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ヒノトたちDIVERSITYが会場に入場すると、対面する選手たちは、先程の気合いの入った面々とは違い、見るからにほぼ全員が緊張を露呈させていた。
「だ、だだ、大丈夫ですかね…………」
「不安しかないですー……!」
「怖い……怖い……」
その本音たちがヒノトたちにも聞こえる程で、ヒノトたちも心配そうに相手を見やる。
「大丈夫だ!!」
そんな中、一人の少し背の高い男は笑顔で全員を鼓舞した。
「先輩……でも自信ないですよ……。同じ平民なのにさっきの試合凄かったし…………」
「安心しろ! お前たちにはお前たちの強さがある! それに俺がいる! だから支援は任せたぞ!」
そうして、ヒノトを睨んだ。
その眼光に、ヒノトはぶるっと震える。
「相手にとって不足はねぇみてぇだな…………!」
両者共に整列が完了すると、MCが鳴り響く。
『第ニ試合。西門、キルロンド学寮より、前衛 ソードマン、ヒノト・グレイマン。中衛 ウィッチ、リリム・サトゥヌシア。中衛 ガンナー、リオン・キルロンド。後衛 シールダー、グラム・ディオール ―――――― 』
ヒノトたちのMCが響いた瞬間、会場内は騒つく。
「ウィッチ!? 魔族の役職じゃない!?」
「キルロンドって……王族がいるのか……!?」
「あの前衛のソードマンは何者だ!?」
「グレイマン……国王様のパーティにそんな名前の男がいたような気がするが…………」
一瞬にして騒然の渦に巻き込まれたヒノトたちは、予想通りのようにニタニタ笑う。
「おーおー、やっぱ色々言われてんなあ」
「シード権に王族の僕が居ないことも不審だろうし、やはり三王国に認められたとは言え、魔族と言う存在との共存は賛否が分かれているからね……」
リリムの役職は、魔法使いのメイジでも、上級職のどれにも属さない、魔族専用の職業、ウィッチを言い渡された。
騒然の嵐に、相手チームにも更なる動揺が見られ、MCも遮られたが、選手紹介は滞りなく行われる。
『お静かに願います。続きまして南門、剣術学寮より、前衛 ソードマン、ナギ・クロリエ。中衛 メイジ、サニー・フロス。中衛 メイジ、ハム・フロス。中衛 メイジ、セッケ・ドミニク ―――――― 』
そして、試合のゴングは鳴り響く。
「よしっ…………行くぜ…………!」
ヒノトがウキウキと中腰になった途端、相手のソードマン、ナギは無防備に手を挙げた。
「チーム DIVERSITY! 試合前に少しいいか!」
困惑を示しながらも、ヒノトは臨戦態勢を解き、無防備に向かってくるナギを見つめる。
「すまない。この試合だが、もしそちらがよければで構わない。ルールを一つ設けて貰えないか?」
「ルール…………?」
「あぁ。見ての通り、僕のパーティは素人同然。僕が無理やり出場させているんだ。だから、彼らへの攻撃はしないでやって欲しい。その代わり、僕一人でも気絶となった時点で、君たちの勝利で構わない」
本来の公式戦では、誰か一人でも残っていた場合、まだ試合は続行となる。
しかし、基本的には四人編成の戦いで、一人残って戦い続ける者はいない為、棄権という形で幕が降りる。
キーマンの一人がダウンし、残りのメンバー全員が棄権しても同様に敗北となる。
ナギは、『ハナから残りの三人に攻撃をしない』代わりに、『自分一人に攻撃を集中させ、自分一人がやられてもヒノトたちの勝利でいい』という提案だった。
ナギが無理やり参加させたとは言え、その内容はあまりにもヒノトたちに有利な内容だった。
「納得できない。俺たちも勝ち進みたいけど、アンフェアな戦いしてまで勝ちたくはねぇ。だから、こっちは一人一つだけの魔法で戦う。それでどうだ?」
