「人を、殺したんだ」
6月の最後、ドアを開けた先にあなたは立っていた。土砂降りのなかでもわかるくらい酷く震えていたのは今でも覚えている。
これは、あの夏の日々の記憶だ。
「は、、、?」
「隣の席のさ、〇〇いるじゃん?、、、僕アイツに虐められててさ。」
「今日も、呼び出されて、殴られて、、、、もう嫌になっちゃって、それで、、、」
話している内容とは裏腹に、フランスはどこか淡々としている。
「多分、死んだと思う」
、、、正直、さっきから言っている意味が何一つ分からなかった。家で普通に過ごしていて、不意にチャイムが鳴ったのでドアを開けたらこれだ。取り乱しもしないフランスに、言いたいことは数え切れないほどあった。
「、、、どうして、私の所に?」
自分でも、他にもっとあるだろと思う。必死に絞り出したのだから仕方がない。
「、、、何でだろうね。まあ、他に仲良い人いないし。」
「仲良い人って、、、」
確かに同じ学校、クラスメイトだし、全く知らない訳ではない。けど、そこまで仲良い訳でもない。確か、昔親の繋がりで何回か会った、、、くらいだろうか。
「、、、家、近くだし」
(そういう問題、、、?)
「、、、ごめんね。急に押しかけて。」
雨の音が一層増した気がした。そう思ったのは、フランスの声が少し震えたからかもしれない。
「僕、人殺しになっちゃったんだ。」
泣きそうな顔で笑う。涙しているはずなのに、雨に溶けて見えなくなっていった。
「もうここには居られないと思うし、どっか遠いところで死んでくるよ。、、、今日はお別れを言いに来たんだ。」
そう言うと、彼は背中を向けて去ろうとした。咄嗟にその手首を掴む。
「、、、、死ぬなら、私も連れていってください」
「、、、え、」
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出発はその翌日だった。
鞄には、数日分の食料と流行りが過ぎた携帯ゲーム機。、、、それから、
「、、、いいの?貯金箱壊して」
前の晩、準備をしている時フランスが私に聞いた。
「いいんです。どうせもう使わないですから。」
散らばった貯金箱の欠片と小銭を拾いながら、私は答えた。
どうせ死ぬのなら、いらないものは全部壊していこう。連れて行ってくれと頼んだ時から、そんな覚悟はとうに決めていた。
朝、学校に行くフリをして、2人は雑貨屋に足を運んだ。そして死ぬのには十分な安いナイフを買って通学鞄に詰め込んだ。お揃いだね、と少し笑ったフランスの顔が忘れられない。
そこから歩いて歩いて、古い駅に行った。名前も読めない駅までの切符を買った。
ホームから電車に乗りこんだ時、今ならどこにでもいけそうな気がした。
学校へ行く道とは逆向きに進んでいく景色を二人で覗き込んだ。高い建物が並ぶ町はいつしか古い住宅街に変わって、着く頃にはどこか異世界じみた田舎の風景になっていた。
二人は自由というものを改めて実感し始めた。これから死ににいくというのに、 初めて遠足に行った時みたいに心が踊った。
いざその地に降りたって大きく深呼吸をする。自分たちが住んでいる場所はそこまで都会ではないが、空気はこっちの方が美味い。
さて、これからどうしようか。特に行くあてもないし、どこにだって行ける。
とりあえず誰にも見つからないような、遠い、遠い場所に行きたい。家族も、クラスの人達も全部捨ててこの人と二人で。そう思いながら歩を進める。
こうして、人殺しの貴方とダメ人間の私の、二人だけの旅が始まった。
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よっしゃ曲聴いてきたぜ! 曲も神だし小説も神✨