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#さのじん
透楽※お知らせ必読願います
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「………」
ギターが鳴り響く一人きりの部屋で俺は、頭に浮かんだ言葉を口ずさんだりペンを取って書いてみたりと何とか見える形にしようとしている。
「……どれも違うな」
書いてみたりパソコンに打ち込んでみたり、またはスマホのメモに打ってみたり、アウトプットの方法を変えては見るがどれもしっくり来ない。
曲作りは楽しい。
楽しいけど、上手く言語化出来ない時はこの上なくフラストレーションが溜まる。
メロディは浮かぶのに、指が動いて紡ぎ出すがこのメロディに合う日本語が見つからない。
モヤモヤとした言葉の正体を掴みたいけど掴もうとすると消えてしまう。
もはやこれこそが恋愛なんじゃないかと、錯覚する程だった。
(焦がれる…、あなたのいない…、もしも…、)
「違う…もっと具体的な…抽象的過ぎない比喩は……」
頭で考え出すとダメだ。
最初は浮かんだ言葉をメモにして、その言葉たちをメロディに落とし込んでいくんだ。
感覚と指先と…なんでこんなに言語化出来ないんだろう。
今日はもう煮詰まっている…。
というより、今日もまた、だ。
恋愛とは?
現在の俺が出来る恋の話は?
………無い。
過去を歌うことは出来るんだ。今の俺が作りたいのはリアルな今の恋愛の曲なんだ。
「……想像じゃ無理かも」
その後も考えたり軽く歌ってみたり、気分転換をしてみても曲作りは全く進まなかった。
もうずっとこんな状態で、喉に刺さった小骨のように日常まで侵食されそうだ。
それに、苦し紛れに捻り出したところであとから見返すとしっくり来ない事はもうわかっていた。
……もう深夜0時を回った。
「……」
ちょっと連絡してみるか。
誰かに聞いてみるのが一番の近道かも…なんてらしくない考えにたどり着く。
いや、参考にするだけだ。
あくまでも参考に…。
「…起きてっかな」
スマホのメッセージアプリを起動する。
『遅くに悪い、起きてる? 』
送信先は、勇斗。
すぐにバイブ音が鳴る。
『起きてる、なに?』
またすぐに返信をする。
『いま作曲してるんだけど、全然歌詞がまとまらない。ちょっとだけ助けて欲しい』
ブブッ
『そうなんや。なにしたらいいの?』
すぐに返信が来たので、もしかするともう寝る前だったのかもしれない。
けど、そこからしばらくやり取りは続いた。
『好きな人ってどんな時に会いたくなる?』
『俺のこと好きなの?』
『いや。ちょっと創作脳を刺激したい』
『うーん。会いたいのが普通、みたいな?いつ会いたくなるとかはないよ』
『まじ?じゃあ帰る時は寂しい?』
『寂しいよ。でもまたすぐに会えるから大丈夫』
『その保証は?』
『ないけど、次いつ会えるかわかんないような相手とは付き合わないよ』
……へー。
考えているとまたメッセージが届いた。
『仁人は?』
『なにが?』
『帰る時寂しい?どんな気持ちになる?』
…俺は…寂しいし時には不安にもなる。
『そりゃ寂しいよ』
『そうなんだ。仁ちゃんネガティブだもんね』
『それはそうなんだけど。じゃあ勇斗はどういう時に不安になるの?』
少し間が空いた。
ブブッ
『誰か他の人と楽しそうにしてたり連絡返ってこなくなったりしたらかな』
……ほー。
『実際にそういう経験はあるの?』
単純な疑問を送った。
『そりゃあね。人並みにはあるよ』
『へー。勇斗でもあるんだ』
『なんだそれ』
『ありがとう。少し続き書いてみる』
『いいよー。あんまり根詰めるなよ』
『はーい、おやすみ』
返信はなかった。
