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“あの日、私だけが取り残された坂道”
Episode 05 #暴かれる現実
翌日の放課後、私は重い足取りで塾の面談室へと向かっていた。
いつも通っているはずの塾のビルが、今日はまるで私を裁く裁判所のように見えて仕方がなかった。
面談室のドアを開けると、すでにそこにはお母さんが座っていた。塾の担当講師である佐藤先生が、何枚かのプリントを机に広げている。
「あ、美咲さん。お疲れ様。座って」
佐藤先生の落ち着いた声が、逆に私の緊張を跳ね上げる。私はお母さんの隣に、縮こまるようにして腰掛けた。
「さて、お母様とも今お話ししていたのですが……」
佐藤先生は、私の直近の模擬試験の結果と、塾内でのクラス分けテストの成績表を指差した。
「現在の美咲さんの成績だと、正直なところ、当初目標としていた国公立大学の医学部はおろか、私立の医学部も含めて、合格圏内からはかなり厳しい位置にいます。特に数学と物理の基礎が、高校に入ってからのスピードについていけていない印象です」
ズバズバと現実を突きつけられるたびに、隣に座るお母さんの空気が冷たくなっていくのが肌で分かった。
「先生、この子は家でも夜遅くまで机に向かっているんです。部活の後も、ちゃんと勉強しているはずなんです。やり方が悪いんでしょうか?」
お母さんの声には、焦りと、そして私への苛立ちが混ざっていた。
「努力されているのは、提出物やノートを見ても本当によく伝わります」
佐藤先生は私をフォローするように言った。
「ただ、美咲さんの場合、『覚えること』に必死になりすぎていて、応用問題を『どう解くか』という思考のプロセスが追いついていないのかもしれません。真面目な子ほど、暗記で乗り切ろうとして壁にぶつかることが多いんです」
暗記で乗り切ろうとしている――。
その言葉は、私の胸に深く突き刺さった。確かに私は、千尋のように直感で解くことができないから、解法を丸暗記することでしか安心できなかった。でも、それでは少しひねられた問題が出た瞬間に、手も足も出なくなる。
「このままだと、来月からは一つ下のクラスに落とさざるを得ません。まずは基礎の徹底を……」
先生の言葉が、遠くの方でぼやけて聞こえる。
クラスが落ちる。それは、私が「医学部を目指す優等生」の枠組みから、完全に振り落とされることを意味していた。
面談が終わりのしかかる。塾のロビーに出た瞬間、お母さんは私を振り返りもせずに歩き出した。
駅までの道中、お母さんは一言も口をきかなかった。その沈黙が、どんな怒号よりも私を痛めつけた。
翌日。学校の教室に入ると、私の机の上に小さなメモが置かれていた。
『お昼、屋上で待ってるね。千尋』
昨日のメッセージの件もある。私は断る理由が見つからず、お昼休みに購買でパンを買い、屋上へと続く階段を上った。
屋上のフェンス際、風に髪を揺らせながら、千尋がパックのジュースを飲んでいた。
「あ、美咲! 来てくれたんだ」
千尋は嬉しそうに笑う。その顔を見ると、昨日塾で突きつけられた自分の無能さと、目の前にいる「軽々と壁を越えていく天才」との差を痛感して、また胸が苦しくなった。
「千尋、昨日は……ひどいこと言って、ごめん」
私は俯いたまま、絞り出すように言った。
「ううん、気にしてないよ。私の方こそ、美咲がいろいろ大変なのに、空気読めないこと言っちゃって。……美咲、ずっとお医者さんになりたいって言ってたもんね」
千尋はフェンスに背を預け、空を見上げた。
「私さ、美咲のこと本当にすごいなって思ってたんだ。中学の時からずっと目標があって、そのために毎日真面目に努力してて。私なんて、やりたいこともないし、テストもその場しのぎだしさ。美咲みたいに、何かに一生懸命になれるのが羨ましかった」
羨ましかった?
千尋が、私を?
「でもさ……」
千尋は私に視線を戻した。その目は、いつものお気楽な千尋のものではなかった。
「最近の美咲、すっごく辛そう。お医者さんになりたいっていう夢、本当に美咲がやりたいことなの? それとも……何かに縛られてるだけ?」
心臓が、大きく跳ね上がった。
一番触れられたくない、自分でも見ないようにしてきた心の奥底のひび割れを、千尋の真っ直ぐな言葉が容赦なくこじ開けていくようだった。
明日部活なんです😭
そろそろ寝ないと
もう少ししたら寝ます
また次回。
コメント
1件
那月さん、こんばんは🌙 第5話、読ませていただきました。 美咲の塾の面談シーン、すごくリアルで胸が苦しくなりました…。お母さんの無言のプレッシャーとか、先生の「真面目な子ほど暗記で乗り切ろうとする」って言葉、グサッときました。 そして千尋の「それ、本当に美咲がやりたいこと?」って問いかけ。あの場面の空気感、すごく好きです。重いけど、でもちゃんと向き合いたくなるような、那月さんの文章に引き込まれました。 那月さんもお身体大事に、ゆっくり休んでくださいね🥀
#現実世界
雪代 真希奈
107
#進化
雪代 真希奈
25
#儚い
nanaha.
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