迷ってる。私が進むべき道はどこにあるの?
行き止まり、行き止まり、崖、またもや行き止まり。林を彷徨い岩場で躓き川辺で休憩。川はなだらか、心はザワザワ。風はヒューヒュー、小鳥はピヨピヨ。一体いつになったら抜け出せるのかしら。
「おはよう」
声をかけても返ってこない、当たり前のことだけど。1日という物語が始まるというのに幸先悪くて不安が募る。毎日のこと。ぐちゃぐちゃのリビングの真ん中で布団を敷いて寝ている。昨日はお酒に酔って帰ってきたから。5:06この家では私しか起きていない。といってもこの家には2人しか住んでいないからね。以前までは母がいた。母は大手企業で働いていてかなりの収入があった。だから父は働いていなかった。母がいなくなってから生活費を稼がなくてはならないから工場で働いている。いつまで続くの?ずっとこのままなのかしら。
昔はいわゆるお嬢様だった私は毎日が楽しかった。本で読むお嬢様とおんなじ生活。毎日が物語のように進んでいく。一ページずつ。
「おはよう」
「あら、おはよう、玲。早起きで偉いね。パパなんてぐっすりなのに」驚いた顔も見えたがすぐに笑顔になった。
「朝ごはんは何がいい?こんなに早く1人で起きれると思っていなかったわ。」
時計の針は6:20を指している。実は昨日ね、ママの真似してスケジュールを立てたんだ。朝は6:30に起きて朝ごはんの支度をお手伝いするって決めていたの。紙に書いている時明日が待ち遠しくて、足がうずうずした。早く明日が来ないかなって思っていたら10分早く起きちゃった。でも早く起きれば起きるほどママは褒めてくれるからいっか。あと朝ごはんの準備を長くできるもんね。
「フレンチトーストがいいな。私も作るの手伝うよ」
「玲は本当に優しいね。ありがとう。いちごものっけようか」
フレンチトーストはトロトロしてて甘いメープルシロップをかけて。ココアによく合うの。朝から幸せがたくさんだわ。今日もいい1日になりそうね。
出来立てのフレンチトーストはやっぱり美味しい。今日はバニラアイスといちごも乗っけて。あったかいのにひんやり冷たい。甘いのに酸っぱくて。真逆のものを乗っけてるけどちゃんと一つになるのね。やっぱりママってすごいわ。私、ママみたいに絶対なるの。優しいのに、時には厳しく、かっこいいのに可愛いのよ。ねえ素敵じゃない?
ママはね、大きな会社で働いていてね、よく海外にも行くの。昔テレビで飛行機が落ちちゃた話があったの。だから飛行機が落ちちゃわないか毎回心配してるの。
ママは18:00には着くって言ってたわ。でももう3時間もすぎてる。
「ねえ、ママは?いつかえってくるの?もしかして飛行機、落ちちゃったの?」
「飛行機のね 中で ハイジャックが起きてるんだって 」パパは途切れ途切れ、ゆっくり話してる。スマホの画面を見つめながら。
「ハイジャックって、なに?」
「飛行機がね 乗っ取られちゃったんだよ。ママももしかしたら 」
乗っ取られる?飛行機?死んじゃう?死んじゃうの?ママは、死んじゃうの?
「急ごうよ!ママが!危ないよ!!まだ今なら助けられるかもしれないわ!」
大きな爆発音。パパは私を抱きしめた。
床に落ちたスマホの画面には空で爆発して下に落ちていく飛行機が写ってる。
なんで、なんでなの?
もうダメなのね。ママは死んじゃったのね。もう会えないのよね。わかった。だけど。
涙がでて、ほっぺたをたどって床に落ちる。どうしようもない悲しみが埋め尽くす。一ページが涙でぐちゃぐちゃになっちゃった。
「おはよう」
誰もいないリビングに声をかける。6:14。早起きしたけど褒めてくれない。パパはまだ眠ってる。昨日はずっと泣いていたから疲れたんだわ。私もそうだったから。
もう泣かないわ。私。夜、そう決めたの。
私がずっと泣いていたらママが悲しむと思うから。
きっと私よりパパの方が悲しいと思うわ。だって私はまだ9年しか一緒にいないのよ?なのにこんなに悲しいなら、ずーっと一緒にいたパパは私よりももっと悲しいんだわ。
ママがいなくなってからパパはずっと具合が悪そうにしてる。ずっとお酒を飲んでいて、話しかけても聞こえてないみたい。悲しいのは分かるけど私だって悲しいわ。私何をすればいいの?お勉強もやろうとしても進まないし。
ねえママ、私すごく悲しい。何もかも今まで通りにいかないの。広くて綺麗なおうちからは引っ越さなくちゃいけなくなって小さなアパートに住むことになったの。私のいっぱいあったドレスも3枚だけにしたわ。ママに貰って大好きだったドレスもたくさん売ることになっちゃったわ。私のお部屋にあったものはほぼ売っちゃったの。私が持ってるもの。それは今までの日記とドレス3枚、ちょっとお洋服、カチューシャひとつとうさぎちゃん。本当に悲しかった。だってママに貰ったものばっかりなんだもの。これも、あれも、それも。だから売ったお金で1年は暮らせるんだってパパは言っていたわ。
それもお酒を沢山買うから1年なんか全然過ごせなかったけどね。
私は幼稚園から大学までずっと繋がってる学校に行っていたけど、そこにも行けなくなった。お友達に話せなかった。ママが死んじゃったって。お部屋は空っぽだって。薄暗いお家で自分のお部屋もないなんて。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!