テラーノベル
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昔からクリスマスのキラキラした感じが好きだった。
冬が好きなのもあったし、透明な空気感もキラキラのイルミネーションもそれを眺める人たちの表情もどれにも心がわくわくした。
よく1人で出かけては隣に好きな人がいればいいのに、なんて考えながらそんな人が見つかったのはもう10年も前だったけど未だに僕はその人を連れて行けてはいない。
なんでだろう、今年こそは。
貴方を誘ってみようと思える冬だった。
「クリスマスマーケットに行きたい」
そう呟く僕にりょうちゃんは元貴クリスマス好きだもんね、と他人事みたいに答える。つまりこれは誘ってるんだってば。
「···一緒に行かない?」
「わぁ、行く!僕行ったことないんだよね!若井も誘う?」
2人きりで行きたいから、2人きりの時に声をかけたのに···なぁんにも察してくれないりょうちゃんは呑気ににこにこ笑っている。
まぁ、そこが好きなところなんだけど。
「若井は行かないって!だから2人きりなんだけど···だめ?」
「ううん、行こう!若井は行きたくなかったの?楽しそうなのにね、けど3人だとバレちゃうかもしれないからちょうどいいかも」
誘ってもない若井にごめんと思いながら、こういうわけで時間が取れた時に2人で出かけることにした。
もちろんきっちり変装して。
やっぱり夜は寒い···そう思いながら手をこすり合わせてりょうちゃんを待つ 僕は白いニット、深緑のコーデュロイパンツに赤いマフラー、黒いファーの帽子。
一応クリスマスカラーで纏めてきた、そういう服装だと紛れ込みやすいかなって。
心配なのはりょうちゃんだ、めちゃくちゃ派手な帽子とか真っ黄色のセーターなんか着てきたらどうしよう、可愛いけど目立って仕方ないな、と思うとトントン、と肩をたたかれる。
「えっ、りょうちゃんだよね?」
一応小声で確認する。
確かにりょうちゃんなんだけどその格好は想像と全然違う。
黒のハイネックニット、黒のパンツに黒い革靴。
金髪は無造作に一つに束ねていてグレーのロングコートを着こなしている。
真っ白なボリュームのあるマフラーで口元を隠していて、細いシルバーフレームの丸メガネをかけていて、モノトーンコーデでいつもとまったく雰囲気が違った。
「あれ、ヘンだった?変装してきてねって言うから···似合わない?」
ぶんぶんと大きく首を横に振る。
似合うどころの騒ぎじゃない。
めちゃくちゃかっこよくてこれはもうメロいってやつじゃない?
「めちゃくちゃ似合う···」
「ありがと、元貴もクリスマスカラーで可愛い。さぁ、いこ?」
さらりと僕は褒められて嬉しくなりながら夜に輝くお店が並ぶマーケットへと、僕とりょうちゃんは足を進めた。
可愛い小物を眺めながら2人でホットココアを買って空いてるベンチに座る。
「クリスマスっていいね、キラキラしてて楽しくなる···誘ってくれてありがとう」
「僕も昔から大好きなんだよね、みんな幸せそうでさ」
「···元貴は幸せ?」
りょうちゃんに見つめられて、 その真剣な、眼差しにドキッとしてしまう。
「幸せだよ」
「そう、じゃあ良かった」
「···りょうちゃんは?」
僕は貴方が隣にいて、とっても幸せだよ。こんなデートみたいなお出かけが出来て、けどりょうちゃんは?
