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ライバルの妨害――乙女ゲームでは定番のイベントだよな。

|遠又《とおまた》が総務部で一戦やらかしたことは|晴葵《はるき》からこっそり聞いていた。

総務部の浜田さんは俺のひとつ上。

真面目でしっかりした人という印象だ。

悪いイメージはない。

晴葵は遠又を見張っていたせいで、サボっていたと勘違いされ叱られたらしいが、お前はたまには叱られておけよと思わなくもなかった。

なにせ親が激甘だからな。

俺に世話を頼むくらいだ。

少しは世間の荒波にもまれたほうがいい。

晴葵が手に入れた情報を分析する。

ライバルの出現による妨害を回避するにはどうすればいいのか。


答え――攻略キャラの好感度をあげるための行動をとる!


これだ。

乙女ゲームであれば、狙っているキャラがいる場所へ行き、自然に遭遇したふりをして、会話を楽しむ。

うまくいけばイベントが起きる。

必須イベント――それこそが重要な攻略の糸口!

昼のチャイムと同時に総務部へ行き、顔を出した。

昼なら、必ず総務部にいるはずだ。


「|新織《にいおり》」


名前を呼ぶと新織が驚いた顔をしていた。

そして、俺を見て戸惑っている。

返事がない。

おかしい。

俺達は付き合っているよな?


「一緒にランチへ行かないか」


ざわっ、ざわわっ

総務部のフロアが騒然としたのがわかった。

なんだ?

なにかあったのか?

ダダダッと新織は猛スピードで走ってくると俺の腕をつかんで廊下に出た。


「一野瀬部長! 普通、社内恋愛って隠すと思うんですが!?」


「そうなのか? 俺は隠さない」


正々堂々と宣言した。

だが、新織は首を横に振る。


「隠してくださいっ! だいたい今まで付き合ってきた人たちのことだって、一野瀬部長は隠してきたはずです!」


今まで付き合ってきた相手を隠す?

誰のことを言っているのだろうか。

新織の言っている意味がわからなかったが、隠したことはなかった。


「隠したことはない」


「嘘っ! 今だって、私とは別に本命(葉山君)がいますよね?」


「いない。俺は複数の女性と付き合う不誠実な男じゃないぞ」

「女性……女性ですよね」


なにかブツブツ言っているが、なにか誤解があるようだ。

確かに今まで言い寄られて付き合うことはあった。

だが、今は完全にフリー。

晴葵が『魔法少女☆ルン』のBlu-rayを勝手に置いても捨てずにいるのが、いい証拠だ。

最近は警告を三回したら、それを捨てようと思っているが。


――そうか、わかったぞ!


もしや、|奥川《おくがわ》や晴葵のように二次元の俺の嫁的な存在がいると思われているとか?

まずい!

非常にまずい!

俺という人間を新織は誤解している。

俺は二次元だけの男じゃない。


「他には誰もいない。お前だけだ」


「会社でそんなセリフやめてください! 誰かに聞かれたらどうするんですか!」


「あ、そうだな。悪い」


ただ俺はあいつらのように、俺の嫁は二次元にいないと、新織に伝えただけなのに怒られてしまった。

そんな顔を赤くして怒らなくてもいいと思うんだが。


「新織。とりあえず、社食に行こう。早く行かないと社食名物のカツカレーがなくなるぞ?」


肉が厚くてジューシー。

衣がサクサクしていると評判のカツ。

売り切れ必至の人気ナンバーワンメニューだ。


「ま、ま、待ってください! 会社では仕事の関係のみでいましょう。別れた時、お互い気まずくなるじゃないですか」


――別れた時?


