テラーノベル
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※nmmn(二次創作)作品です。
実在の人物・団体・関係者様とは一切関係ありません。 創作上の解釈・妄想を含みます。
バスルームは、静寂に包まれていた。床のタイルがひんやりと冷たく、思わず脚先に力が入る。
「はーッ……」
暖かいシャワーを浴び、湯船に浸かると体がほかほかと温まっていく。
「もう一生酒なんて飲まねぇぞ……」
静まり返ったバスルームにつぼ浦の声が落ちる。
全て吐ききったはずなのに胃の中には、むかむかとした不快感が残り続けている。
これからどうしようか───
「つぼ浦ー?生きてる?」
「、はっ…!?」
やっと一人の空間になって安心したのも束の間。驚きのあまりつぼ浦は、肩をビクリと跳ねさせ勢いよく湯が縁から溢れた。
「ねぇ 笑 ビビりすぎだって。着替え俺のでもいい?」
すりガラスのドアの向こうには、青井の影がうっすらと揺れている。同時に彼のケラケラとした笑い声が耳に残った。
「服?え、あー。別に…気にしないっスよ…」
「じゃあ置いておくから、これ着てね」
バタン、と脱衣所の扉が閉まり青井の足音が遠のいてく。それをしっかり確認したつぼ浦は、安心しきって小さな声を漏らした。
「ちくしょう…ッ。まじでやばいぜ、これ」
洗い流したばかりの髪にくしゃりと触れる。
風呂場を満たす湯気のように、この気持ちも跡形もなく消えればいいのに。
(最悪だ、)
正直、居酒屋を出る直前まではなんとなく覚えている。だがその先の出来事だけ、ぽっかりと抜け落ちてしまっていた。
ぼんやりと数時間前の情景が浮かぶ──
お互いの熱が、匂いが伝わってくるほどの距離。
街頭に照らされてツヤツヤと光る彼の髪。
全て忘れてしまったわけではない。だが、あの駐車場での出来事が、 つぼ浦にはどうしても思い出せなくて。恥ずかしくて、怖くて、情けない感情がじわじわと込み上げていた。
アオセンのことが好きだ──。
もし仮にそんなことを言っていたとしたら、わざわざ家に上げ、自分を優しく介護してくれる男がやけに引っかかる。
これがもし現実なら聞いてみたい、この返事を。
アオセンの気持ちを
こんな俺でも──
「……やめだ、やめ」
余計な思考を追い払うように、ぶんぶんと頭を振る。十分に湯船で温まったつぼ浦は、足早に風呂場を後にした。
───────────
青井から渡されたスウェットは驚く程に着心地が良かった。他人の服のはずが、妙に落ち着いた。
事件対応中の鼻をつまむような、血なまぐさい匂いも、硝煙の匂いもしない。ただ、柔軟剤の香りだけがつぼ浦の胸の奥を満たした。
「服、ありがとな。気が向いたら後で返すぜ」
「いやいや、ちゃんと返して?笑」
そんな軽口を交わしながら、つぼ浦は口を開いた。
「ってことで、俺はもうおいとまするが…。なんか言い残したことはあるか?」
「え、帰んの?」
そう言うと青井は目を丸くした。
この先輩は一体何を驚いているのか…
「帰るだろ。アンタの家に長時間も居座る気わねぇよ、」
吐き捨てるようにつぼ浦は、ぶっきらぼうに返した。
本当はもう少し同じ空気を吸っていたい。そんな気持ちを押し殺しながら玄関の方へ向かう。
貴方への気持ちに嘘がつけなくなる前に──。
「……そっか、そうだよね〜」
「……あ?」
青井は廊下の壁に持たれながら、こちらに視線を向けた。
「………お前、明日も仕事でしょ。どうせこの後、本署のソファで寝るつもりだよね」
「おうよ」
後にも先にもつぼ浦が帰る場所は本署しかない。あのソファが唯一の寝床であり、家である。
「じゃあ、尚更迷惑。お前あんだけ飲んでゲロっといて、今日くらいはちゃんとした所で寝れば?」
「泊まっていけばいいじゃん、」
その一言がつぼ浦の耳元にふわりと、落ちていく。いつも食事に誘ってくるような、彼の重みのない一言。
「ん?どういうことだ」
わざととぼけたフリをした。
玄関へ向かう足先はそのままに、つぼ浦は青井の目をじっと見つめる。本当は今すぐ首を縦に振りたいのを必死に堪えて…。
泊まっていけばいい─
