い。せめて一緒に起きてきたムームーに、愚痴でも聞いてもらおうかと考えていた。
そこへ、パフィから何気ない子供扱いが飛んでくる。
「ピアーニャちゃん、あんまり寝てないのよ? 後でアリエッタとお昼寝するといいのよ」
『ぷっ』
周囲から聞こえた吹き出し音。すぐに周りを見るが、全員顔を背けて寝ているので、犯人は分からない。
「オマエら、あとでまとめて、なぐるからな」
ポツリと呟くと、全員の体がピクリと震えた。ピアーニャは、なんとも言えない顔になり、心配したアリエッタにナデナデされるのだった。
「……で、まだメがさめないか」
「はい、大した検査が出来ないので、どうしたら良いのかも分かりませんし」
シーカー達は、夜に降ってきた少女の様子を見ていた。しばらくいじられていたピアーニャがやってきても、目を覚ます気配が無い。
少女身に着けていた物は、寝台の傍に置かれていた。金属のブーツや服、そして翼らしき物。寝かせるのに邪魔だったので、試しに外してみたら、外れたのだ。
髪の色は紺色で、針金のように固く太い。そして、その体は白色と灰色の2色に分かれ、所々に真っ直ぐな線が入っている。
「うーむ。マリョクはどうだ?」
「微量にしか感じません。ただ、それが正常な人種かもしれませんし……もしかしたら魔力が毒となる可能性も」
「たしかに、しんはっけんのリージョンは、わからんからな」
魔力は誰でも持っているが、人によっては勿論、リージョンによってもその量に差がある。
ハウドラント人は魔力が無いと言われているが、雲を操る能力がある。逆にファナリア人の魔力は多く、魔法を自在に操る。しかし、ファナリアの大地よりも、グラウレスタの泉の方が膨大な魔力が含まれていたりする。色々なリージョンに魔力がある事実については研究中で、いまだ解明されていない。
「ああ、魔力は全世界共通ですよ。神々がそういう風に創造したので、間違いありません。それが魔力として感じられるかは別ですが、能力を使う力の源はどの人種も同じです。呼び名は違う事もありますがね」
『………………』
しれっと神から明かされた世界の謎。ピアーニャ達は言葉が出ない。
「ハウドラント人には魔力はほぼ無いですからね。ちゃんとありますが。その代わり、雲自体が魔力で出来ており、体内魔力とリンクする事で自由に操る技術を手に入れました。いやぁ、ヒトではなく物質に魔力を与えるのを見た時は、大丈夫かと心配になりました。しかし、そのように成長したのを見た時は、感動して泣いてしまいましたよ。嬉しくて迷わず技術を伝授しに姿を見せてしまいましたからねぇ」
「えっ……と……」
さらに暴露されたハウドラントとイディアゼッターの裏事情。ピアーニャはもう硬直するしかない。
イディアゼッターがなおも1人で語り続けていると、少女の体がピクリと動いた。
「ん……」
「あ、動いた。動きましたよ総長!」
「それどころじゃない! マリョク…ホントウはマリョクがこのミに……」
「いやいや総長? 気が付きましたよ?」
明かされた謎に関してもそうだが、ハウドラント人には無いと思っていた魔力が備わっている事を知り、かなりショックを受けた模様。拾った少女の事など忘れている。
「あ…れ? ここは?」
「ちょっとウルサイ、だまっててくれないか!」
「ひえっ?」
「こらこらこら総長!? あっちいきましょーねー?」
「はなせっ、はーなーせー」
ピアーニャは傍にいたシーカーに抱っこされ、アリエッタの方に連れていかれるのだった。
イディアゼッターも同行し、この場から離れる事にした。神である事は隠しているわけではないが、知らない人に騒がれると疲れるので、今はピアーニャに付き合う事にしているのだ。
「あのー……」
「あ、はい。お騒がせしてすみません。体の方は大丈夫ですか?」
「え? ええ、おかげさまで?」
状況を呑み込めない灰色の少女。寝起きで見てしまった騒動に、頭がついていかないようだ。
申し訳なさそうにしたシーカーが、夜にあった事を説明し始めた。少女は話を聞くうちに、ものすごく微妙な顔になっていくのだった。
運ばれたピアーニャは、アリエッタに手渡された。それはもう絶望に満ちた顔で。
「総長何やらかしてるのよ」
「珍しいですねー。暴走するなんて」
アリエッタに抱っこされ、撫でられ、どうあがいても放してもらえない総長の言い訳を聞き、ミューゼとパフィは呆れている。
「しょ、しょうがないだろ。セカイのナゾを、まとめてきいてしまったんだぞ。シーカーとしてほうってはおけん」
「だからって、助けた人を無視するって」
「アリエッタ、ピアーニャに『めっ』てしてあげるのよー」
「おいやめろ……」
「?」(なんか悪い事でもしたのかな? とりあえずツンツンしとこう)
つんつん
「うぐっ……」
アリエッタの可愛い『おしおき』に、ミューゼ達は悶え、ピアーニャは泣きそうになっていた。
(コトバもロクにしらないコドモに、おこられているキブンだ……なんというクツジョク……)
(なんて羨ましいのよ。アリエッタ、私にもツンツンしてなのよ~)
(はぁ、可愛い)
(いつまでツンツンしてたらいいんだろう? ぷにぷにしてて気持ちいいけど)
いつまでも終わらない『ほっぺつんつんの刑』。ピアーニャにとっては、なんとも恐ろしい公開処刑かもしれない。
やられている事を考えないように……というか現実逃避する為に、助けた少女の事を思い出していた。少女は目が覚め、すぐに状況を知ろうとした。そこまでは声が聞こえていたので、ピアーニャも理解している。
(アリエッタとちがって、コトバをリカイして……ん?)
