僕は、本宮君の答えを聞くのが怖かった。
「そう……2人きり。俺も恭香に告白したけど、まだ返事はもらえていない。君と同じだよ」
「……本宮くんも告白したんだね。そっか、いや、でも……同じ部屋に毎日一緒にいて、しかもその相手が自分の大好きな人で……な、何もないなんて……思えないよ」
「誓って言う。俺は恭香に手は出してない。キスも……してない」
「本当に……?」
「ああ、嘘じゃない。彼女の気持ちがはっきりとわからないのに……それはできない」
少しホッとした。
それでも、一緒に住んでいる事実には変わりない。
恭香ちゃんは、本宮君と同居していることを僕には言わなかった。
でも、もちろん、恭香ちゃんが悪いわけじゃない。
きっと、言いたくても言えなかったんだろう。
僕は知らなかったとはいえ、恭香ちゃんの気持ちに答えず、菜々子に告白してしまったんだ。
せっかく僕を思ってくれていたのに、僕がよそ見をしてしまったばかりに……
後悔しても始まらないけれど、自分があまりに情けない。
僕の一番大切な人には……
今はもう、本宮君がいるんだ。
最低だ、僕は。
「恭香は今、一弥君と俺のどちらかを選ぼうとしてる。いや、選ばないといけないと悩んでいる。それが、見ていていたたまれないんだ。だから、今回3人での旅行を考えた」
「……うん」
「恭香がどちらかを選ぶきっかけに少しでもなればと思ったけど、実際はどうなるかなんてわからない。だから、すごく不安だ。もし俺ではなく君が選ばれたら……そう思うと、胸が張り裂けそうになる。あるいは、どちらも選ばれない可能性だってあるんだ」
「……どちらも選ばれない可能性? 確かにそうだよね。全ては、彼女が決めること……だからね」
「そうだ」
だけれど、そうなると、一緒に暮らしている本宮君の方が有利じゃないか。
手を出していないと、信じていいのか?
だって、僕がもし恭香ちゃんと同じ部屋にいたら……我慢できるかなんてわからない。
本宮君だって、1人の男。好きな人が目の前にいて、キスさえまだしていないなんて……
「……とにかく、恭香ちゃんが、僕か本宮君のどちらかを選んでくれるのを待つしかないよね。だけど、やっぱりズルくない? 本宮君だけが恭香ちゃんと一緒に住むなんて。近くにいれば、自分が有利になるようなことも話せるし、情が湧いてしまうかもしれない」
思わず本音が出てしまった。
いやらしい自分の思いを口にして、自分で嫌な気持ちになった。
「ああ、確かにフェアじゃないな。それは、正直、ずっと思っていた。君の言う通りだ」
本宮君……
この人は、本当にいいやつ……だ。
カッコ良くて、性格も良くて、仕事ができて、お金持ちで……
確かに僕にはないものを本宮君はたくさん持っている。特に、経済力で言えば、僕はこの人の足元にも及ばない。
『文映堂』の肩書きは大きく、どれだけ手を伸ばしても届かない。
もちろん、恭香ちゃんは、お金のことで人を判断するような女性ではないとわかっている。
だけれど、僕も不安になる。
僕は……本宮君には勝てないのだろうか?
「……どうするつもりなの?」
「確かに、恭香と一緒にいたい気持ちは捨てられない。毎日そばにいたからこそ、ほんの少しでも不安が和らいでいた。でも……こうなった以上、恭香がどちらかを選ぶことができるまで、俺は実家に戻る」
「あ、ああ、わかった。そうしてほしい。だけど……恭香ちゃんは、どちらかを選べるのかな?」
「確かにな。さっきも言ったけど、2人ともフラれることも有り得るからな。彼女の気持ちは俺たちにはわからない。だけど、もしフラれたとしても、それでも俺は絶対に恭香を諦めたくない。どんなことがあっても、彼女のこと心から思い続ける」
本宮くんの目はとても綺麗で、彼の性格を物語っていた。
「もちろん、僕もだよ。僕だって、恭香ちゃんのことが大好きなんだ。他の女性ではダメだ。だから、絶対諦めたくない」
本宮君も、僕も、2人ともに恭香ちゃんのことを真剣に想っている。
それが、今日、ハッキリとわかった。
この旅行は決して無駄ではなかった。
ライバルだけれど、勇気を出して誘ってくれた本宮くんに、心から感謝したいと思った。
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