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ロウムとリアムは命からがら村に帰還した。

そして、二人は追っ手に備えて事態を村のものたちに打ち明ける必要があった。

何から伝えればいいのか分からなかった。

ニンゲンの王女・チタとの出会い。

リンの失踪。

アルゴの死。

次から次へと起こった事実をまとまりのない言葉で何とか伝える。

村のものたちは、話が進むにつれ驚きの声を漏らし、最後には混乱と怒声が飛び交った。

特に、アルゴの死は衝撃が走った。

まだ年若いアルゴがニンゲンたちによって殺された……。

アルゴの両親は泣き崩れ、彼らに声をかけようとするものはあっても、なにも言葉が出てこなかった。

占い師であるアルゴの祖母はただ一言こう呟いた。

「やはり、凶兆は当たってしもうたか……」

そして、ある者はこう言った。

「この村を守るのだ。追っ手が来るなら待ち受け、私たちが全力で迎え打とう」

別の者はこう言う。

「いいや。アルゴの仇を討ち、リンを奪還しなければならない。待つのではなく、我々種族の尊厳をかけて攻め入らねばならない」

後者の意見に賛同する者が多かった。

このままニンゲンにやられっぱなしは腹の虫が治らない。彼らの無法を許してはならないと。

だが、ロウムは重々しくそれを制した。

「皆、聞いてくれ。彼らニンゲンがやったことは許されることではない。私自身、怒りでどうにかなりそうだ。だが、今は冷静になろう。とにかく、このことは村の問題に収まらない。我ら種族の国へ伝えなければならないだろう」

そう意見すると、皆のものは一斉に黙り込んだ。

国。

我が種族の総本山”デュカイオ”である。

村にとっては、徴収元のあまり好ましくない存在。

だが、今まさに発展している文明の礎である。

一人が声を上げた。

ニオブだった。

「ロウムさん。それは、ニンゲンと戦争をするということなのかい」

「…‥逆です。私としては、ニンゲンたちと会合したいのです。そして、最終的には互いが納得のいく共生の道を歩みたい」

このロウムの言葉を聞いて、多くの者たちが口々に話立てる。

「ニンゲンと共生の道を歩む? そんなバカな!」

「今までは、こちらの善意でそうしてやっていた。しかし、今回のことは別問題じゃないか」

「むしろニンゲン側がその道を放棄したのだ」

不平不満が辺りを渦巻く。

ロウムはわかっていた。このことを馬鹿正直に国へ伝えても、それは戦争の幕開けに過ぎないことを。

だが、他に手段はなかった。いずれ国へは伝わる。国への運搬役が、この事を噂するだろう。

隠し立てはできない。ならば早く伝えて、早く自体の収集を図るのが理想的だった。

ロウムの考えは、ある声によって遮られた。

「……悪いけど、俺も反対だよ。父さん」

リアムだった。

我が子の顔を見る。

疲れていて、元気がない。しかし、怒りに燃えている。

正義感の強いリアムだ。アルゴの死は、到底受け入れられないだろう。

リアムは言った。

「俺はアイツらを許さない。必ず、復讐してやる」

「リアム」

「……滅ぼしてやる」

どす黒い言葉が、村の中に充満した。



デュカイオから帰ったロウムは絶望していた。

結果は、芳しくなかった。

立派な宮殿の門扉をくぐり、謁見を許されたロウムはその男に会った。

デュカイオの支配者・メレエントである。

メレエントは全生物から恐れられている。

冷酷無比であり、楯突くものは必ず制圧する。それが彼の信条であり、デュカイオが強国となった所以である。

何より、メレエントは支配者であり武人である。その力は、ロウムたち種族の最高戦力と言っても差し支えないレベルなのだという。

そんな支配者メレエントの前で一部始終を語り、ロウムは自身の意見を交えて今後の対応を提案した。

しかし、メレエントは表情一つ変えず、ただこう宣言した。

「火蓋は切られた。”ノンネームド・ウォーズ”の幕開けだ」

支配者はそう言った。

どうすることもできない。

ロウムは無力だった。

戦争を止めるには、どうすればいいのか。

ニンゲン側へコンタクトは取れないだろうか。

さまざまな考えが浮かんでは消えていく。

家に着いたロウムは、そっと扉を開ける。

リアムは寝ていた。

いや、起きているかもしれない。

だが、その顔は見えない。

顔が見えない、

この戦争の顔は、どんな表情をしているだろう。

影がかかっていて、はっきりと見えない。

まるでこの先の未来のように。

ロウムは寝転ぶ。

目を瞑る。

すると。

ある顔が浮かんだ。

……コバルト。

そこには、笑顔のコバルトがいた。

そうだ。

記憶の中の彼女は、いつだって笑顔だった。

悲しい顔をしたことがない。

彼女は、死後もロウムやリアムを見守り続けてくれているのだろうか。

こんな時でさえ、笑うことの大切さを教えてくれているのだろうか。

それでも、なぜだろう。

いまのロウムには同じ表情を作ることができない。

ロウムはハッとする。

自身の頬に涙が伝っていた。

急いで拭う。

泣いている場合ではないのだ。

いまは、コバルトの意思を継いで守り続けなくてはならないのだ。

リアムを。リンを。村を。国を。

ニンゲンを。

ロウムの頭の中では、まだ励ますようにコバルトが微笑みかけていた。

ロウムは、笑おうとした。

でも。

どうしても、上手く笑えなかった。



戦争の準備は整った。

人類対テラー。 アスポロスンとデュカイオ両国による戦争。

ノンネームド・ウォーズ。

それぞれの思惑が交錯し、感情というもつれがとぐろを巻いているこの狂想。

果たして、どちらに運命は味方するのか。

そして、どちらが「人」であることを勝ち獲るのか。

歴史に埋没し、名を失うこと。敗者に待っているのは、文字通り滅亡だ。

勝者のみ名を刻み、繁栄を許される。それが自然の摂理である。

この救いのない世界に、終止符を打つのは一体誰なのか。

すべてを知るのは、最後にそこに立つものだけだ。

ついに、新たな物語の幕が開ける。

ノンネームド・ウォーズ。


開戦!






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