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そこからは怒涛のジェットコースター祭りだった。俺自身ジェットコースターは得意だし好きな方だが、川瀬と倉井の耐性が尋常ではなかった。怯えまくる俺の三半規管に気づいているのかいないのか、彼らは7回目のジェットコースターに並ぼうとしていた。
「少し休む?」
宇野は心配そうな顔でそう問いかけ、背中をさすってくれた。
流石にこれ以上胃が浮く感覚を味わえばそのまま全臓器が口から出そうだ。
「流石にちょっと休憩するわ、アイスでも食べて待っとくから宇野も気にせず乗ってきて!」
宇野は俺の言葉を受け、川瀬たちの方へ走って行った。
(お、あそこあんま並んでない。)
他に比べてやや空いているジェラート屋に目をつけ、そちらへ方向転換し少し歩くと何者かに腕を掴まれた。
(え?あいつらジェットコースター並んでるはずだよな….?)
恐怖で半泣きになりながら後ろを振り向くと、焦ったように肩で息をする宇野がいた。
見慣れたその顔に、安心と少しの怒りを覚えた。
「もぉおぉなんか言えよ人生初の公然わいせつかと思ったわ!!!」
涙の膜で覆われた俺の瞳をみて、宇野はすぐに俺を力強く抱きしめた。
「えっ、、ごめん、ほんとにごめん。瑠夏たちに俺と来橋で待っとくって伝えに行ったらもう来橋がいなくなってて….一声かけるのが先だったよね、怖い思いさせてごめん。」
ゆっくりそう言いながら頭を撫でられ、安心のあまり俺も宇野の背中へ腕を回していた。
……が。ふと我に返った。俺たち相当目立ってるんじゃないだろうか。ただでさえ目立つ宇野が、男と熱烈なハグを交わしているのだ。見られているに決まっている。
「….なぁ宇野、もうだいじょう…」
早く切り上げようと見上げると、顔から耳にかけて真っ赤に染めた宇野が恥ずかしそうにこちらに目を向けた。
「あ….うん….」
そう言って俺から離れると、今度は俺の手を引いて近くのベンチに連れていってくれた。
「なぁ、なんで宇野が照れてんの?」
二人でベンチに腰掛け、一息ついてからからかうようにして会話を始めた。
「……..かわいすぎて。怖がらせてほんとに反省してるんだけど…….目潤ませながらハグに応えようとする来橋が可愛すぎて….。」
照れながらも目を逸らさずに言う宇野は少しずるい。
「おまっ、、可愛いって俺男だぞ。需要ないだろ。」
「ある。男とか関係なしに….来橋だから。」
「は、はぁ、、?」
さっきからやけに真剣に言うので、冗談として流していいものかも分からず返し方に困る。
男同士で可愛いと言い合うノリもたまにあるが、それとはまた違う雰囲気だった。
なんとも甘い空気を引き裂くように川瀬と倉井が突撃してきた。
「おまたせー!!!!!」
「お前ら、顔赤くね?」
ジェットコースター乗り回して満足そうな川瀬と、俺たちの顔を交互に見比べて吹き出す倉井。楽しそうでなにより。
ご飯を軽く済ませた後、お化け屋敷に入りたいと提案したのは意外にも宇野だった。
この遊園地はジェットコースターと観覧車からの夜景が有名だが、お化け屋敷は割と小規模らしい。
心霊系が苦手な俺でもいけそうな感じがしたので、賛成した。
『当園のお化け屋敷について』
という注意事項の書いてある紙を渡され、熟読しているとそこには2人1組ではいるよう書かれていた。
客の俺達は脱獄囚であるというコンセプトらしく、二人で手錠で繋がれながら進まなければならない。狭いお化け屋敷内を横並びで進むには2人が限界なのだろう。
「じゃあグッとパーする?」
平然と提案する俺に、ニヤリと悪い顔をした川瀬が言う。
