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昼下がり。
ゆったりとしたクラシックが流れる月光の店内。
杠がカウンターを拭いていると、ドアのベルが軽く鳴った。
「いらっしゃいま——」
そう言いかけた杠は、思わず声を詰まらせた。
だらしないスーツに髪に生えた謎の触覚。
少し眠たそうな目元。
——中華屋「金色龍」の店主のボディガード、ショウだった。
「……あれ? ショウさんですよね?」
「ちっす。今日は客として来ました」
杠がきょとんとする横で、サグメが顔を上げてにこやかに言った。
「これはまた珍しいね。ルーちゃんは一緒じゃないの?」
「ルー様はまだプライドが許さないらしく、来ていません」
杠「面倒くさい性格してるな……」
ショウ「そういうヤツなんで。……で、腹減ったんで、なんかください」
彼はメニューも見ずに、適当に指差した。
出されたのはビーフシチュー。
一口食べた瞬間、眉がわずかに動く。
「やっぱりうまい」
それだけ言って、黙々と食べ続ける。
会話も、冗談もない。
ただ、時折“何かを確かめるように”カウンターの奥を見ていた。
やがて完食。
ショウは水を飲み干し、レシートを掴んで立ち上がった
「ごちそうさまです。……金、これで」
杠が慌てて手を振る。
「ありがとうごさいました、ルーちゃんにもよろしくね。」
「うす」
短く言って、背を向けて帰っていこうとしたらサグメが仕掛ける
「ショウくん直球だけどなんか願いとかある?店がお世話になったお礼に何か叶えてあげたいな」
「じゃあ月光の繁栄を願ってーってことで」
ショウは軽く片手を上げて、ドアへ向かう。
カラン、とベルが鳴る。
光の差し込むドアの向こう、彼の後ろ姿だけが残った。
——そして静寂。
サグメが一瞬だけ、手を止めた。
何かを言いかけて、微笑む。
「何でもないよ。片付けしよ、杠くん」
その日、店内にはどこか焦げたような香りが残っていた。
夜。
金色龍の厨房に、一人残るショウ。
換気扇の唸りと、食器を洗う水音だけが響いていた。
昼に訪れたあの店——レストラン月光。
思い返すたび、胸の奥がざらりとする。
「……なんか、変なとこだったな」
皿を拭きながら、独り言。
客席に座っていた、あの青年_____杠。
そして、カウンターの奥で静かに笑っていた長髪の男_____春夏冬サグメ。
あの笑い方。
あの声。
柔らかいのに、どこか「境界線の外」に立っているような気配。
「……あいつ、誰かに似てたんだよな」
ぼそりと呟くと、皿の上に落ちる水滴がひとつ…
「……まるで、あいつ……」
ショウは息を飲む。
けれど、次の瞬間、ため息とともに頭を振った。
「……いや、そんなわけねぇか」
あいつは、もういない
この目で見た。忘れるわけがない。
あの日殺された自分を
「春夏冬サグメ、か……」
指で皿を弾く音が、やけに響く。
まるで、夜の静寂を壊したことを後悔するように。
外では、雨が降り始めていた。
ショウは無言で窓の外を見つめる。
街灯の光が滲み、ガラスに歪んで映る。
その光の中、ふと脳裏をよぎる声。
けれど、それは確かに、“あの男”と同じ響きをしていた。
ショウは手を止めたまま、ぼそりと呟く。
「……やっぱ、似てるよな」
それでも、答えは出ない。
ただ、厨房の片隅に積まれた皿の中、
一枚だけ、月の光を反射していた。
——まるで、記憶の断片のように