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「すれちがい」
注意 🦍社二次創作 ifルート
Chapter3「Qnly」
ゆっくりと目を開けると、実家の見慣れた自室だった。
外からの明るい日光が差し込み、俺にとって気持ちの良い目覚めだ。
のんびりとカレンダーを見る。
2019年の8月、高校2年生の夏休み。
外からジリジリと聞こえる、賑やかな蝉の声、畳特有の匂い。
日常の風景だけれど、なんとなく違和感を感じる。
布団から出て、敷布団を畳む。
洗面台で顔を洗い、リビングに行くと、母さんは美味しそうな卵焼きを作っていた。
父さんも野菜を切って、サラダを作っている。
「おはよう…」
「ぁ、おはよう、今日は随分のんびりと起きてきたのね〜」
ニコニコと話しかけてくる母さん、相変わらず静かに作業をしている父さん。
我が家は、とてもあたたかい。
夏休みが明けた。夏休み中も卓球ばかりで、特に休みは関係がない気がする。
「この式を因数分解する為にーー」
いつもの数学の先生の声を聞きながら、外の景色を見つめる。
真っ青な空、差し込む光、翠の山々。
全て美しい絵画のようだなぁ。
目を細めて、息を吐いた。
「それじゃぁ…テキスト65ページの大問1を解いて、答え合わせをしようと思う。」
そう言われて、机に置かれたテキストに目を移した。
俺は大学生になり、上京した。
今は2021年の6月。
大学1年生になったばかりだ。
新型コロナウイルスが蔓延して、オンライン授業ばかり。
新居のマンションでパソコンを立ち上げ、授業を受ける。
なんでこんなにも、味気ないのだろうか。
「おんりー、講義終わったらラーメン奢るからさ、ノート見せてくれない⁉︎」
「あ、この前お腹痛くて休んでたんだっけ、大丈夫?」
「うん、薬飲んで寝たら治ったわぁ」
「それなら良かったよ。はい、ノート」
そう言って講義ノートを手渡す。
その子は目を輝かせ、ニコニコ笑顔で
「ありがとう、マジ助かる‼︎あとで醤油ラーメン奢るわ‼︎」
と言ってきた。別に気にしなくていいのに。
大学2年の終わり頃には、キャンパスに通って講義を受ける形に変わった。
最近は、誰かと会ったり、同じ空間で講義を受けたり、人との関わりが増えてリフレッシュできている気がする。
家に帰る前に寄り道をしようと、家電量販店に寄った。
面白そうなゲームソフトを探しにきたのだ。
横では、スーツを着た、大柄なお兄さんがカセットをじっくりと見ている。
何処か見覚えがあるその顔をチラッと見て、また他のカセットを見た。
ワイシャツの胸ポケットに入れていたスマホが振動し、着信音が鳴った。
棚から離れて、電話に出た。
「もしもし…」
「おんりー、明日の昼、ゲーセンで遊ぼうよ‼︎」
「ごめん、その時間は講義があって行けないんだ…必修だから出ないとまずいし」
明日は昼に専門科目の講義がある。
これを休むと落単になってしまうから、断った。
その人は残念そうに電話を切った。
再びゲームカセットを見ていると、気になるソフトがあった。
手を伸ばすと、丁度お兄さんと手が軽くぶつかった。
「あ、すみません…大丈夫ですか?」
低くて落ち着いた、懐かしい声だった。
こっちをじっと見てくるから、慌てて言葉を発した。
「いえいえ…全然大丈夫ですので…‼︎」
気まずくなって、逃げるようにしてその場を去った。
あの人の顔、声、言葉。何処か覚えがあって、でも上手く思い出せない。
記憶の引き出しに鍵がかかっているかのようだな。
大学を卒業して、会社に就職した。
2025年の6月。
「おんりーくん、新人なのによく頑張るねぇ‼︎技術の上達も早い早い‼︎」
研修の段階から周りの人がベタ褒めをしてくる。
元々同じ動作を繰り返したり、それを応用したりするのは得意だった。
この会社は自由で、優しい人が多い。
実際、色々な人に助けてもらって上手くやれている。
この仕事、めっちゃいいじゃん。
俺は会社に行くのが楽しくなって、すっかり違和感や疑問を忘れてしまっていた。
久々に渋谷を歩いていると、巨大ビジョンに、名前が聞き覚えのある、有名なグループ系YouTuberが映っていた。
その人達の事が、何故か懐かしくて、羨ましかった。
「俺がYouTuberだったら…か。」
そんな事を言って、小さく笑った。
原因不明の、頬を伝う冷たい涙を感じながら。
Chapter3「Qnly」fin
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主の一言
コピックで塗るのが楽しすぎる