寝る間際に付き合ってくれたんだろうな、と思いなんとなく気持ちが落ち着いた。
さっきまでの焦燥感に似た感覚は消えていた。
「…少し書きますか」
その後はさっきの勇斗の言葉と自分の中の恋愛のイメージを調和させながらメロディに合わせて書き出していった。
…あ。
恋愛中だけじゃなく、片思いの時なんかの事も今度聞いてみよう。
過去の恋愛を思い出すのとはまた違う、切ない歌詞が書けるようになるかもしれない。
人の経験を参考にするのもなかなかありかもしれないな、と新しい感覚に触れた気がした。
…………翌日の仕事で勇斗に会った。
ほかのメンバーにも聞いてみようか、とも考えたがいきなり顔を合わせてお前の恋愛観を教えてくれとはなかなか言えず、結局勇斗の所へやって来た。
「昨日ありがとう」
「うん、あれからどうだった?書けた?」
「うん、少しだけ進んだ。」
「おー、なら良かった」
「でさ、もう少し聞いてもいい?」
「…おー。いいよ?俺で良ければ」
「うん。」
スマホを片手に勇斗の隣へ座る。
少し意外そうな勇斗の顔を見てなんとなく気恥しさを感じたが、やるべき事を進める為には誰かの協力を得ないといけないと、気にしてないフリで淡々と質問をした。
「えっと…じゃあ、昨日聞いたのは恋愛中の話ね。今日聞きたいのは片思いしてる時の感情の話なんだけど」
「片思い?え、仁人と俺だと大分違うと思うけど」
「違うからいいのよ。」
「あー…まあ、そうなのかな」
「うん。でさ、聞いていい?」
「いいよ」
スマホのメモを見ながら質問を投げかける。
「好きな人が出来たらどうする?直接アプローチするのか、さり気なくするのか」
「えー…俺は…さり気なく距離詰めるかも」
「距離を詰めるって?」
「連絡をまめにするとか、相手が嬉しそうな事をしてあげるとか」
「ちょっと…抽象的だな。例えば?」
「例えばー…好きな飲み物を買ってあげるとか、好みの場所に連れていくとか。あとはー…寒そうにしてたら上着を貸すとか」
「おー…なるほど。好きな物は知ってる前提?」
「そうだね。あんまり知らない人の事は好きにならないから」
「そうなの?一目惚れとかはしない?」
「ない事もないけど、少ないかも。可愛いなーとかは結構思うけどそこから好きになれるかは別かな」
「ふんふん、なるほどね」
「……」
スマホのメモに勇斗の答えを断片的に書いていく。参考になりそうなところを抜粋する感じだ。
書きながらふと感じたことを口にする。
「勇斗は好きな子の事よく見てるんだね」
「…見るよ?だって好きだから」
「へー。あ、じゃあ次の質問。」
「うん」
「その好きな子に別の好きな人がいたら?どうする?」
「えー……なんか、相談とか乗るようにするかも」
「えっ」
「え?…恋愛の相談でも何でも、とりあえず話を聞いて親身になるかな」
「…なんか、計画的だな…」
「いや、そんな事ないよ。ただ一緒に居たいしその人の事が知りたいだけ。…まあ下心もあるけどね」
そう笑って言った勇斗がいつもと違って見えた。
こいつの恋愛事情なんてあまり聞いた事なかったから…知らない一面を見た気がしてなんとなく空気が気恥ずかしい。
「あー…まあわかるけど、俺はあんましないなあ」
「しないんじゃないでしょ。出来ないんじゃない?」
「…まあ。」
「あはは、仁ちゃんは多分そういうタイプよね」
こちらから質問を持ちかけたのに何故だか一本取られた気分になって、俺はその後手早くメモを完成させて勇斗の元を離れた。
せっかく協力してくれているんだ。
…自分と比べてどうする。
勇斗の恋愛観を参考に、また家に帰ったら続きを書いてみよう。
他人の、それも近しい他人の恋愛観を知る事で自分の弱点や捻くれた物の受け取り方が見えてくる。
切ない歌詞か……。
純粋に、勇斗のように相手を思う気持ちを自分の中にも見つけてみよう。
―――