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「ひぃえっ!? アック様、矢が~剣が~!!」
「分かってる! ルティはそのまま彼女を守ってやってくれ! おれはこのまま突っ込んで連中を何とかする」
「は、はいい~」
砦に突っ込んだ時点で何となく予想していた。辺りが薄暗くなっていたとはいえ、まさか巻き添えを喰らうことになるとは。そもそも冒険者が砦に呼ばれてくるということ自体、戦うという明確な目的がある。だが気に入らない奴同士が集まれば揉め事が起きたとしても何ら不思議はない。
気配を探った感じでは支援系ジョブはほとんど見当たらなく、攻撃魔法を使う者も見当たらないように見える。そこでおれが取った戦法は魔法による弱体攻撃。離れた所から流れ矢が飛んで来ていたことを考えれば、離れた所に敵が配置されているのは当然のことだろう。
夜になるとこの周辺には強力な魔物が出没するらしいが、今のところ砦周辺には見当たらない。そういう意味でも、遠慮なく魔法を使わせてもらう。
「おい、低ランクが来てんじゃねえ、邪魔だ!!」
「うるせえ! 脳筋だけで来るな、暑苦しいんだよてめえら!」
――どうやら言い争いの方がメインのようだ。
「……言い争ってるところを悪いが、そこの砦に用がある。素直に道を譲ってもらいたいんだが?」
敵以外自分だけしかいないせいか、敵からすぐに目を付けられるほど目立っている。すぐにでも襲って来そうな感じがあるが、ここは有無を言わさず無詠唱で発動させてもらう。
冒険者の中には剣、拳同士が多数の連中ばかり。こういう連中相手には手っ取り早く麻痺と睡眠の魔法を同時にかけるに限る。
「あ? 何だてめえは! ソロで来てる奴が生意気言ってん――へっ? か、体の力が抜け……」
「な、何だ? こ、これは……!」
「くそぅ、まだ何もしてないのに……ぐぅぅ」
集まっていた連中に魔法耐性が無いのか、あっさり終わってしまった。一斉に効果が生じたおかげもあり、地面には剣や弓などが無造作に散らかっている。連中が魔物に狙われても困るので、広範囲で対処できる魔法をかけておく。ルティとアクセリナには一定の距離を取ってもらっているし問題無いだろう。
つまり、広範囲魔法でも彼女たちに被害が及ぶことは無い。
「ウゥゥ……! 外に何かいるのだ!! 何か危険な魔力を感じるのだ!」
「わらわも感じるなの! たくさん感じた気配が一瞬で消えたのに、感じるのは膨大な魔力なの……」
「デミリスはそんなに強くないのだ。強い魔力を持つ何かにどうやって挑むのだ?」
「……大丈夫。こう見えてオレの剣は魔法に耐えられるんだ。相手が魔法を連発してきてもこの剣ならきっと――」
不安に駆られているデミリス。だが、彼はようやく自信を持つようになった。そんな彼に対しシーニャたちも決意を固める。
「ウニャ、分かったのだ。強くないお前をシーニャが守るのだ!」
「わらわもシーニャと一緒に助けてあげるなの!」
「よし、それじゃあ行くよ!」
砦の中にいたシーニャたちを下がらせ、謎の剣士デミリスは砦の外に向かった。
「範囲は砦のみだな。【水属性魔法 タイダルウェーブ】を砦に……ん?」
片手剣の軌跡のようなものが一瞬見えた気がする。どうやらおれをめがけているようだが。
しかも垂直に剣を振り下ろそうとしている?
手練れの剣士に違いなさそうだが、おれも錆びた片手剣でどこまで出来るか戦ってみるか。
「そこのお前、止まれ!! まさかと思うが、今から砦を沈めようとしているんじゃないよな?」
「そういうあんたは?」
「オレは砦の中にいた者だ。しかし何の確認もせずに砦を魔法で沈めようとするお前を許すわけにはいかない!」
「――ということは、あんたは別の目的で来た冒険者?」
緊張で全身を震わせていて強そうに見えないが、どうやらおれは悪人扱いされているようだ。話せば分かってくれそうな感じだが、構えた剣がいつ動いてもおかしくない。
どうしたものか。
「ここに倒れている冒険者たち。見たところお前がやったように見えるが、まさかすでに……?」
「いや、殺してもいないんだが。何やら興奮しているみたいだし、戦いますかね」
「望むところだ! オレは剣士デミリス。お前は何者だ?」
「……デミリス? 何か聞いたことあるな。おれはアック・イスティ、ジョブなしだ」