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朝か。眩しいな。
「……特に、することも無いな」
取り合えずの目的は家だ。いい加減、ビルの屋上で寝る生活も終わりにしたいからな。とはいえ、戸籍と身分証が返って来るまではそれも難しいだろう。
「異界探検協会は、まだ不味いか?」
西園寺が千葉での悪魔の話を知っているということは、あの話はそれなりに広まっている筈だ。今行くと面倒になりかねない。
「……一切行かないのも逆に怪しいか?」
まぁ、大丈夫か。取り合えず、事情聴取とか面倒なことがありそうな間は行かないでおくか。
「暫くはあの店に売るか」
面白いものを持っていけば高く売れるからな。狩猟者の等級は上がらないので高ランクの異界には行けないままになるが、今のところ良いだろう。
「何はともあれ……飯だな」
今日は……そうだな。牛丼でも食いたい気分だ。
「行くか」
俺は牛丼屋の場所を検索し、屋上から飛び降りた。
♢
美味かった。本当に久しぶりに食ったな。牛丼。
「……さて」
何か、見てるな。
――――背後、二つか?
魔術や、その他の特殊な能力による観測ではない。これは生物。視線は二つだ。
「……まだだな」
捕まえるには人が多すぎる。人気のない場所に行く必要がある、が……東京で人気のない場所って言うとかなり難しそうだな。
となると、異界しかないか? しょうがない。正規の交通手段で行くのは面倒だが、異界まで行くか。
♦
〈対象が異界に到着しました〉
声を潜め、連絡を入れる。対象は一度も振り返っていない。ミラーに映るようなヘマも犯していない。
〈了解。数分程度で異界に応援が到着予定〉
良し、やはりここに来るつもりだったか。応援を予め呼んでおくことが出来た。
「……狩りが見れるかもしれない」
男は異界の森の奥へと進んでいく。このまま行けば、その実力と能力を確かめられるかも知れない。
「悪魔召喚の被疑者、老日勇」
今まで全くその足取りを掴むことが出来なかったが、漸く発見できた。渋谷での悪魔事件。その施設内で姿が確認された。そして今日、偶然だが僕が彼を発見した。
……かなり早く進んでる。
周辺を索敵する様子も無く、だが勢いを止めることなく森を進んでいく。異界には慣れているのだろうか。
「……立ち止まった?」
何だ? 何で止まった? まさか、僕の尾行が――――
「――――さて、アンタは誰だ?」
数十メートル離れていた筈の老日の姿が、一瞬にして目の前に現れた。
「ッ、僕は……」
「あぁ、待て待て。アンタもだ」
老日の姿が掻き消える。かと思えば、背後の樹上に登っていた老日はカラスの首を掴んで立っていた。
「……カラス?」
「ん、こいつのことは知らないのか?」
暴れるカラスの首を掴んだまま尋ねる男。僕は首を横に振った。
「そうか。アンタとこいつがずっと付けてたからな。仲間だと思ってたが」
何? 僕以外にも老日を尾行していた奴が居たのか? しかも、カラス……使い魔の類か。
「カァッ、クケェッ!」
「落ち着け」
暴れて脱出しようとするカラスの頭を老日が撫でると、カラスは一瞬で眠りに落ちた。そのまま男はカラスをリュックに入れた。
「……何ですか、それ」
「さぁな。眠かったんだろ」
答える気は無い、か。
「それで、アンタは何だ? 何で俺を付けてたんだ?」
「僕は警察です。貴方には現在、悪魔召喚の容疑がかけられています」
僕が警察手帳を見せながら言うと、老日は眉を顰めた。
「俺がか?」
「はい、貴方です」
難しそうな顔をして、老日は黙りこくった。
「……事情聴取とか、あるのか?」
「はい、あります」
老日は溜息を吐いた。
「面倒臭いな」
「ご協力頂けませんか?」
その場合は、不味い。まだ応援は来ないのか。ここまでの動きだけで既にその戦闘能力の片鱗は見えている。僕だけでは勝てない可能性は高い。
「……まぁ、良いが」
「ありがとうございます。では、警察署までご同行頂けますか?」
老日は嫌そうな顔で頷いた。良かった。意外と話が通じる人物だった。しかし、怪しい人物であるのは確かだ。僕と謎のカラスの尾行をどちらも見破り、高い戦闘能力を持っている。悪魔召喚者であるかは不明だが、何にしても只者ではない。
「―――ふふふ、また会えたね~!」
聞き覚えのある声。振り向くと、そこには白い髪の女……白雪特別巡査が居た。
「白雪特別巡査。応援って貴方だったんですか?」
「おはよう、章野君。私達だったんだけど、皆途中ではぐれちゃったんだよねぇ」
……まさか、能力を使った?
「眼、使ってないですよね?」
「んー、何のことだか分かりませんな~!」
コイツ……まぁ、そっちは後にしよう。
「それより、また会えたねってどういう意味ですか?」
「そのままだよ?」
僕が老日に視線をずらすと、老日は頷いた。
「あぁ、会った。コボルトが発生している現場で遭遇し、魔術を使っているのを咎められた」
「……何でそんな怪しい場面に何度も遭遇してるんですか?」
「運命力って奴だ」
僕は目を細めたが、老日は表情を変えなかった。
「……取り合えず、署に向かいましょうか。そこで話を聞きます。長くなるかも知れませんが、夜までにはお帰しします」
「待てよ」
老日は顎に手を当てて言った。
「アンタの力で、俺の身の潔白は証明出来ないのか?」
「出来ますとも! むしろ、その為に来たんだよ?」
そうだった。最近はやっていなかったので忘れていたが……始まるか。僕は白雪から録音機を受け取り、スイッチを入れた。
「じゃあ、始めるよ~?」
「あぁ、いつでもいい」
うんうんと白雪は頷き、自身の胸に手を当てた。
「――――白雪 天慧。真偽調査を開始します」
規定された宣言と同時に、聴取が始まった。