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さなが、ふっと笑った。
「もう無理に“仲良し”やってるふり、やめるわ。私、正直になる。」
その顔を見た瞬間、胸の奥がきゅっと締めつけられた。
怒っているようにも、泣いているようにも見えない。
ただ、すべてを受け入れた人の表情。
もう、私の知らないさなやった。
夕陽が傾いて、教室の床を橙色に染めていく。
その光の中で、さなの髪がふわりと揺れた。
茶色の外ハネが、まるで“さよなら”の合図みたいに見えた。
「……さな」
声を出そうとしたけど、喉が詰まって言葉にならなかった。
言いたいことは山ほどあった。
ごめんって言いたかったし、
ほんとはまだ一緒にいたいとも思った。
でも、さなの瞳を見た瞬間、全部が消えた。
――あ、もう戻られへん。
椅子の脚が床を擦る音、下校していく生徒の声。
そのひとつひとつが、やけに遠くに聞こえた。
「正直になる」って、こういうことなんや。
私にはまだ、それができひん。
ドアが閉まる音がして、静寂が落ちた。
夕陽の光が少しずつ薄れていく中、
私は机の上に手を置いて、深く息を吸った。
あの時間の全部が、もう二度と戻ってこない気がした。