アリエッタと比べた所で、ある事に気が付いた。
「なぁゼッちゃん」
「はい」
「なんであのコは、コトバがつうじるんだ? いままでも、あたらしいリージョンでは、コトバづかいはちがったりするものの、きほんてきにカイワはできていた。アリエッタをみていると、コトバがちがうコトもあるのではないのか……まさか」
質問しているうちに、その事に感づいた。それが正解と言いたげに、イディアゼッターが頷く。
「ええ、魔力と一緒ですよ。言葉も神々が世界に刷り込んだものです。知能が生まれたらこの言語を覚えるようにと」
「そうかー……」
ネマーチェオンに来て、幾度目かの大型情報である。
「ゼッちゃん、いくらなんでもバクロしすぎだ」
「まだまだこんなモノではありませんよ? 他に知りたい事はございますか?」
「……カンベンしてくれ」
イディアゼッターの暴露のせいで、既に何度もパンクしているピアーニャ。今はこれ以上の情報はいらないようだ。帰ったら少しづつ教えてくれと頼んでいた。この情報の洪水に、ネフテリアを巻き込む気である。
「あれ? 騒がしくないですか?」
ムームーが、小屋の外の異変に気が付いた。外を見ると、助けた少女が暴れているのが見えた。
「帰らないと! せっかく免許取ったのに、なんでこんなわけの分からない場所に!」
「落ち着け! 帰る手助けは出来る!」
少女は錯乱していた。自分の置かれた状況を、少しだけ知ったのが原因である。
「まぁ、彼女の世界には、このような大きな木はないですからね。見慣れない場所で取り乱すのは不思議ではないでしょう」
「いや、こんな大きすぎる木は、他のリージョンにもないですけど?」
そもそも転移が伝わっていないリージョンからやってきたのだ。どうしてこの場所にいるのかを理解する方が難しいだろう。
なんとなく落ち着いて観察しているが、現場は大混乱である。背中から鉄の棒を伸ばし、たまに光を噴射しているが、その度に顔をしかめて背中を見ている。
「うぅ……エーテルが切れてるし、予備バッテリーも無い……どうしたらいいの……」
聞きなれない言葉を聞いて、ミューゼ達が首をかしげて見ている。
それはそうと、止めないと何をするか分からないという事で、ピアーニャが動こうとした。しかし、アリエッタに掴まって逃げられない。
「……ミューゼオラ、パフィ、ムームー。アレつかまえてくれ」
「あたし!?」
ミューゼとパフィとムームーの能力は、捕獲に向いたものが多い。今まさに止めるために殴りかかろうとしているバルドルに比べて、使い勝手がいいのだ。
「あの、帰りたいんですけど……」
「こーゆートラブルたいおうも、シゴトのうちだからな!?」
正直に思っている事を言うと、上司らしいツッコミが返ってきた。その事はミューゼも分かってはいたが、アリエッタの為に帰りたいのも事実。ピアーニャも本当は早く帰らせたいのだが、現実はままならないものである。
気持ちを切り替え、ミューゼは杖を持って前に出た。そしてアリエッタに顔を向け、杖を振った。
「ミューゼ! まほう!」
「うん、見ててねー」
「………………」
アリエッタに魔法を見せれば、大いに喜ぶ。かっこよく事件も解決すれば、さらにドン。好感度アップの大チャンスなのだ。
緊急事態にそんな事をしているので、ピアーニャは呆れるばかりである。
「【縛蔦網】!」
無数に伸びた蔦は、錯乱する水着のような恰好の少女を、容赦なく絡めとった。
その時。大多数のシーカー達が、ちょっと前かがみになっていた。