そう言われた瞬間、イラッとした。


「なあ。新織。別れを前提に付き合うのはおかしくないか?」


「そ、それはそうですけど」


「新織が困るなら、俺と一緒にいるのは社員旅行の打ち合わせってことにしておけばいいだろ?」


「わかりました。じゃあ、それで」


やっと納得してくれた。

彼女は照れ屋なのかもしれない。

今まで、簡単に男の誘いには乗らなかった新織。

控えめで真面目、あまり自分のことを語らない性格だ。

急ぎすぎては失敗するかもしれない。


――歩調を合わせるのは大事なことだ。新織に合わせなくては。


新織は周囲を気にして、会話も少なく、社食に行くとすでにカツカレーは売り切れてしまっていた。

遅かったか。

がっかりしながら、日替わり定食を選ぶ。

外での食事が多いから、ここのカツカレーをたまにしか食べられないのが悲しい。


「カツカレー、残念でしたね。私はお弁当が多いので知りませんでした。今日は起きるのが遅くて、お弁当を作れなかったので……」

「そうなのか? タイミングが良かったんだな」

「一野瀬部長は社食にいるイメージがありません」

「社食はうまいから、なるべく食べたいんだが、仕事で外回りをしてるとなかなか食べられない。ほら、プリン。プリンもうまいんだぞ」


日替わり定食についてきたプリンを新織のトレイにのせた。

なぜなら、新織が食べる量が少なかったからだ。

新織は単品でサラダとおにぎりだけで、足りるとは思えなかった。


「ありがとうございます」


「少食なんだな」


「いえ、ちょっと遅い時間に食事をしてしまったので、カロリー調整をしています」


痩せすぎなくらいだが、社食はサラダバーとスープバーがあって食べ放題になっているから、俺の気にしすぎかもしれない。

本社に戻った俺は、社長から『福利厚生改革案』を求められた。

社長は本当に社員思いなのだ。

だから、ついどんな面倒な頼み事でも聞いてしまう。


――俺の両親も母方の祖父も腹黒いからな。乙木社長の人柄に惹かれて入社したと言ってもいい。


つまり、俺の周りにはいないタイプ(善人)だった。

晴葵も晴葵で、したたかで抜かりがなく、要領がいい。

血縁者はどいつもこいつも侮れない。

そんなわけで、俺は『福利厚生改革案』のひとつとして、社食を変えた。

社長が話し合い、社員の健康向上と利用率アップを目標に掲げた新しい社食の形。

社食の改装工事から始める徹底ぶりを見せた。

コックのスカウト、メニューの一新。

おかげで、社食は連日、賑わっている。

そのため、大勢の社員がいる。


「視線を感じるな」


俺と新織は注目を集めているような気がした。

気のせいでなければだが。


「だから、社内恋愛は隠さないと駄目って言ってるんです」

「そのうち誰も気にしなくなる」

「それはないです。これは社内旅行の集まりといいうことにしましょう」


新織はきっぱり否定し、隠す方向でいくことに決めたらしい。


「一野瀬部長! 新織さん! 俺も一緒に食べていいですか~?」


晴葵が現れ、俺たちと同じテーブルに、トレイを置いた。


「おい……」


こいつ、今までどこに潜んでいやがった!?

竹林に潜む伏兵かよ。

しかも、俺が食べたかったカツカレーをしっかり購入している。

こいつ、券売機の販売開始と同時に、券だけ購入してゲットしていたな?

なんてしたたかで要領のいい奴だ!


「新織に迷惑だろう? 向こうで食べろ」


「いえっ! 私のことは気にしないでください!どうぞ遠慮なく!」


さっきまでの重苦しい空気は消え、なぜかイキイキとしていた。

水を得た魚のように。

新織になにが起きた?


「むしろ、私のことは空気だと思ってくれて結構です」


「嬉しいな~」


にこにこと晴葵は微笑んで新織の隣に座ろうとした。

こいつ――!

ガタッと新織は立ち上がり、俺の横の椅子をひく。


「葉山君! 一野瀬部長の隣にどうぞ!」


ほらみろ。

お前の下心なんかみえみえなんだよ。

にやりと俺が笑うと晴葵はおもしろくなさそうな顔をしてみせた。

逆に新織は目をキラキラさせ、俺を見ている。

やっぱり俺の気のせいじゃないよな?

好意はちゃんと持たれている。

あんな熱い目でみてくるのだから間違いない。


「やっぱり向かいあわせのほうがよかったかも……?」


晴葵が無理やり割り込んできたというのに新織は気遣ってくれていた。

いい人だな――ピコンとハートが増えた音がしたって、俺の中で新織の好感度が上がってどうする!?

上げるのは、俺に対する新織の好感度だ!

今までとはなにかが違う。

淡々と冷静にこなせないアクション。

自分から女性に対し、何かしたいと思ったことも、行動することもなかった。

それに俺は新織が付き合うことを了承してくれた時、嬉しかった。

そうか。

俺は本当に新織のことが好きなんだな。

ふっと笑みがこぼれた。


「新織。今度の……」


「|貴仁《たかひと》! やっと見つけたわ! こんなところにいたの?」


社食に明るい声が響いた。

聞き覚えがある。

これは。


「私、海外支店から帰ってきたの。あなたに会いたくて」


突然、俺の目の前に現れたのは、|乙木《おとぎ》ホールディングスの社長令嬢|乙木《おとぎ》|紀杏《のあ》だった―――

私はオタクに囲まれて逃げられない!

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