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下総国 古河城 足利高基
高実が部屋から出て行った後、儂は自室でひとり考えを巡らせていた。事は自身の後継者のことであった。一応自身の後継は晴氏が継ぐことになってはいるが、儂にとって晴氏の振る舞いは許せるものではなかった。
晴氏は初代成氏を尊敬し、公方自ら戦場に立つことで諸大名からの支持を集めることを理想としているが、それは長年戦を大名に任せて公方は後方でどっしり座るものとしてきた自身の存在を否定していた。
そして次第に儂は晴氏は嫡男だが公方としてふさわしくないと考えるようになった。その代役として考えたのが庶子だが次男の高実だった。そのため一度高実を呼び出し晴氏について聞き出してみたが、玉虫色の回答に失望を隠しきれなかった。後半はこちらの意図に気づいたのか晴氏を否定する発言も出たが、高実への評価は低いまま終わった。
高実は父親の自分から見ても武将としての器量は晴氏に大きく劣り、性格も少し内向的で良いところが少なかった。強いて挙げるとするならば儂に従順的なところくらいだろう。実家の力も弱く、仮に当主となっても頼りない印象は拭えず、家中の統制もできるか怪しいところだ。
一方で初陣を果たした晴氏は以前から備えていた器量に加えて戦果を挙げたことで諸将からの支持を急速に集めていた。公方らしくないと思いつつもその戦果は本物であり武将としては晴氏を認めざるを得なかった。
そんな晴氏をもし廃嫡にしたならば諸将からの反発を招くことは簡単に理解できた。しかし心情からすると自分に反抗的な晴氏より従順的な高実を後継にして家督を譲った後も影響力を残し続けたいという思惑もあった。
「くそっ、なぜ事が儂の思うように進まない。誰か、酒だ。酒を持ってくるのだ」
理想と現実の狭間で苦悩する。そして酒を飲むことで再び現実から逃避するのであった。