誘い慣れてるような青井の口ぶりにつぼ浦の腹の奥からまた不気味な感覚が押し寄せる。
「てか、髪の毛乾かしなよ。そんなんじゃ外行っても風邪ひくだろ、」
(全く、コイツってやつは…)
目の前のつぼ浦は、どうしていいのか分からずに廊下に立ち尽くしていた。青井の冷たくてそれでいて暖かい一言がつぼ浦の背筋をピクリと動かす。
つぼ浦匠は甘える術を知らなかった。
青井がつぼ浦のことを、好きだ、嫌いだ、そう言う単純な話ではなかった。
この男は、こちら側から手を差し伸べてやらない限り滅多に人を頼ろうとしない。自分で何とかしようとして、空回りして、1人で傷ついて。
今だってそうだった──
「………」
突然口を噤むつぼ浦をお構い無しに、青井はつぼ浦のスウェットの裾をぐいぐいと引っ張った。
つぼ浦は、そのまま踏ん張りきれずに身体が後ろに倒れかけた。
「、ちょ…!別に外に行けば乾くだろ。そういうの俺は、気にしないタイプだ!」
そう流れるようにまたリビングへ戻り、ソファに押し込まれる。
濡れた前髪から雫が頬に流れてつぼ浦の心までもくすぐらせる。
「もうほらおいで、乾かしてあげるから。今日は特別だよ」
青井が何処からかドライヤーを手に取り、戻ってきた。
気配に気づいて振り返ると、意図せず青井とカチリ視線が合わさる。
「あ、アオセン……!?別に泊まるなんて俺は一言もッ!」
「お前さ、たまには甘えてもいいんだよ?」
青井が少しだけ目を細めて、寂しそうな顔をした。
「……。」
つぼ浦の記憶からまた、知らない青井の表情が更新されていった。そんな顔を誤魔化すように、青井はドライヤーのスイッチを入れる。
ぶお、っと乾いた風の音が鳴った。青井はつぼ浦の髪の毛をかき分けながら、丁寧に乾かしている。
テレビの音が煩い。
画面の向こうでは、楽しそうな笑い声が響いていた。なのに、この場所では誰にも邪魔されることなく、ゆっくりと2人だけの時間が流れていた。
つぼ浦の拳にぐっと力が入る。
「……アンタが無理やり泊めたんだッ…。仮は返さないぜ」
つぼ浦はソファに体を預けてだらんと、寄りかかり上目遣いで青井をじっと見た。
その不器用な男のセリフに青井は、思わず吹き出しそうになる。
「ふ、ふっ…笑 わかったよ。」
テレビの音と、ドライヤーの音がさっきよりも大きく聞こえた。
その中でつぼ浦の心臓の音だけが溶け込めず、ただうるさく鳴っていた。
────────────
この時期の朝は、まだ少し肌寒く、小窓からは白い光が差している。
つぼ浦は軽い身支度をして、早朝には青井の家から出ようとしていた。
「なんか、世話になったな……」
「はい、はい。じゃあまた署で会おうね、」
軽く手を振る青井に背を向け、つぼ浦は玄関の鍵に手をかけた。
「あ、つぼ浦忘れもん」
「あ?…うぉっ………」
呼ばれた瞬間、トレーナーの裾を掴まれ、ぐいっと引き寄せられる。踏ん張る余裕もなく、つぼ浦はそのままバランスを崩した。
その瞬間──
頬に柔らかいものが触れた。
ちゅ、っと小さなリップ音が鳴る。
「次は酔ってない時に言ってね」
青井は何事も無かったように、にっこりと笑った。
「〜〜〜〜〜っ…!」
バタン、と玄関のドアが閉まる。
つぼ浦は、1人マンションの廊下に取り残される。顔の熱が一気に込み上げて、冷たいそよ風が頬を撫でた。
一瞬の出来事だった─
青井の唇の感触。
耳に残った小さな音。
「……あ゛っ、…!……マジかよ」
瞬く間に、居酒屋を出てからの出来事が鮮明に思い出される。
だが───
なんの為に、どうしてこんな事を…
まだつぼ浦には、キスをする人の気持ちも、その意味なんてわかる訳もない。
ただ顔だけが赤くなっていった。
「どんな顔して仕事いけばいいんだよ…」
顔の熱を誤魔化すように、つぼ浦は歩き出した。
ロスサントスの1日は、まだ始まったばかりだ───
ここまで読んで頂きありがとうございました
「アルコールのせいにして」完結になります!
中編から期間が空き申し訳ありませんでした💦
また、70⤴︎フォローありがとうございます。
良ければ感想等頂ければとても喜びます。
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