キーンコーンカーンコーン….
チャイムの音がなる。
「終わりましたよ」
机に座っている栗原は小声で幽霊さんに伝えた。幽霊さんはすっかり寝ていた。
最初は授業にも興味を示していたがいつの間にか興味をなくし、寝てしまったのだ。
「あぁ…あ.」
幽霊さんは目を覚ます。垂れていない涎を服の袖で拭いている。
「それじゃあぁ..行きましょうか」
栗原は微笑みかける。その笑顔はまるで少年のようだった。ただ純粋な何も不純物が混ざっていないような幽霊さんの目からはそう見えた。
「行くって..どこへだい?」
幽霊さんは微笑み返す。ニヤニヤしているような。これからのことに期待しているまるで「今」を楽しんでるようだった。栗原の目にはそう見えた。
「着きましたよ」
教室を出て階段を下り、すぐのところに図書室と書かれている看板があった。図書室なので当たり前なのだが、本が沢山あると言うより本しかない。幽霊さんはその当たり前の光景を前にして驚いているような素振りだった。
「こ..これはぁ..またすごいねぇ..」
「図書室なので当たり前ですよ!」
栗原はスライド式のドアを開ける。
少し建付けが悪いのか開けるのに少し時間がかかっていた。部屋の中に入るとより一層本の空気を感じた。本の匂い 本が五十音順で並べられており、すごく整頓された空間。その場にいるだけでまるで自分の心も整理されたように感じた。
大きく高い机と小さく低い机があった
そしてその小さな机で真面目そうな青年が本を読んでいた。
「井草!」
栗原が気合いの入った声で声をかける。そこまで大きな声で呼ばなくても恐らく聞こえるだろう。
「栗原君..ここは図書室ですからなるべくお静かに…」
その井草と呼ばれた青年は本を読む手を停めず低く冷たい声色で栗原に返した。
身長は170後半くらいだろうか。確かに知的そうな顔立ちをしている。偏見でしかないが幽霊さんは心の中でそう思った。体は細いが少しガッチリしているようにも感じるいわゆる細マッチョというものなのだろうか….
「井草!僕、お願いがあってきたんだ!」
栗原は井草の前に座り、さっき怒られたので少し抑えめな声量で声をかけた。
「お願い..?どうしたんですか」
井草は自分のサングラスをクイッと整えた。
そこで少し静かな時間が流れた。
幽霊さんと出会ったこと、その幽霊さんが記憶をなくして閉まっていること どうにかその記憶を取り戻したいこと 全てを全部井草に話した。以外にも井草は途中で話に割り込むことはなく黙って最後まで聞いていた。そして栗原が話終わると。
「…..さっきから何を言ってるんですか」
当然の反応だった。普通信じるわけが無い。いくら信じている友達でもいきなりこんなことを言われたら、何を言っているんだこいつはという反応をするのは当然のことだ。
しかし井草は
「もし仮にいるのでしたら…それを証明できるものはありますか?」
最後まで信じるタイプなのだ。それを知った上で栗原は今回、井草に協力を申し出た。
「もちろんあるさ..幽霊さん!なんでもいいから本を持ってきてください」
「あぁ構わないが…取ってどうなるんだい?」
幽霊さんはそう呟きながら、すぐ近くにあった本棚から、本を1冊取り出し栗原の近くに置いた。
ただそれだけだった…たったその1つの光景が井草からはありえない異常の光景だった。
「……..」
井草は黙っている。
そうだ。幽霊さんは栗原以外の他人からは見ることが出来ない。つまり、井草から見ると本は空中を浮いて飛んできたのだ。栗原が幽霊に声をかけて取ってきたそのようにも見えた。普通に暮らしていればそんな現象は見ることは無いあるとしても手品くらいだ。
「どうかな..? 」
栗原は上目遣いで井草を見つめた。サングラス越しの目は落ち着いているような何か考え事をしているような目付きだった。
「…..調べるとしてもどうやって調べるんですか..?」
どうやら井草は信じるようだ。
「おぉ!」
栗原は目を輝かせ驚きのあまり大きな声を出してしまった。
「栗原君..お静かに..」
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