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注意
・この物語はフィクションです。現実のあらゆるものとは一切関係ありません。
・また、この作品はPBwikiの内容に強い影響を受けています。
以上をご了承の上でお読みください。(主人公は🏴さんです。)
丑三つ刻の午前2時。私はどうにも夢見が悪く、目覚めてしまった。まぁ、明日、、、というか今日は特に何もないから良いのだけれど。
カーテンの隙間から入る月明かりのせいで完全に目覚めきってしまった私は、一先ずベッドから出ることにした。
そんなこんなで私は今、リビングでカモミールティーを淹れている。眠れない時は紅茶よりもハーブティーの方が良いのだ。まぁこれを飲んだところで眠れはしないのだが。
ここ最近はずっとそうだ。毎晩同じ様な悪夢を見ては目覚めてしまっている。
あの悍ましくて痛ましくて妬ましいあの夢をどうにか消し去ってしまわねば、私は永遠に穏やかな眠りを得られないのだろう。
だが、どうしようもない。だから私は毎晩こうして、ため息を付きながらハーブティーを飲んでいるのだ。
ハーブティーを飲み始めて幾らか経った頃、隣に誰かが座る気配を感じたので首を向けると、それは息子だった。
「おや、Britain.貴方も起きたのですか?」
そう聞くと、息子は何処か呆れたように、肩を竦めて答えた。(何故?)
「父上、、、まぁ、はい。正確に言えば貴方が起きているから起きた、の方が正しいですが。」
どういう意味だろうか。恥ずかしい事ではあるが、私は寝不足が祟って脳を上手く働かせることが出来ずに居る。
それが顔に出ていたのか、息子はその疑問に答えるような質問をしてきた。
「その、父上は最近眠れていないようですが、何か悩みでもあるので?」
「えぇまぁ、ですが大した悩みではないですよ。、、、ただ少し夢見が悪い、それだけです。」
「それは、ずっと?」
「えぇ、ここ最近。」
「何時からですか?」
「何時から、、、、、、分かりません。」
改めて問われると、何時からだったか思い出す事が出来ない。ただ漠然と、ある日突然にとしか。
「、、、そうですか。ちなみに、どんな夢なんですか?」
「そうですね、、、ずっと暗くて、空腹と恐怖、虚無感の続く妙に悍ましい夢です。目覚める時にはナニかに襲われ食べられる。本当に奇妙な夢ですよ。」
改めて口に出すと本当に奇妙な夢だ。だが、それを聞いて何になると言うのだろうか。そう問うと、単純な答えが返ってきた。
「夢判断ですよ。知っているでしょう?まぁ、それでも良くわかりませんでしたがね。だってシンボルが無いんですもの!」
そういえば、息子はロマンチストのきらいがあるのだった。
あんな、フロイトの独断と偏見に溢れたシンボル論なんて眉唾物ではないか。私はそもそも夢判断だか分析だかは好まないが、個人的にはユングの夢分析の方がまだマシだ。
まぁ夢が無意識の欲の具現というフロイトの論自体にはある程度同意するが。
それにしたって、訳がわからないものである。
「成る程。、、、はぁ、まだ遅い時間ですから貴方はそろそろ寝なさい。」
「わかりました。、、、最後に聞きますが、何か恨みを買った覚えは?呪とか、その類かもしれません。」
「ふむ、、、わかりませんね。」
心当たりが多すぎて、全て挙げ始めたら夜が明けてしまいそうだ。そんな私の考えを理解してか、息子は複雑そうな顔をして戻っていった。
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どうにも穏やかでさんざめく太陽光が降り注ぐ午後1時。
昨晩父上から相談を聞いた私は、昼食を食べたあと1つの可能性を確かめる為、書庫に入った。
この書庫には大量の、特に歴史書や書類などが所狭しと敷き詰められていて、もし人間の学者が見たら泡を吐いて倒れてしまうだろうと思うぐらいには歴史的価値がある。
そんな場所で、私は1つの資料を手に取った。
「Lost Colony、、、」
この資料には大英帝国時代に独立、合併以外で失われてしまった植民都市と、その都市に関する情報が記されている。そこで私はたった1つの文字列を探した。(と言っても、そんな都市自体少ないからすぐ見つかるのだけど。)
「あった、、、Roanoke Colony.」
