あれれ? おかしいな?
確かにこのフェンスの上に置いた筈なんだけど……? あっ!
コユキは見つけてしまった!
今まさにここから離れようとダッシュしているオッサンの背中を!
ん、んんんんん? あれれ、あれってさっきのレゲエのオッサンじゃないの?
それがコユキの正直な感想であった。
確かにぶっ倒れて前後不覚に陥っていたオッサンに見えた、一瞬は!
しかし、意外に鋭いコユキは見抜いていたのだ、故に思ったのだ、
――――ち、違う! さっきのレゲエとは別の個体? そう別のホームレ…… 自由人だった、か、くっ! 最早、時既に遅かった、のか!
コユキが目にした、元色が何色だったか判別不可能なオベベに身を包んだ、レゲエ(二号)は、トンズラ~宜しく、遥か遠くにバックレようとしていた。
万事休す!(残念)
そうコユキですら諦観(ていかん)した瞬間、彼女の脳裏に慣れ親しんだ、安心できる声が響いた。
「即時配達(ウー○ーイーツ)」
直後、絶望しかけたコユキの両手の中に、別個体の、ホームレ…… グフングフン! 自由人が持ち去った筈(はず)のツナギと、キャップ(大事)、スマホと財布が戻って来ていたのである。
「うひょぉぅ! やるじゃない善悪エ~ンドオルクス君!! グッジョブ!」
喜び勇んでコユキはツナギを着込み、キャップを被って装備を整えるのであった。
「オエッ! ケエセッ!」
ん? なんだ? このおっさんは?
「ゾベ、おらブ服だドゥ、ボモ、ドーボーが、ぼい、ぼばべ、ドーボーだろ! ゴノビャボォ!」
うん、ドーボーってのが何の事かは分かんないけど、切れるよね、だってコユキだモン、何より…… 臭いし!! ってか、茨城大丈夫なのかよ?
「うるさいっ!! アタシの服だろがっ! おい、オッサン! ドーボーじゃ無ーだろ! ド・ロ・ボ・ウ! だろっ? んで? あんだって? アタシがドロボウ? ざけんじゃねえっぞこの爺(ジジイ)!」
あーあー、大人げ無いなあぁ~、そういう方って、そんな感じで言ってくるもんなんだよ、こゆきちゃん!
自分に自信の無い中年男性とか、運動苦手な弱虫君だって、車に乗ると強気になっちゃって、根拠もなく煽(あお)っちゃったりするじゃんねぇ? 弱虫に正論言っても伝わらないんだってぇばよっ!
そんな観察者の声は当然聞こえる訳もなく、コユキの迫力にビビッた、二人目のレゲエは、
「オ? オェ! ンゴンゴ! アイウエラ! ゥ! ゥッ!」
「もう良いよ! ……去ね!」
「ひっ! ひいぃっ! アンボアンボ、ヒゥアエラ! ドンヴィっダンっ!」
とか、訳ワカメなハートフルビートを刻みながら、リズムに合わせて去っていったのであった、ふうぅ~う、一件落着、かな?
ブラックバスが異常繁殖なのは聞いていたけど、令和の時代にあんなおっさん達が繁殖しているとはチト、ヤバくないかね? 知らんけど…… な私、観察者であったが、コユキは違っていたようだ。
「あんた! 市役所とか行って相談してみなさいよ!」
去っていくレゲエの背に声を掛けていた。
対岸のレゲエもその声に反応したのかこちらを見ている。
「よしっ! さて、帰るかね♪」
胸元の隠しポケットの中で、赤い石が緑に光って同意を主張しているようだ!
やる事は全てやったと言う満足感を満面に浮かべ、コユキは霞ヶ浦を後にするのであった。
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