「僕も幸せ。だけど···」
「だけど···?」
「好きな人と手を繋いでこのキラキラした景色を観られたらいいのにって」
胸がぎゅっと締め付けられる。
そうだよね、こんなところにはやっぱり好きな人と来たかったよね。
「···ごめんね、帰ろうか」
「えっ?」
空になった紙コップをくしゃっと握り潰して帰ろうと立ち上がって歩き出すとりょうちゃんも慌てて僕を追いかける。
人をかき分けながら早足で歩く僕の手を後ろからりょうちゃんが掴んだ。
「ちょっと待って!いきなり···もうちょっと見て回ろう?どうしたの」
「だって···!りょうちゃんが好きな人となんて言うからごめんって思って···好きな人と手繋ぎたかったんでしょ···僕なんか···」
振り払おうとするけどりょうちゃんの手は力強く僕の手を握って離さない。
「離してよ···」
「離さない!やっと繋げたんだから“好きな人”と!」
「···え?」
周りの人が揉めているのかなってチラチラと見ている気がする。けどりょうちゃんは何にも気にせずそのまま続けた。
「嬉しかった、誘ってくれて!“好きな人”とデートできるんだって···だから帰らないで···」
握られた手があったかい。
そして顔は熱くて心臓はドキドキしてる。
「りょうちゃん···いこう!」
「わぁっ!?」
りょうちゃんの手をひっぱって人混みから抜け出して が居ないところを目指す。静かな場所を見つけて息を整えながら息なんて上がってないりょうちゃんを見てさすがだなぁって思いながらその腕の中に飛び込んだ。
しっかりと抱きとめてくれるとお互いの鼓動が早くて2人ともドキドキしているのがわかる。
「元貴···?」
「さっきのは本当?りょうちゃんの好きな人って···」
「···うん、元貴のこと。僕ずっと元貴のこと好きだった···手を繋いで、デートしたかった」
僕も。
僕も本当はそうしたかった。
けどそこまでは叶わない事だと思っていた。
「もっと早く言えよぉ···」
「ごめん···ずっと一緒にいるとタイミングとか···」
悪くないのに謝ってくれるりょうちゃんが好き。
いつも可愛いのに僕を抱きしめる力が強くてカッコいいりょうちゃんが好き。
「えっと···返事は···?元貴は僕のことどう思ってる?」
「···決まってるでしょ、好き、大好き、僕と付き合って···」
「嬉しい···!よろしくお願いします」
もう一度強く抱きしめられて夢みたいに幸せだって思う。
「ねぇ元貴、今年も25日はクリスマスパーティーみんなでするでしょ?けど24日の夜は僕と過ごしてくれる?」
「2人きりで···?」
「もちろん!だめ?」
いいに決まってる···僕は何度も頷くとりょうちゃんと手を繋ぐ。
今年1年いい子で頑張ったからかなぁ···こんな素敵なプレゼント貰えるの。
そんな子供みたいな事を考える。
「幸せだね」
「うん、幸せ···」
少しの間、こっそり手を繋いだままイルミネーションで輝く街を歩く。
凄く幸せな時間はあっと言う間に過ぎてそろそろ帰らなきゃいけない。
けどこのままさよならなんて···。
さみしくなって離したくなくて繋いだ手に力を入れる。
「バイバイしたくないな···」
僕の気持ちを読み取ってくれたみたいに隣でりょうちゃんが呟いた。
「僕も···そう思ってた···」
「···じゃあ、もう少し一緒にいてくれる?僕の家に一緒に帰って」
僕の寂しさをわかってくれる。
それが嬉しくて泣きそうになるのを誤魔化して「昔みたいに片付け一緒にするのはやだよ」って笑った。
「だいじょーぶ、だいぶ僕も成長したから!······たぶん」
言い切れないあたりがりょうちゃんらしい···そんなところも愛おしくってぴったりとくっついて2人で一緒に帰る。
2人で歩く夜空に鈴の音が聞こえた気がする。
少し早いクリスマスプレゼントを貰えた気持ちで幸せで、僕はもっとクリスマスが好きになった。
コメント
6件
いいわぁ♪めっちゃ好き🩷「好きな人」発言で嫉妬しちゃう大森さんが可愛い😍けどなー⋯身内にすら誕生日を忘れられた雫騎にクリスマスが来るのやら?
おいおい最高じゃないか。クリスマスっていいな。
モノトーンコーデのイケメンででもデレデレなりょうちゃん…💛想像しただけでドキドキが止まりません😇いつもながら神作すぎます💕早めのメリークリスマス🎅