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「お母さん。おなかすいた」
「ん? 冷蔵庫に何かあったでしょ? 適当に食べなさい」
僕の名前はアラシヤマ スグル。お母さんは夜の仕事をしていた。朝食を作ってくれたことはない。
5歳の頃の記憶。冷蔵庫を自分で開けてプリンがあったので食べてる。白米を食べたのは中学生に上がったくらいの時が初めてだった。
いい時で食パンが置いてあるくらいかな。あまり思い出したくない思い出だ。
「スグル! お金貸してよ。バイトしてんだろ?」
母子家庭だった僕は大学に上がると一人暮らしをした。
奨学金制度で入れた大学だったけど、家賃を払うにはバイトをしないと暮らせなかった。
それでも一日一食、ギリギリの生活だった。苦しかった。それなのにこの人は子供の僕にお金を求めてくる。
「あんたも私を捨てるのか! 男はみんなそうだ! 男なんか生むんじゃなかった。あんたなんか生むんじゃなかったよ!」
バンッ! あの人そう言ってアパートの扉を強く閉めていく。その音を聞いて隣の部屋が壁をドンッと叩く。
僕は頑張ってるんだ。あの人にかまっている暇はない。
「あんたが悪いんだ。私が生んでやったのに恩を返さないから」
あの人を追い返してから次の日の朝。大学へ向かう時、背中に激痛が走った。
痛みで振り返ることはできなかったけど、声で確信する。あの人だ……。
「痛い……。なんでこんなに痛いんだ」
背後でする走り去る音が胸に刺さる。背中の痛みなんて感じないほどに胸が痛い。
「僕だって助けてほしかった。お母さん……なんで助けてくれなかったの」
涙を流して声をもらす。でも、その声はあの人、お母さんには届かなかった。
「キャ~! 人が刺されてる! 誰か救急車!」
「大丈夫ですか! 今助けを呼びましたよ! がんばってください!」
僕は前に倒れて背中が濡れているのを感じた。その最後の感触を感じると意識が遠のく。
ーーーーーーーーーーーー
オギャア! オギャア!
な!? なんだ!? うるさい!
目を覚ますと赤ん坊の声が聞こえてくる。耳のすぐ近くで泣き叫ぶ赤ん坊。眠っていられない。
「ははは、元気な男の子だ! オリビアありがとう」
「うんん。こちらこそありがとうルード」
目の前で繰り広げられるイチャイチャ。僕は抱き上げられながら二人のイチャイチャを見せられる。
どうやら、うるさい赤ん坊の声は僕だったみたい。なにがなにやら……どういうことだ?
「あら? 静かな子ね。もう目が見えているのかしら? 不思議そうに私達をみているわ」
「ん? おお、本当だな。オリビアの青い瞳が可愛らしい子だ」
「それはルードもでしょ」
またもやイチャイチャし始める。
この人たちが僕の両親ってことか。正直、親には期待していない。あんな仕打ちを受けたんだ。親に期待を出来るはずがない。
「バブ」
「あら? アルス。本を読んでいるの? ってまだ読めるわけないわよね。生まれて一週間しかたっていないものね。首が座るのは早かったけれど」
僕の名前はアルスに決まったらしい。
僕は一生懸命勉強する。生まれてすぐに首が座っているのを感じて家の中を歩き回った。
両親は「ルードに似て優秀ね」や「オリビアに似たんだよ」とイチャイチャし始める。
僕はそれを見せられてケッと声をもらした。僕は親を信じない。前の記憶を持って生まれてしまったんだ。こうもなろう。
親がいつか僕に愛を注いでくれる、なんて甘い考えじゃ生きていけない。
日本で生まれてもそうなんだから、この世界じゃもっと厳しいぞ。いつでも一人で暮らせる強さを手に入れないといけない。
「バブバブ」
幸せなことに、今世の家は少し裕福に感じる。といっても日本の一般家庭からすると不便なものだ。
トイレはボットン便所と言われる汲み取り式。畑にまくために貯めているし、お風呂はなくてタオルで体を拭う程度。匂いにはなれたけど、最初は酷かった。
アニメやゲームは少しだけやる機会があった。漫画は友達に読ませてもらったことがあったが、その時に見た時代背景の家に似てる。中世ヨーロッパ時代の家だな。
石造りで隙間風が所々に吹いてる。暮らしやすい暖かな風だから良いけれど、冬があるなら危険な隙間風。
そして、何より裕福だと感じたのは本だ。本は知識の宝庫。人の失敗や成功が描かれている。
先人たちのように失敗の苦汁を飲まなくても経験を得られる。凄いものだ。
「バブ」
この世界の歴史が描かれている本を見る。
この世界の名前は【レテルサーガ】。神がそう残して消えたと言われている。本物の神のいる世界ってことかな。
この世界の人類は人族だけじゃない。エルフ、ドワーフ、獣人と多種多様な種族が暮らしている。妖精もいるらしいのでワクワクしてしまった。
珍しく結構平和な世界。争いは魔物との戦いだけ。魔物はみんなの共通した敵ということで仲良くやれてるのかもな。
「バブ!」
そして、この世界にはレベルが存在する。魔物を倒すともらえる経験値が人を強くする。僕はこれを誰よりも早く得て強くなる。両親に捨てられてもいいように!