「ちょっと! 何勝手に決めてるのよ!? 別にこっちが有利になるならいいじゃな……」
しかし、リリムの言葉はグリムにより掻き消される。
「俺はヒノトに賛成だ。この先、再びレオやソル、カナリアにリゲル、未だ何も知らない貴族院の奴らとも戦う。その上で、魔力が温存できるに越したことはないし、相手に条件がある状態で勝てないと言うのなら、それが今の俺たちの実力と言うことになる。ここで甘んじて勝てたとしても、この先では通用しないだろう」
「ただ、俺たちもそんなハンデを課して負けるわけにはいかねぇ。だから、ちゃんと魔法を指定しよう。相手にシールダーはいなかった。だからさ、“アレ” を試すチャンスだと思わねぇ?」
そう言うと、ヒノトはニシッと笑い、剣を上げた。
ナギが改めて自陣営に戻ると、互いの「せーの」の合図で、ヒノト、ナギは飛び込む。
「ハムくん! サニーちゃん! 頼んだよ!」
ナギの合図で、兄妹だと思われる瓜二つの二人は同時に魔法を発動した。
“炎魔法・ビルアス”
“炎魔法・ビルアス”
二人は、同時に全く同じ魔法を発動させる。
「炎属性のビルアスを同時に……!? 彼の身体強化しか考えていないのか……!?」
「リオン、大丈夫だ」
後衛に構えるグラムは、決して油断はしない。
そんなグラムの指定魔法こそ、
“岩魔法・ビルアス”
身体強化の初級魔法、ビルアス。
それぞれの属性に微々たる恩恵が備わり、時としてその微々たる効果の差が、勝敗を分けることもある。
それを、先程の試合で確かに実感していた。
風属性のビルアスは治癒の恩恵を得る。
岩属性のビルアスは防御の恩恵を得る。
そして、炎属性のビルアスは、
ブォン!!
たった一振り、ヒノトはナギの剣を避けたと言うのに、その横薙ぎの風圧だけで吹き飛ばされた。
「炎属性のビルアス、二段掛け……! 攻撃力を底上げさせる…………!!」
ボン!!
ヒノトは咄嗟に、足からの魔力暴発で壁への衝突を回避し、ナギに向かって一直線に飛び掛かる。
「同じことの繰り返しだぞ!」
ナギは再び、剣を横に構える。
「さぁて、それはどうかな…………!」
“水防御魔法・水槽”
リオンの指定魔法は、防御面の強化の為に会得した防御に特化した水防御魔法。
しかし、防御のスキルなどないリオンの防御魔法は、王族として成立自体はしているが、シールダーの専門的な防御魔法に比べれば見劣りしてしまうものだった。
それでも、この魔法を選んだ訳は、別にある。
シュンッ…………!
突如として、ナギの視界からヒノトの姿が消える。
「何…………!?」
(王族の彼は防御魔法を発動したはず…………。身体強化は僕よりも遅い…………。何故目で追えない速度で移動できたんだ…………?)
「こっちだ…………!!」
背後に回っていたヒノトは、叫びながら剣を向ける。
ナギの身体は確実に追い付けない。
全員が勝負が決まったと思ったその時 ――――
“岩魔法・シールド”
キィン!!
ナギのパーティ、最後の一人、セッケの魔法は、突如としてナギの背後に小さな盾を出現させ、ヒノトの剣を防いだ。
「防御魔法…………? メイジじゃないのか…………?」
「いや、彼はメイジさ…………。本来の防御魔法は、本人に直接付与させるもの。しかし彼は、小さくはあるが、 “具現化した盾を召喚” する…………!」
そして、その隙にナギは後退し、再び、ヒノトとナギの間に空間が隔たれる。
「こちらの手札はこれで全てだ。あとは、僕が粘って絶対に勝ち上がる…………!」
ナギの覚悟に、ヒノトはニッと笑う。
先程の魔法勝負とは打って変わり、真っ向からの剣術勝負が幕を開けた。