「いやここは〜!!じゃん勝ちがゆうと回る、でしょ!!!」
パチンッと指を鳴らし、得意げな顔をしているがこちらとしては意味がわからない。
「え?なんで?」
「だってゆうお化け屋敷苦手なんでしょ??」
俺が頷くと川瀬は続けた。
「お化け屋敷って苦手な人と入るのがいーーっちばん楽しいじゃんー?だからじゃん勝ち♡」
「……帰っていいですか…?」
要は、一緒に入って俺を恐怖のどん底に陥れたいのだろう。人の怖がる姿を見て面白がるなんて、川瀬は可愛い顔をした悪魔だ。
「っておい倉井も楽しそうなん滲み出てるからな!!!」
「ばれたか」
川瀬と倉井は今日一の大笑いをかまして、宇野、川瀬、倉井のジャンケンがはじまった。
(頼む……いちばん優しそうな宇野…..せめて倉井…..川瀬だけはやめてくれ。)
神にも祈る気持ちで見届けていると、二人がパーを出す中で宇野がチョキを出した。
「….助かったー!!!!!!!!」
心からそう叫び安堵する俺と反対に、川瀬と倉井(特に川瀬)は心底悔しそうに広げたままの片手を見つめた。
「くっそー!!!絶対驚かせようと思ってたのにー!!!!!」
「いや、宇野がやってくれる可能性はある」
「それはないだろ〜」とわざとらしいジト目になる川瀬と、口で綺麗な弧を描く倉井が宇野を見つめる。
日頃から宇野に甘やかされているため、完全に信頼していた俺は、川瀬の発言に同意しながら宇野の方を向いた。
「え、ない…….よな?….」
すると宇野は俺を一瞥し、
「さぁ?」とニヤついた。
宇野の含みのある発言に、川瀬は欲しいおもちゃを与えられた子供のように目を輝かせた。
「はぁ〜楽しみになってきたわ」
そう言って川瀬はグイッと俺の腕を引っ張り、一刻も早くお化け屋敷に向かわせようしたので、宇野は当たり前のように川瀬の手を俺の腕から引き離しポンっと俺と頭を撫でた。
「え、もう….ほんと…帰っていいですか…..」
「まぁまぁ、行ってみなきゃ分かんないよ」
“分かんない”とは何がだろう。俺は何をされるんだろう。マイナス思考を極めた俺はあらぬ方向に最悪の未来を想像した。
警察官のコスプレをしたスタッフから説明を受け、俺達は2:2になって列に並ぶ。
スタッフが警察官なら、今ここで俺とさっきから腹立つ視線を向けてくる川瀬を捕まえて欲しい。
そんなくだらないことを考えていたら、宇野が微笑みながら俺の頬をつついてくる。
「来橋、大丈夫だよ。絶対怖がらせたりしないから。」
何でだろう。さっきまで….いや今も、中から絶え間なく聞こえる悲鳴に死ぬほどビビっているのに。宇野が大丈夫というなら、そんな気がする。
「……そんなに怖いなら、手でも繋ぐ?」
ついに入る直前になり、会話をする余裕もなくなった俺を見かねて宇野が優しく笑いながら、俺の左手に指を絡ませた。
普段なら「ガキじゃあるまいし」と一蹴して終わりだが、恐怖と暗闇の中一人でまっすぐ歩ける自信もない俺には、かけられている手錠に加えて宇野の大きくて優しい手と体温が頼もしくて仕方なかった。藁にもすがる思いで握り返すと、今度は宇野が硬直した。
「…..?宇野?」
「…….ぁ…いやごめん…ほんとに繋げると思ってなかったから….。なんか今日来橋ずっと可愛くて困る。」
暗闇の中でも分かるほど、宇野は顔を赤くして言った。
そこから出口までの記憶はほとんどない。ひたすら目を瞑って、宇野に引っ張ってもらっていたら何とか抜け出せたようだ。
俺たちの後ろに並んでいた川瀬達は今無数のお化けから逃げ回っているところだろう。
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