恐らくオカルト界隈では著名な事件である、”ロアノーク植民地失踪事件”によって失われてしまった植民地だ。
戦争によって3年間の補給を得られなかった人々は”CROATOAN”と残して消えてしまった、、、当時の大英帝国は父だった事からして、彼らの怨念が悪夢を引き起こしているのは考えられない話ではない。
それと、少し話は変わってしまうが、バカ息子、、、もといアメリカの一部地域にはこんな伝承があるらしい。
”深夜にロアノークの名を呼んではいけない。呼んでしまったが最後、亡霊に右半身を食べられてしまう”、と。
馬鹿馬鹿しいと言ってしまうのは簡単だが、オカルトとは案外侮れないものだ。
一部地域と言えど伝承として存在を固めている以上、ロアノークの亡霊が父を狙っている事を否定しきれないのである。(実際、夢ではナニかに食べられてしまっているそうだし。)
まぁ勿論、違う可能性もあるけれど。私の直感がコレだと伝えてくるのだ。
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「というわけで、父上。多分貴方は祟られています!」
「待ちなさいBritain.何が、”というわけで”なのです。きちんと説明なさい!」
アフタヌーンの茶会中、突如悪夢の原因が分かったかもしれないと話しだした息子は、恐らく色々なものを端折り結果だけを伝えてきた。普段の私であればそれ以上は望まないが、今回に関しては詳細が欲しいものである。
「何がと言われましても、、、ただ貴方が過去に買った怨みで祟られている、と言うだけのお話なのですが、、、」
「、、、成る程?貴方がそれ以上の説明をしない事はわかりました。それで、私を祟って居るのは誰なのです?どうせ当たりを付けているのでしょう?」
そう私が柄にもなく期待を込めて問うと、期待通りの答えが返ってきた。
「えぇ。、、、Roanoke Colony.恐らく、失われてしまった彼らの怨念か何かかと。」
「Roanoke Colony、、、」
Roanoke Colonyとは何だっただろうか。、、、あぁそうだ、アイツだ。私そっくりの聖ゲオルギウス十字の子。確かに、彼の怨念だと言われれば納得出来てしまう。 私は彼を見捨てたのだから。
だが、それが分かった所でどうしてやれば良いのだろうか?
そんな私の疑問に答える様に、息子はまた口を開いた。
「これはただの予想になりますが、、、一度対面でもすれば良いのでは?勿論話し合いで解決できるとは思いませんが、、、私の親ですもの、探り合いは得意でしょう?」
成る程、確かに理に適っている。
「では、そうしましょう。それで、Roanoke Colonyは何処に居ると思いますか?」
「えぇ、たしか、、、はい、ロアノークの人々は、アメリカ、ノースカロライナ州に行けば会えると思いますよ?」
___
なんてことが2日前。 私は今、アメリカに居る。
勿論息子に詳細を吐かせて、しっかりと深夜に出歩く今は丑三つ刻前午前1時。
私はしっかりと護身用の、銀の弾丸を込めた銃に手を掛けつつ、意を決して彼の名を読んだ。
「、、、Roanoke Colony.」
その直後、背後に悍ましい気配を携えたモノが現れ、無作為に語りだした。
「あぁ、祖国。あなたにとって私という存在は数ある塊の一つでしかなかったのでしょう。」
「、、、久しぶりですね、Roanoke Colony.、、、貴方の事はそれなりに気にかけていましたよ。そうでなきゃ、2回も送らない。」
そう言い振り返ると、私に良く似た、幼い顔をした彼が変わり果てた姿で存在していた。右腕は千切れ、顔の半分は抉れている。おまけに、両の眼球もくり抜かれていた。
だが彼は、そんな事は当たり前だとでも言うように言葉を紡ぐ。
「ですがあなたは私を、開拓者を見殺して消してしまった。それに対してのあなたの感情は酷く薄くて冷たい、、、」
そんな事を言われても、ただの国家事業ですらない植民都市が消えた所で国家は変わらない。あぁ勿論、困惑はしたけれど。その程度の事で心を痛めていたら、発展なんて出来やしないのだ。
人類史とは常に犠牲の上で成り立っているものである。だが、、、もしや
「貴方、もしかしてたったのそれだけの事で怪異の様なモノになったんですか?」
なんて疑問を口に出してやると、表情こそ変わらないものの彼の纏う雰囲気が強まった。
