テラーノベル
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りうら視点
夜になると、決まってないくんの部屋の灯りを思い出す。
小さなキッチン、ソファに無造作に置かれたブランケット、そして、いつも俺の帰りを待っていた、静かなまなざし。
「ただいま」なんて一度も言えなかったくせに。
ないくんの前にいると、なぜか言葉が詰まる。
最初は軽い気持ちだった。
心を開くなんて、面倒で無意味だと思ってた。
だから、ないくんの優しさも、真っ直ぐな目も、どこかで馬鹿にしてたのかもしれない。
でも、夜になると自然と足が向く。
ないくんの匂いがする部屋、体温、気配――全部、俺を許してくれた。
許されることで、安心してしまってた。
そんな俺の弱さを、ないくんだけが見抜いてたのかもしれない。
ある日、ないくんが言った。
「0時過ぎたら、お前は最低になる。」
何も言えなかった。
図星すぎて、笑うしかなかった。
そのあとすぐ、タバコに火をつけて、ごまかした。
……ないくん、あのとき泣きそうだったんだよな。
気づかないフリをしたのは、俺のほうだ。
好きだった。
たぶん、誰よりも。
でも、それを言ったら壊れそうで、言えなかった。
「好きって言わんでよ。愛してもないのに。」
ないくんの目が、俺の中の一番弱い部分を撃ち抜く。
本当は、言いたくてたまらなかった。
だけど、俺はただの”シンデレラボーイ”なんだよ。
0時を過ぎれば、魔法は解ける。
ガラスの靴を渡す勇気も、持ち合わせちゃいなかった。
別れは、予想してたよりずっと静かだった。
冷たい朝、濡れたままのバスタオルを残して、俺は出ていった。
「平気そうにしてるのが、一番ムカつく。」
そう思った。
でも、それは俺が、捨てられたくなかっただけだ。
数ヶ月後、カフェで偶然会った。
「久しぶり、ないくん。」
その一言で精一杯だった。
隣に誰かいなくて、少し安心した。
でも、もう俺に帰る場所はなかった。
ないくんが折ったタバコを見て、俺はやっと気づいた。
この恋は、俺が終わらせたんじゃない。
ないくんが、前に進んだんだ。
本当は、最後の夜、言いたかった。
「俺のこと、忘れないでよ。」
でも、そんなの都合がよすぎる。
だから、せめて――
ないくんの笑顔が、もう誰にも壊されないことを願ってる。
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