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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。明け方にレイミから連絡があり、無事にレーテルを出発したそうです。
ガズウット男爵……いえ、元男爵ですね。彼の身柄も確保し、領内に潜む不穏分子を排除したと。
まさかバラバラの花を用いた毒殺とは、我が妹ながら流石と考えるべきですね。罪人として裁けたのですから。
それに、毒殺して焼けば証拠も残りませんし、その当たりはカナリアお姉様が上手くやってくれるでしょう。
ガズウット元男爵の身柄を確保したとなれば、ニフラー筆頭従士の証言の裏を取ることが出来ますし、新たな情報を得ることも出来るでしょう。
その辺りはレイミが戻ってからじっくり調べてみるとして、意識を別に切り替えますか。
現在マナミアさん率いる部隊が十五番街で破壊工作を継続しています。既に傭兵王を始め主戦力を失った『血塗られた戦旗』に止めを刺しているような状態ですが、油断は出来ません。
まだ幹部が一人残っているし、レイミが警告していた少女とスネーク・アイと呼ばれる殺し屋が健在。まだ所在も掴めていないので、警戒体制は維持したままです。
とは言え、避難させていた黄昏の住民を呼び戻して町の機能を復興しなければならないのも事実。
『血塗られた戦旗』に破壊工作を行う余力があるとは思えませんが、度重なる戦いで疲弊した私達を狙う勢力が現れる可能性もあるため、難しい判断を迫られることに成りました。
「では、住民を呼び戻すのですな?」
「はい、セレスティン。不安はありますが、商業を再開させないと町の機能が停止してしまいます」
私は執務室でセレスティンに指示を出しました。町の復旧が急務ですからね。そこに懸念を示したのは、マクベスさんです。
「しかしながら、住民を呼び戻して人の出入りを再開しては敵の侵入を防ぐことが難しくなります。破壊工作の危険がありますが」
「承知の上です、マクベスさん。危険はありますが、私達の敵は『血塗られた戦旗』だけではありません。戦力の建て直しを図るためにも、町の復旧を最優先にしなければいけません」
何をするにしてもお金が必要なのがこの世界です。お金を得るためには、町を復旧させるのが一番の手段なのです。世知辛い。
「お嬢様、これまでの戦いで我々の被害は許容範囲を越えております。当分は大規模な会戦を避けていただければと……」
「『血塗られた戦旗』を滅ぼしたら内政に力を入れます。今後も貴族を相手にする可能性は高いですし、これだけ名を上げれば『会合』も関与してくるでしょう」
「更なる戦力が必要に成りますな」
そう、『オータムリゾート』や『海狼の牙』を見れば分かりますが、『会合』加盟組織は巨大です。『血塗られた戦旗』や『エルダス・ファミリー』なんか目じゃないレベルで。
これらと対抗するためには、更なる軍備拡張が急務となります。
既にドルマンさんにはドワーフを、リナさん達にはエルフを更に呼び寄せられないか打診しています。
そして、黄昏での大規模な募兵も開始しました。自警団からも随時戦闘部隊に人員を回す予定です。
ただ、共通点は時間を要すると言うことです。
少なくとも来年、私が十九歳になるまでは攻勢を掛けないつもりではありますが……。
「お嬢様、その為には更なる資金調達が必要となります」
「『マルテラ商会』を介した帝国西部との交易だけでは足りませんか?」
「足りませぬ。ロウ殿曰く、農園での収穫は順調で余剰在庫で倉庫が溢れているのだとか。販路の更なる拡大をマーサ殿に依頼したく」
「帝国西部だけでは不足ですか」
値崩れを防ぐために農作物の出荷数を調整しているのですが、この四年間で需要は増えるばかり。値崩れを起こすどころか、マーサさん曰く馬鹿みたいに高騰しているのだとか。
ただ、輸送手段の関係から数が限られていましたが、鉄道とレイミの溶けない氷があれば大量に輸送できるかもしれません。
ライデン会長に貨物列車の運行を増やすように依頼してみましょうか。海路と陸路を使えば、輸送量は劇的に増えるでしょう。
簡単な打ち合わせを終えた私は、一人で教会へ赴きました。もちろんシスターと会うためです。
礼拝堂でシスターは相変わらず祭壇に座って勇者様の像を眺めています。
「シスター」
「シャーリィ、来ましたか」
私が声をかけるとシスターは祭壇から降りて此方に歩み……むぎゅっ。
「シスター?」
シスターに抱きしめられました。お胸様の感触が……至福です。
「もう少し、このままで」
「……はい、シスター」
私もシスターの背中に手を回して抱きしめます。最近シスターが優しい。
いや、もともと優しい方ですが、何と言うか……まあ、想うところがあるのでしょう。
しばらく包容を交わし、シスターはゆっくりと私を離しました。むぅ、至福の時間が。
「何処を見ているのですか?」
「お胸様を……あ痛っ!」
正直に答えたら拳骨されました。解せぬ。
「全くこの子は……座りましょうか」
長椅子に並んで座り、二人で祀られている勇者様の像を眺めます。
「英雄の最後は幸福ではなかった、そうですね?シャーリィ」
「はい、シスター。激しい憎悪です」
勇者の剣を使う度に、私の中に宿る勇者様の憎しみを感じます。時にはその感情に飲まれそうになる。
マリアと会った時は、それが顕著でした。だから私は彼女と関わりを持ちたくないのです。だって、彼女相手に武器を抜いたら、自分を止められる自信がありません。勇者様の憎悪に呑まれてしまうでしょう。
「その力が貴女の身体に宿っている……極力剣の使用は控えなさい」
「そのつもりです、シスター」
ドルマンさんが作ってくれた魔法剣も予備として持ち歩いています。どちらも柄だけですし、邪魔には成りません。
ただ、どうしても魔法の出力に明確な差が出てしまいます。
心配そうに私を見ているシスター。思えば心配をかけてばかりですね。
「それで、今日はどうしました?」
「シスターの顔を見たくなった、それではダメですか?」
「悪くはありませんが、他に用事があるのでしょう?」
シスターも無表情ではありますが、その瞳には優しさを感じます。
「『血塗られた戦旗』についてです。正直もう決着は付きました。今後を相談しようと思いまして」
「今後、ですか」
「はい、シスター。彼らが支配する十五番街の扱いを中心に、今後の段取りがありますからね」
セレスティン達も非常に頼りになりますが、やはり暗黒街、裏社会についてはシスターが精通していますからね。
私は身体をシスターに向けて親子の相談?を始めるのでした。