「あなたにとっては些細な事か!、、、あの3年間以降、私の腹が満たされることは永遠になくなってしまったのですよ。」
「ふむ、、、ではそれに関しては謝罪しましょう。申し訳ありませんでした。」
流石に不味そうだから、一先ず謝罪を口にしておいた。
だが彼はそれだけでは足りないらしい。
『謝罪は受け取りますが、ただの言葉で腹は膨らまないので、私はあなたを食べてしまいたい。本当に、謝罪の気持ちがあるのなら少しぐらいは良いでしょう?』
「では謝罪を撤回します。上辺の言葉を正当化する為だけに身を削るのは愚かしい。」
本当に、愚かしい事である。まぁ勿論、彼もそれは予想していたようで、私に対する敵意をより一層強めて彼は言った。
「あぁやっぱり、あなたはそう言いますか。でも、例え謝罪を撤回されたとて、この空腹は抑えられませんので、、、私はあなたを食べることにします。安心してください、じっくりと嬲ってから食べてさしあげますから!」
「死体モドキが生者に勝てるとお思いで?」
死者は死者らしく、生者に追いすがらずに死んでしまえば良いのだと暗に込めて言ってやると、目の前の彼はとうとう理性を捨て去ってしまったらしく、何処からか取り出したナイフで切りつけてきた。勿論交わしてやったけれど。
「はは、空腹の前には論理的思考なんて無力だ!」
___
さて、どれだけの時間戦っているのだろうか。
彼の、Roanoke Colonyの恐らく怨みの籠もりきったナイフを避けつつ考える。
だがそれも時期に終わりだ。もうそろそろ、この弾丸で彼の頭を、心臓を、全てを撃ち抜いて終わらせてやろう。
だって、こうでもしてやらないと彼は救われない。彼が救われない限り私は夢見が悪いままなのだ。
勿論ソレに確証は無いけれど、ただ何となく、何となくそう思うのだ。我ながら、根拠もない理論である。
「、、、Roanoke Colony.」
「なんですか?おとなしく食べられる気になりましたか?あはは!」
「いえ、これで終わりです。」
そう言い、私は連続的に引き金を引いた。
「えっ、、、?あ、、、痛、、、?え、、、?」
彼は何が起きたか分からないと言うように困惑しているが、それでも私は引き金を引き続ける。
何度も、何度も引き金を引くうちに彼の声はくぐもり、存在を保つだけでやっとという程にまでなった。
「Roanoke Colony.、、、申し訳ありませんでした。」
そう謝罪の言葉を言い、最後の引き金を引こうとしたところで、彼のくぐもった声で、されど悲しいほどに良く通る声で本音の様なものが聞こえた。
「、、、ど、して、さが、、し、、くれ、かった、、、の?」
それを最後に、彼は引き金を引くまでもなく消えてしまった。
たった今、伝承としてのRoanoke Colonyすらも消失してしまったのだ。
どうしようも無い静寂がノースカロライナの夜を包みこんだ。
___
あれから数日後、すっかり夢見の良くなった私は今日も今日とて息子とティータイムを楽しんでいる。
そんな中、ふと息子がこんな事を口にした。
「そういえば、もう終わった事ではありますが、Roanoke Colonyの都市伝説の大元にはこんな寓話があったそうです。
”ロアノークの人を知っている?
ロアノークの人は消えてしまった
1人残らず物もなく
ロアノークの人は知らないよ
ロアノークは忘れられてしまったから
けれどこれは知ってる
彼らが唯一残した言葉だよ”
、、、という内容だそうで、ただただ消失を嘆いた詩があんな風になるなんて面白いですよねぇ。」
「まぁ、都市伝説なんてそんな物ですよ。」
ただの寓話が都市伝説になるなんて、よくある話だ。
そして勿論、それを利用して存在しようとする者が居るのもよくあることなのだ。
だから私はきっと、これ以降彼を思い出す事はないだろう。思い出してしまったらまた、夢見が悪くなってしまうだろうから。
おまけ:ふんわりとした設定(Q&A形式)
Q.なんで今更🏴さんが祟られたの?
A.年月を重ねてやっと都市伝説として実体化出来たから。
Q.なんで都市伝説なのにロアノークさんは物理で死んだの?
A.実体を持った存在が銃弾何発も受けたら死ぬだろ(´・ω・`)、、、と言うのは冗談で、銀の銃弾かつ🏴さんに撃たれたからです。古来より銀は邪気を払うと言いますし、力の少ない植民地は宗主国に逆らえませんからね。
コメント
1件
3ヶ月ぐらい温めておきました。 夏はこういうのが欲しくなりますよね。