テラーノベル
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第一話 名前のない青
世界は、青と白と黒でできている。
少なくとも、僕の目にはそう見える。
生まれたときから、色は増えなかった。
信号も、花も、夕焼けも、同じ色の中に沈んでいる。
違いがあるとすれば、青の濃さだけだった。
それが異常だということを、
僕は人の言葉で知った。
幼稚園の頃、
先生が机にクレヨンの箱を置いた。
「好きな色で、お花を描きましょう」
箱の中には、
たくさんの棒が並んでいた。
白、黒、
そして、何本も似たような色。
僕は迷わず、
一番しっくりくる青を手に取った。
紙の上に線を引く。
青い茎。
青い花びら。
青い空。
それは、僕にとって
見えているものをそのまま写しただけだった。
「……色、おかしくない?」
後ろから、声がした。
「なんで全部青なの」
「ちゃんと見て描きなよ」
ちゃんと、見ている。
見えているものを、描いている。
でも、その言葉は喉までしか出てこなかった。
先生は困ったように笑って、
別のクレヨンを差し出した。
「これは赤だよ」
「お花は、赤とか黄色で描こうね」
赤。
黄色。
その言葉が、
僕にはどこか遠いものに聞こえた。
言われた通りに、
別の色を紙に置いてみる。
でも、それは僕の中の世界と、
どうしても噛み合わなかった。
間違っているのは、
絵なのか。
それとも、
僕の目なのか。
答えは、誰も教えてくれなかった。
家に帰って、
僕はまた絵を描いた。
青い街。
青い人。
青い影。
紙の上に広がる青は、
静かで、落ち着いていて、
僕にとっては、
逃げ込める場所だった。
それでも、
その世界はいつも否定された。
赤じゃない。
黄色でもない。
正しくない。
そう言われるたびに、
青は少しずつ、
重たい色になっていった。
それでもその頃の僕は、
まだ絵が好きだった。
好きだと、
信じていた。
コメント
2件
とっても好きなお話でこれからどうなるのか楽しみです!
これからどーなるのか楽しみ✨ 今回の新作もめっちゃ面白かった!!